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「原油売り金買い」はワークするか?!

6/3、米5月ISM製造業景況感指数が市場の予想を下回り、2か月連続50を下回ったことで、米国の景気減速懸念から原油価格が急落した。一方、米金利低下・株安は安全資産である金の価格を押し上げた。今後、世界的な景気減速が契機となり、原油売りと金買いのクロスオペレーションがワークするか、解説する。


1.原油価格下落の供給面の理由

原油価格の下落要因として、上記景気減速に加え、供給超過懸念も出てきている。
6/2、OPECプラス(※)は市場の予想に反し、今年10月以降段階的に現在の自主減産を縮小していくことを発表した。これにより、原油の需給は緩和に向かい、世界全体の原油需給は、24年の供給不足から25年には供給超過に移行すると予想される。

(※OPEC(石油輸出国機構)の加盟国に加え、ロシアなどOPECに非加盟の主要な石油産出国で構成される組織)

2.サウジアラビアのジレンマ

サウジアラビアは、OPECプラスの自主減産日量386万バレルのうち200万バレル削減し、一国で大きな負担を引き受けてきた。その一方で、過去10年間、原油生産に年間数百億ドルの投資を行ってきたため、日量300万バレルに達する生産能力を遊休化する日々のコストが積み上がっており、その大きな供給能力を復活させるリスクが市場に常に垂れ下がっている状況にある。一方、生産コストの上昇により、サウジアラビアの財政を黒字化する損益分岐点がWTIで80ドルを超えており、図表1の通り、現在の75ドルを下回る状況が長期化することは、一層の財政悪化要因となろう。

(図表1 WTI価格推移チャート 右軸:単位 ドル Trading View提供のチャート)

3.世界の原油供給動向

OPECプラスに属していない米国とイランが、OPECプラスによる自主減産量を埋め合わせている。米国は23年に日量150万バレル増産して、生産量は過去最高の同1,350万バレルに達した。イランの生産量は、前年の日量300万バレルから390万バレルに増加した。

4.自主減産縮小の背景

サウジアラビアは、原油依存からの脱却を目指して経済の多角化を図っており、新都市計画など多くの大型プロジェクトに着手する費用を賄うには原油高の維持が必要である。しかし、アンゴラのように自主減産継続に反対して、OPECプラスから脱退した国もあり、OPECプラス内での結束を維持するのに苦労する状況に至り、今回の段階的な自主減産の縮小に動いた。

5.今後の原油価格動向の行方

11月の米大統領選挙にトランプ候補が勝利すると、化石燃料採掘への規制緩和に動くことが予想され、米国の原油生産が更に増加することが予想される。一方需要面を見ると、中国の景気減速に加え、米国経済にも減速の兆しが表れているため、原油は今後、供給超過に陥ることで、原油価格が大幅安になる可能性に注意する必要がある。

6.「原油売り金買い」はワークするか

金価格については、生産コストの上昇により供給制約が発生している一方、需要面では、中国を中心とするグローバルサウス諸国が、外貨準備における米国債の代替資産として金保有を増加させる傾向にある。また、中国の不動産・株式市場の低迷から、中国の個人投資家も金保有を増加させている。加えて、ウクライナ戦争の長期化や中東紛争の拡大懸念など地政学リスクの高まりを背景にした、安全資産としての金需要は世界の投資家に幅広く浸透しており、世界経済減速下での原油価格下落と金価格上昇に賭けるクロスオペレーションが活発化していく可能性に留意したい。

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2024年6月4日執筆 チーフストラテジスト 林 哲久







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