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国益実現の方法論の選択

英国で労働党に政権交代、仏国で右派伸長抑止、米国では大統領選挙に向けた動きが本格化している。英仏は国際協調路線がやや優勢、米国は自国益優先路線のトランプ氏が優勢との情報もある。政権交代等は内政への不満などが契機となるが、国益実現の方法を選択することでもある。国益を正面から論じ、国民が豊かになる方策が望まれる。


国益重視は当たり前


国益重視は日本以外では当たり前であり、その方法論によって主張や政策の差異が生じる。民主主義諸国では選挙を通じて方法論の選択がなされる。権威主義諸国では形ばかりの選挙はあるものの、実質的な権力層が国際情勢と自国の国力に応じて方針を決めている。なお、国力は様々な要素が影響するが、国際政治の場においては軍事力、経済力が主要な要素と見做されるであろう。
国益実現の方法論は色々あるが、国際的協調を通じて国益実現を目指すのか、自国益を前面に出して他国と交渉するのか、が対立軸の一つとして挙げられよう。さらに民主的平和的な態度を前面に出すか、武力行使を辞さない姿勢を示すかといった切り口も被さってくる。なお、極端に片方の方法論に偏ることは稀で、大概はその間に位置し、情勢に応じて変化するのが通常である。

英仏は国際協調路線へ


民主主義諸国の政権交代は、大抵は内政、特に経済面での政府の失策への不満が契機となることが多い。その経済政策には対外関係を含むことが通常であり、関税や自由貿易協定等の国際貿易に関する取決め、移民や外国人労働者等の取扱い、経済安全保障の在り方、等々にも政権交代の影響が及ぶこともある。
7月4日の英国下院の総選挙では、選挙前は野党であった労働党が勝利し、政権交代が生じた。政権を担うことになった労働党は、ブレグジットから完全に決別してEU再加盟を目指すことはないと推測されるが、貿易などでの新たな協定締結などのEUとの関係修復を図ると考えられる。
6月30日に1回目の投票が行われたフランス国民議会の総選挙では、右派政党の国民連合が1回目の投票で首位となったが、7月7日の決選投票では左派連合が第1勢力となった。議会勢力が変わってもマクロン大統領が引き続き政権を担うので、劇的な変化とはならないであろうが、選挙結果は政策運営に影響を及ぼしていく事となろう。いずれにしても、国民連合が内政を担う形には当面はならないと考えられ、国際協調路線からの離脱はやや遠のいた。
11月に大統領選挙が行われる米国では、トランプ氏の優勢が伝えられることも多くなってきた。大雑把にとらえるならば、バイデン氏勝利なら国際協調路線継続、トランプ氏勝利なら自国益優先路線への転換と考えられる。ただし、それはあくまで経済政策の側面であり、「米中激突の行方-概説-」(2024年2月8日)で記したように米中覇権戦争は継続中で、安全保障面でのシーパワー諸国の協力強化については、トランプ氏も考慮するであろう。しかしながら、前回の大統領職を担った時と同様に、同盟国に難題を突き付ける懸念は残る。
 
図1:英仏米の国益実現の方法の傾向

注1:太字は直近の選挙での第1勢力。
注2:本図の関係は直近の情勢に基づくものであり、固定的では無く流動的。
出所:筆者作成

ついでながら、権威主義諸国の一角を占めるイランで7月5日に行われた大統領選挙では、欧米との対話を重視する改革派と言われるペゼシュキアン氏が当選した。ペゼシュキアン氏は、経済制裁の解除を訴えて選挙に臨んでおり、欧米との関係改善を目指すとみられる。最高指導者は引き続き保守強硬派と言われるハメネイ師なので、直ちに大きな変化があるとは思えないが、変革を期待する庶民の声がじわじわと政策に影響を及ぼすことを期待したい。
 
図2:地政学的に見た世界地図のイメージと現時点での国益実現の方法の傾向

出所:地政学に関する各種の書籍の記述及び各種報道をもとに筆者作成

我が国の目指すべき方向は


我が国も当然ながら国益実現を目指して、国際協調路線か自国益優先路線かの配分比率を決めていくべきである。しかしながら、現状の与野党は国益を正面から本格的に議論する姿勢が皆無に見える。一部の政治家に至っては、反国益に精を出し、売国奴と見紛う発言や行動ばかりという信じがたい存在もいる。
我々国民は、自分達自身の幸福増進、所得向上のために、もっと声を上げていくべきだ。投票に足を運ぶことはもちろんのこと、現在では首相官邸公式ウエブサイトのご意見募集欄、各政党の公式ウエブサイトにもご意見募集欄があるので、そこに書き込むのも良いと思う。例えば、キチンとした理由付での増税反対といった書き込みが多ければ、デモを行うよりもよほど効果があると推測される。現状では、一部の利権関係者が政治への影響力を行使し一般国民は割を食っているが、日本人は全体としてもっと幸せになれる潜在力・可能性があることを思い起こし、少しずつでも行動に移す時であろう。


20240710 執筆 主席研究員 中里幸聖


前回レポート:
マンガ・アニメの『聖地巡礼』-劇場版『名探偵コナン』の事例を中心に-」(2024年6月21日)


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