見出し画像

調整局面入りするのか、ドル円相場!

10月の米国雇用統計と消費者物価指数の鈍化を受けて、一時5%まで上昇した米国長期金利にもピークアウト感が出ており、足元、4.45%まで低下している。この動きに連動して、一時152円近くまで上昇したドル円相場も頭打ち感が出てきた。このまま、調整局面入りするのか、探ってみた。


1.米国経済指標から伺える米国経済の今後

米国の雇用統計では、非農業部門就業者数が15万人まで低下し、コロナショック以前の巡航速度での雇用者増の水準まで鈍化してきた。また、一時3.4%まで低下した失業率も3.9%まで上昇し、いわゆるサームルール(失業率が最低値から0.5%上昇すると景気後退するという過去実績)から判断すると、来年以降の米国景気後退確率が高まって来たとも言える状況に入っている。

2.米国長期金利の今後の展開

米国の根強いインフレや財政収支の悪化と、米国予算協議の行き詰まりを懸念した8月の格付け機関フィッチによる米国信用格付けの引き下げ(AAA→AA+)により、上昇傾向を強めていた米国長期金利も、上下両院で、来年初までのつなぎ予算法案が今週可決したことを好感して、米国債券市場に買戻しの動きが広まっている。来年以降の本予算可決については、共和、民主両党の溝が深く、円滑に予算審議が進むかどうかは予断を許さないが、2か月間の時間的猶予が与えられたことで、長期金利の上昇懸念は、市場の関心から一時離れることになる。

3.日銀の金融政策の今後の行方

先月の日銀金融政策決定会合において、YCC(長短金利操作)の更なる柔軟化が決定されたことで、日本国債に売りアタックがかけられる可能性は遠のいている。また、足元の米国経済の鈍化傾向に平仄を合わせるように、日本経済も第3四半期GDPが3四半期ぶりにマイナス成長に転落するなど、外需の低迷に加え、最近の物価高の影響から内需にも脆弱性が見られるようになってきた。こうしたことは、日銀による大規模金融緩和政策の解除を遅らせる要因となろう。

4.今後のドル円相場の行方

米国長期金利は、図表1の通り、5%で一旦天井をつける形となっている。米国経済指標についても、雇用の鈍化とインフレ鎮静化が顕著となってきたことで、更に4%程度まで下落してもおかしくない。今後、緩やかに日米長期金利差が縮小することは今年春からの一本調子に上昇を続けてきたドル円相場にとっても下押し圧力となる。しかし、その一方で、日本の貿易収支は、図表2の通り、今年に入ってからのエネルギー価格の低下や半導体供給の正常化による自動車輸出の回復を受けても、尚、趨勢的な赤字構造から脱却できない状況が継続している。
これに加え、日本の金融収支を見ると、図表3の通り、対外直接投資残高の伸びが昨今加速し、資本収支から経常収支を引いた基礎収支が赤字転落しており、日本を取り巻く為替需給は、昔とは様変わりの円余剰の構造に変化してきている。
また、昨年末とは異なり、米国のCPIは既に3%台前半まで低下してきており、FRBの目標とする2%に近づいてきている一方、日本の金融正常化の道筋もかなり市場に織り込まれつつある現状に鑑み、昨年末のような大幅なドル円相場の調整は想定し難く、図表4を参考にしても、せいぜい140円台前半までの調整と予測する。

(図表1 米国10年物国債金利推移チャート  Trading Viewからの引用)
(図表2日本の貿易収支推移チャート 右軸:単位 10億円 Trading Economicsからの引用)
(図表3 日本の対外直接投資残高推移チャート 日本銀行国際局からの引用)
(図表4 ドル円推移チャート 右軸:単位 円 Trading Viewからの引用)

前回の円相場の関連記事はこちら

20231117執筆 チーフストラテジスト 林 哲久


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?