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ポーランド新政権の厳しい船出!

8年ぶりの親EU(欧州連合)政権誕生を好感し、10月以降、対ユーロで一本調子に上昇を続けているポーランドズロチだが、前政権との確執から新政権の運営は、相当な難路が予想される。厳しいポーランドの政治対立の現状と金融市場の行方を占った。


1.ポーランド新政権内の確執

トュスク首相率いる新政権は、親EU、親ウクライナ支援政策を掲げるが、政権運営に関する拒否権を有するドウダ大統領が前政権側に属しているため、前政権が成立させた司法権への介入を正当化する強権的な法律の改正に拒否権を発動する可能性が取り沙汰されている。この法案を改正できないと、欧州委員会(EC)から凍結されている1,100億ユーロのEU補助金の支給がなされず、行政改革に必要な財政資金を入手することができなくなる。大統領による拒否権が発動されて下院に差し戻された場合、議席数の6割の賛成が必要となるが、新政権はその議席を確保できていない。その結果、現大統領の任期が切れる2025年までは、新政権が望むような政権運営が出来ない可能性が浮上している。

2.ポーランド国立銀行総裁との確執

ポーランド国立銀行(以下、中銀)現総裁も、前政権寄りの人物で、今年10月の直前2回の金融政策決定会合で、前政権を支えるため、想定外の利下げを実行したことで、同国のインフレ抑制を妨害したことが国益に反すると新政権側が、中銀総裁を起訴する方針を打ち出している。しかし、これはECB(欧州中央銀行)が定めた中央銀行の独立性を侵害するものとしてラガルドECB総裁が反対の姿勢を打ち出しており、中銀総裁も欧州司法裁判所に仲裁を依頼する意向を示している。

3.ポーランドズロチからユーロへ?

新政権は、EUとの一体性を深めるため、前政権とは異なり、現在の通貨ポーランドズロチを廃止して、ユーロ導入の可能性がある。3,700万人の人口を抱える東欧の大国ポーランドの政権運営の行方がEUの政治、経済にも大きな影響を与えるため、その行方が注目されている。

4.ポーランドの金融市場動向

親EU政権誕生を好感して、ポーランドズロチは、図表1の通り、対ユーロで一本調子で上昇しており、同国のインフレ率は、通貨高の影響もあり、6.5%まで低下してきている。しかし、中銀のインフレ目標の上限3.5%を大幅に上回っていることから、現行の5.75%の政策金利は当面維持されるものと思われる。一方、ユーロ圏のインフレ率は着実に低下しており、来年前半には、ECBは利下げを開始するとの見方が増えてきている。こうした状況は、ポーランドとユーロ圏との金利差拡大に繋がることから、ポーランドズロチは対ユーロでの堅調推移(ユーロ安/ポーランドズロチ高)を続け、コロナ禍前の高値4.20ズロチを目指す展開を予想する。一方、東欧の高金利通貨として、日本の個人投資家にも注目を集めつつあるポーランドズロチ円については、ドル円相場の下落により、図表2の通り、今月は上昇一服となっているが、ユーロ円の下落と比べると、大幅な下落は回避できており、新政権の政策進捗次第で上昇トレンドを回復する事も十分あり得よう。

(図表1 ユーロ/ポーランドズロチ推移チャート 右軸:単位 ポーランドズロチ Trading Viewをもとに筆者作成)
(図表2 ポーランドズロチ円推移チャート 右軸:単位 円 Trading Viewからの引用)

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20231215執筆 チーフストラテジスト 林 哲久


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