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世界の「2024年10大リスク」TOP3から読み解く金融市場の行方?!

米調査会社ユーラシア・グループが1/8発表した世界の「2024年10大リスク」TOP3に着目し、筆者見解として当該リスクが金融市場へ与える影響について解説する。

(図表1 出典:ユーラシア・グループ )

1.10大リスクの1位は、「米国の敵は米国」

11月の米国大統領選挙に向けて国内の政治的分断が悪化し、米国の民主主義が危機に瀕するリスクが挙げられている。民主・共和両候補の政策の相違も鮮明で、もしトランプ候補が勝利すると、ウクライナ支援など国際協調の枠組みから離脱し、NATOからの脱退も取り沙汰されている。経済面では、中国からの輸入を段階的に停止するなど、対中強硬路線を鮮明にする可能性がある。

2.10大リスクの2位は、「瀬戸際に立つ中東」

現在のイスラエルとハマスによるガザ地区での戦闘が拡大し、ヒズボラ、フーシなど親イラン、シーア派武装組織を中心に中東全体を巻き込む地政学的な分断に発展することで、中東紛争が長期化するリスクが挙げられている。

3.10大リスクの3位は、「ウクライナ分割」

西側諸国からのウクライナ支援が滞り、ウクライナの反転攻勢が行き詰まり、次第にロシアが現状の占領地域を既成領土化し、事実上の領土の割譲が行われることで、実質的にウクライナが敗北するリスクが挙げられている。

4.今後の金融市場への影響

米国で政権交代が行われ、トランプ大統領が誕生すると、米国の孤立主義政策が鮮明となり、親イスラエル政策だけに特化する偏った外交政策が志向される可能性があり、イランを中心とする反イスラエル勢力との対立が激化するリスクがある。こうした地政学リスクの高まりは、原油価格の高騰を招くだけでなく、安全資産としての金への資金流入が加速する公算が大きくなる。図表2の通り、金価格は、昨年史上最高値の1トロイオンス2,100ドル台半ばを付けたが、今年は世界情勢の急変次第では、更に上伸し、2,200ドル台に乗せる場面も出てこよう。
また、トランプ大統領になると、前回の在任時に対中関税の大幅な引き上げが実施された実績があるため、現状の対中半導体輸出規制だけでなく、更なる輸入関税の導入に踏み切る可能性もあり、保護貿易主義的な経済政策を採ることで、周辺国との貿易摩擦の深刻化を招く公算が大きく、米国の物価の上昇から、米国金融市場がトリプル安(株式、債券、為替)に直面するリスクがある。
更に、EUに目を向けると、今年後半は、ハンガリーがEU理事会議長国になる順番となっており、ウクライナ支援に後ろ向きなオルバン首相がEU理事会議長国首脳に就任すると、EUによるウクライナ支援が滞るだけでなく、ウクライナのEU加盟も進捗しなくなるリスクがある。もし、ウクライナが孤立し、対ロシア戦争において敗北する事態となれば、欧州における地政学リスクが一気に高まり、永世中立国であるスイスフランが逃避通貨として選好されることになろう。過去2年多額の外貨準備高の評価損失により、赤字決算を強いられたスイス国立銀行によるスイスフラン買い介入が今年も継続される蓋然性が高いことを考慮すると、図表3の通り、更なるスイスフラン高が対主要通貨で進行すると想定される。
今年は、世界中で選挙イヤーとなることで、政権交代による政策変更リスクが金融市場を大きく変動させる公算が大きく、予期せぬ金融市場の変化には注意が必要となろう。

(図表2 金価格推移チャート 右軸:単位 ドル Trading Viewからの引用)
(図表3 ユーロ/スイスフラン推移チャート 右軸:スイスフラン Trading Viewからの引用)

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20240112執筆 チーフストラテジスト 林 哲久


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