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中国不動産不況の日本経済への影響についての考察

今月に入り、中国最大の不動産開発会社碧桂園が社債の利払い不履行を起こし、恒大集団が米国における破産法15条を申請するなど、中国不動産会社の経営悪化が顕著となっており、今後の日本経済への悪影響の可能性を探った。


1.中国経済の苦境の現状

中国政府の7月の土地販売収入が19ヵ月連続で減少した。1-7月の販売収入は、前年比19%減の2兆2,875億元(3,131億ドル)に留まり、地方財政を一層圧迫する懸念が生じている。図表1の通り、中国のGDPに占める固定資産投資の割合が40%を超える経済下における不動産不況は、マクロ経済に与えるダメージが他国より大きい。また、融資平台という地方政府傘下の金融事業会社が恒大集団など不動産開発会社宛ての融資で焦げ付きを生じさせている状況を見ると、地方政府は、収入の減少と、保有資産の悪化という二重苦に陥っている。
また、恒大集団が販売して、物件を引き渡せていない戸数が72万戸に上ると言われており、個人の不動産購入余力も大きく棄損されている現状がある。

(図表1 中国の固定資産投資のGDPに占める割合チャート CEICからの引用)

2.中国人民銀行の対応

こうした不動産不況を受け、中国人民銀行は、図表2の通り、1年物の最優遇貸出金利を0.1%引き下げたが、引き下げ幅が市場の予想を下回ったことや、5年物最優遇貸出金利も引き下げ予想であったのが、据え置かれたことを嫌気して、上海株式市場は一時急落した。
中国政府は、本来であれば、思い切った金融緩和を実施したいところであるが、足元の人民元安を受け、大幅利下げが、中国からの資本逃避を招く事態を恐れており、追加利下げもままならない苦しい状況に追い込まれている。

(図表2 中国1年物最優遇貸出金利推移チャート Trading Economicsからの引用)

3.中国政府の対応

中国政府は、図表3の通り、今後も行き過ぎた人民元安を回避するために、1ドル7.3人民元を超えた水準で、断続的にドル売り元買い介入をすることで、過度な資本流出を回避するものと予想する。また、本来であれば、リーマンショック時のように大規模な財政出動により、景気刺激を図りたいところであるが、現状では、当時と異なり、景気減速により税収の伸びが鈍る一方、急速な高齢化による社会保障費の増大により、25年の財政赤字が21年の2.3倍となり、10兆元を超える見通しとなっているため、以前のような大規模な財政出動は困難な状況にある。
また、金融機関も、これ以上の延滞債権の発生を恐れ、新規の貸し出しには慎重姿勢となっており、今のところ、デフレスパイラルへの有効な対応策は見いだせていない。

(図表3 ドル人民元推移チャート Trading Economicsからの引用)

4.世界経済への影響

中国の景気失速は、アジアオセアニア地域の景気押し下げ要因となっており、中国への輸出に依存するオーストラリアドルやニュージーランドドルが急落するなど、為替市場にも影響が出ており、また、原油価格を押し下げるなど商品市況にも悪影響を与えている。
一方で、中国の不動産セクターへの海外からの融資は限られており、リーマンショックのような大規模な金融ショックが世界に波及するリスクは少ないと思われるが、現在の中国の経済不況が、土地利用権の販売という偏った財政収入に依拠した経済であったため、一旦行き詰まると、構造転換が難しい状態にあり、不動産不況が長期化する懸念がある。

5.日本経済への波及動向

日本との経済関係においては、先月の日本からの対中輸出が減少したことで、月間の貿易収支が円安にもかかわらず赤字転するなどの影響が出ている。その一方で、中国国内での投資機会が減少する中、中国資本が、割安で安全な日本の不動産購入を進める動きが見られ、都心のマンション価格を押し上げる要因の一つとなっている。
また、足元では、米中対立の激化により、経済安全保障の観点から、中国経済への依存を減らす取り組みが、日米欧の間では活発化しており、日本国内で半導体生産を強化するなど、国内への投資回帰の動きが増加している。しかしながら、日本の最大の貿易相手国が中国である現状には変わりなく、中国向けの売り上げの多い企業を中心に悪影響を受ける可能性はある。
一方、中国からのインバウンド復活への期待も高まっているが、中国の株式市場の低迷を見ると、以前のような爆買いを期待することは難しく、当面、日本経済への好影響は限定的と思われる。

前回の中国特集はこちら

20230823執筆 チーフストラテジスト 林 哲久


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