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#13 学校再編のつまずき②

前回の連載で紹介した事例の概要は次の通りです。図を参考にしながら読んでください。

現在の人口2万人強、小中学校児童生徒数1,200人ほどのX市(7小4中)では、2007年に市内4中学校のうち2校を統合する内容を盛り込んだ答申をまとめます。一方で学校内では、教員は報道等で間接的に知るのみでK教諭をはじめとする教職員は「置き去り感」を感じつつも、蚊帳の外で議論は進んでいきます。結局、保護者や地域住民の同意を得ることができずに、この統合案は「当面先送りする」との結論に至ります。

K教諭は2017年の4月から2年間教職大学院に派遣されることになり、大学院の研究テーマに学校再編を選びます。X市教育委員会の協力のもと、学校再編を担当する部署に教職員代表として参画させてもらい、4中学校の教職員の他、地域代表、保護者代表、行政、有識者などをメンバーとする「未来のX創造プロジェクト部会」を設置することを提案し、実現にこぎつけます。この部会では子どもたちの教育を、大人がワクワクしながら夢を語り合うことをキーワードに、新中学校ではどのような経験や仕掛けをデザインすればいいのかという具体的なアイディアについて現在も議論を重ねています。

1.「塞翁が馬」


「人間万事塞翁が馬」ということわざがありますが、結果論的に言うと、2007年時点で2校を1校に統合する改革案は頓挫してよかったのではないかと思います。というのも、現在のX市の小中学校の児童生徒数は一学年あたりの生徒数は大体130人・・・4クラス規模で、文部科学省の基準に当てはめれば標準規模の学校1校という計算になります。そして今後も児童生徒数の減少を続くとすると、現在4校あるうちの2校を1校に統合したとしても、小規模校の課題とはずっと向き合っていかなければならないことになります。

2007年時点の判断は見通しが甘かったと言えばそれまでですが、その背景には、学校再編は教育委員会にとって、「気の進まない改革課題」であるという事実が横たわっています。まず、学校再編はきわめて長期的な課題であるため、市町村であれば教育委員会内部に経験者は乏しく、多くの場合「未知の行政課題」であるからです。筆者の知るかぎり担当者が常に不安を抱えつつ、先行事例を探しながら手探りで検討を進めていく場合がほとんどです。また前回述べたように、この問題に関しては万人が喜べるような解決策が存在する場合は稀で、痛みを伴う地域が生じたり、下手をすれば教育委員会は地域住民からの恨みを買う結果になることすらあり得ます。

しかし、だからといって問題を先送りしてもいいことは何もありません。筆者の経験では各学年が単級になると、保護者も子どもの交友関係等の点で相当に不安を抱え始め、複式学級ができると問題はさらに深刻化します。また、校舎も老朽化するほどにその後の利活用は困難になり、他施設への改修等についても有利な条件を引き出すことが難しくなります。

 拙速な議論を避ける必要は言うまでもありませんが、近未来において小規模化による教育上の支障が想定される場合には、長期的視点に立った議論はできるだけ早く始めるべきであると筆者は考えています。

2. 改革チャンスとしての学校再編


学校再編はやっかいな問題ですが、考えようによってはチャンスととらえることもできるのではないかと筆者は考えています。学校のかたちが変わるというのは、未来社会に向けた新たな公教育のあり方を考えるための、またとはない機会になります。

特に近年では、同学校種間の横の統合だけではなく、小中一貫教育や幼少接続なども含めた縦の施設統合や接続強化も進んでいますので、従来の枠組みにとらわれない新たな教育形態を模索することも可能です。

そして、施設設備等の配置のみならず、教育のあり方も含めて学校づくりを考えようとするならば、そのプロセスに何らかのかたちで教員が参画することは不可欠です。しかし一方で、疲弊する学校現場のこと、「新しいことをやろう」と声を上げただけで眉をひそめられるのが多くの学校の実態です。だから教員の参画のためにはそれなりの工夫が必要です。

また、学校づくりの議論はカリキュラム等の「教育の中身」に流れがちですが、これだけだとどうしても月並みな結論に落ち着くことが多いように思います。学校再編の絡む改革では事が大きいだけに、新しいことに対する不安やリスクが強くつきまとうからです。

事例で挙げた「未来のX創造プロジェクト部会」は教員の参画を取り入れた上で、学校の通常の運営業務とも、また学校再編そのもの検討母体となる「統合準備委員会」等からもあえて切り離すことで、創造的な議論を促そうとしている事例です。新たな学校を構想する際には、教育の中身だけではなく、「新しい発想を生み出し、実現していける学校とはどのようなものか」という組織設計の視点も組み込みながら、学校づくりを考えてみてはいかがでしょうか?

今回のポイント

  • 学校再編の「検討」はできるだけ早めに!

  • 学校再編は新たな学校づくりのまたとないチャンス

  • 学校のあり方をデザインするためには、検討のための組織設計が重要




<次回に続く>

*このマガジンは2019年度に教育公論社の雑誌『週間教育資料』で取り上げられた連載記事を一部修正し、出版社の許可を得て掲載するものです。(著作権は教育公論社にあります)

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