ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(18) 2020/3/20(和訳)

話 ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ

2020/3/20

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先週は急速な進展でした。  新型コロナ関連のニュースの主要内容も、経済的なダメージについてが占める割合が高くなっています。  ドイツだけではなく、ヨーロッパ諸国でも未曾有のシチュエーションです。 外出禁止令の可能性も既にタブーではなくなっています。 このような対策は全て感染拡大を防ぐために打ち出されているものですが、国民の間には不安も広がっています。   すべての不安を取り去ることは出来ませんが、冷静な判断と全体像の把握に役立つ情報を、今日も、ベルリンシャリテのウィルス学教授 クリスティアン・ドロステン教授に伺います。 聞き手は、コリーナ・ヘニッヒです。

以前の回で、喘息と感染時のケアについての話題が出ましたが、その後で、慌てて病院に電話をかけたリスナーがいたそうです。 あの場では、喘息患者はステロイド系スプレーを使わないほうがよい、というアドバイスではなかったと思うのですが。

先週お話ししたように、きちんとした治療を受けている場合は、何も変えることはありません。 ただ、感染症状が進んだ際に、コンディションが良くない患者は(喘息の)症状が悪化する可能性が高い、という指摘でした。

突然の悪化ですね

そうですね。持続する症状の悪化です。 先週、お話したのは、かかりつけの医師に相談する必要がある、という事でした。 肺機能を保つことはとても重要なので、適した治療をうけている人は治療内容を変える必要はありません。 感染に備えて肺機能と肺免疫がきちんとされている事が大切なので。

呼吸器系の病気には、大気汚染も関係がある、と言われていますが、この要素も、SARS-cov-2ウィルスに関係がありますか?  北イタリアの大気汚染もかなりのレベルだと思うのですが、、

その事については、色々な憶測が飛び交ってはいますが、、、、それよりも重要なのは、、、喫煙です。  なぜ、男性の感染者率の方が断トツに高いのか、という事に関してはまだはっきりとしたことはわかっていませんが、、、中国でも、男性の喫煙率が高いですし、ー感染者の年齢層も、長期間に渡って喫煙をしてきた年代である、というところにも関係があるでしょう。 そして、この年代の男性で、心臓や循環器に疾患を持つひとも多いです。 これらの要素も要因のひとつだと思います。

タバコをやめる良い機会ですね

タバコはやめる機会はいつでも良い機会ですが、今、特に良い機会でしょうね。

空気について続けますが、、、エアコンディションについての質問が多いです。 エアロゾルが空気中の漂う時間などは先週にお話いただきましたが、、、豪華客船などの例をとっても、、このような研究はされていますか

していません。この分野の研究をしているグループもありますが、私達の研究所的には、あまりにも技術的にですし。  1時間のうちにどの位の体積の空気の交換をするか、など、エアコンディションや高機能な空気清浄機の性能などから考えると、感染予防に良い影響は与える可能性はあっても、悪影響はないでしょう。  エアコンをつけていると風邪をひく、という人もいますが、ここにはそのような関係性は見出せませんし、科学的にも説明できません。 そして、私は技術者ではありません。

それでも、高機能なエアコンディションは、頻繁に空気を入れ替えるのと同じような効果が得られる、ということですね。  ウィルスの空気中の濃度を下げる、という意味でも

そうと言えます。

解釈には注意深く、と常に指摘していただいていますが、、、、質問が沢山届いています。  ドイツは 他の国にくらべて、感染者数に対して死者数が少ないと思いますが、これは、他の国では軽症者の検査数が少なく、感染者数にカウントされていないから、という事なのでしょうか。それとも、他の理由がありますか。

そうですね、私的には、それが理由だと思います。 実際に、検査数は他の国に比べてとても多いです。    じゃあ、これから死者数が増えて、結局は他の国と同じような死亡率になっていくのではないか、という意見もありますが、、、それはないでしょう。   どこの国でも、もう検査が追いついていません。 (診断環境が整っていた)ドイツでも同じです。 これからは、厳選して検査していかなければいけないでしょう。  疑惑があったとしても、全てを検査する事はできなくなってくるでしょうね。  感染が爆発していますから。   これから、統計的にドイツとイタリアとフランスが真ん中くらいで落ち着くのではないか、という見方もありますが、いまからしばらくの間は先がみえない状況が続くでしょう。                                            いまのところ、ドイツではかなり現実的な感染者数の把握がされています。 莫大な数の検査が行われているので、死亡率が低いのですが、こちらのほうが、他国で割り出されている死亡率よりも現実的だと思います。

入院率についてです。   感染者の何%がCovid-19で入院することになるのか、、、これも、注意深く解釈しなければいけませんが、、、SNSなどで、入院した患者の多くの年齢が、45歳以下、と若い世代のようだ、という情報が流れています。  集中治療されている年齢層が、今まで言われていた高齢者ではなく、若い年齢層なのでしょうか

それは初耳ですね。 この情報が何処から出てきたのか、というのもわかりませんが、病院側の受け入れも地域によって異なります。 まだあまり感染者が出ていない地区の病院であれば、隔離目的での入院も可能ですが、感染者数が多い地区では、重症者のみしか受け入れられないでしょう。 といった理由もあるので、ドイツ国内の状況を正しく判断する事は難しいと思います。

信憑性もソースも不確かな場合が多いと思いますので、このような数や統計には注意を払わないといけない、ということですね

そうです。 このようなことからは、いまのところ何もわかりません。  疫病のシミュレーションでは、想定として数値が計算されますが、その場合は、予想的な数ですから意味合いは違います。   例えば、中国の統計数値などに注意をしなければいけません。 何故なら、武漢の(特殊な)データが含まれていたりするからです。 はじめの方は初期症状でも入院させられたり、その後は全く入院が出来なくなったり、、、と、そのような状況からは歪んだ数値しか出せないでしょう。 

シャリテ内の研究所では、ウィルスのゲノム配列の分析が行われています。 全国から送られてくるサンプルから、理想的に言うと、遺伝子的に感染経路を割り出すことが出来ると思うのですが、まだ、この作業は続けられていますか? それとも、感染の規模が大きくなりすぎて、もうそのような分析は不可能でしょうか。

分布図をみてもわかるように、地域的に集中しているところがあります。 このウィルスはラインラントからだな、これは南ドイツだな、など。 その他には、ルーツ的なカテゴリーわけで、 遺伝子の系統樹的な違いです。これは、ドイツ全体で分析します。

もうすでに、(ドイツ国内で拡大しているのは)旅行先から持って帰ってきたイタリアルーツのウィルスだけではない、ということですね。

そんなに簡単なものではなくなってきました。

リスナーも知りたいところですが、これ以上増えたら、経路や分布の把握ができなくなる、という限度があるのでしょうか。

もうそろそろ、すべてのウィルスのシークエンジングが出来なくなってきています。  ドイツ全国から送られてくるサンプルが何十箱もありますから、それを分析したら、大体の全体像の把握は出来るのではないかと思っています。   それ以上は、、、(ウィルスが)広範囲で混じっていきますから、、あまり意味がなくなっていくでしょう。  それまでの、その地区ごとのウィルスの分布、経路、などを把握することが目的の分析から、 ドイツで循環しているウィルスのゲノム分析をして、その安定性を調べる段階にうつしていきます。  そのためには、引き続き、一定の数のウィルスのシークエンジングをしなければいけません。  ゲノム配列の何処かに突然変異はおこっているのか、その変化には重要な意味があるのか。 もし、そうであれば、ラボで検査しなければいけませんし。 これら全てが時間がかかる作業です。

先ほど、何十箱もサンプル、とおっしゃいました。 このポッドキャストのリスナーは、シークエンジングとは、どのような検査なのか興味があると思うのですが、、、、まだ試験管などで検査されるのか、それともデジタル化された作業ですか

試験管での検査される作業工程も沢山あります。 まず、陽性を確認する検査、そして、そのあとで、シークエンジングが行われます。  検査の前に、新しく処理し直おされますが、それは、ポリメラーゼ連鎖反応に必要な核酸と、シークエンジングに必要な核酸の処理方法が異なるからです。  分子生物学的な作業はどちらかといえば地味な作業です。 他の作業との区別はあまりつかないでしょう。 少量の液体をピペットで採取して機械に入れます。なかで何が行われているのかは(外からは)みえません。  笑                                                                                                シークエンサーには2種類あって、大きなシークエンサーは週に2〜3回使います。これは研究所内ではなくて、別のシークエンジングセンターにありますが、もう一つの小さなほうは、速攻で検査したい時に使うシークエンサーで、例えば午後に届いたサンプルを明日までに検査したい、というような時に使います。 最近、緊急時の検査をしたのは、ミュンヘンの(第一次感染者)の時や、イタリアのウィルスが入ってきたとき、などです。 あの時は、イタリアのウィルスのゲノム配列はまだ分析されていませんでしたから、速攻で検査されました。  この時には、また違った検査法を使ったのですが、PCR方法で、ポリメラーゼ連鎖反応のいくつもの長い配列を取り出してシークエンジングする方法です。  かなり小型化されていて、ディスクレコーダーくらいの大きさのシークエンサーです。

今週の大きなテーマは免疫でした。 これもかなりの数のリスナーが知りたいところですが、免疫ができたら、、、いまのところ、免疫ができる、ということを前提にお話していますが、免疫ができたら、そこからは感染しないのでしょうか。 例えば、手から、、、接触感染などはしませんか。

症状が落ち着いて完治した時のウィルスが増幅したり感染力を持っている、ということはないでしょう。  

喉で増殖する、などですね

そうです。 可能性としては、まだラボでの検査でウィルスは検出はされるかもしれませんが、感染、という意味では、心配いらないでしょう。  もちろん、まだ臨床検査がされていませんが、それには、まだもう少し時間がかかります。                                  もう一度言いますが、猿で実験した免疫実験では、完治して免疫の出来た猿に100万個のウィルスを気管に直接入れましたが再感染はしませんでした。 このウィルス濃度は大変高い濃度です。   もちろん、猿は人間ではありませんし、人間では違う反応が出るかもしれませんが、他の例から見ても、、、、喉にも肺にもウィルスがあったのにもかかわらず無症状で完治したひとたちがいて、その状態からみても、確かな免疫反応が認められると思われます。

ウィルスが増幅していることが感染条件には必然なのですね。

そうですね。そうでないと感染するに至りません。かなりの数での増幅があり、それなりの高濃度になった液体を咳と共に放出しないといけないので。

このポッドキャストはすでに、科学ドキュメンタリーシリーズのようになっていますが、(リスナーの)ウィルスについての理解も日に日に深まっていると思います。     先生も、いろいろな予測を訂正したり、想定し直したり、という作業をされていますが、 新型コロナウィルスが、それまで想定されてたよりも、気温の上昇に影響を受けない、ということに対して、 生物学的に理由は説明できますか。

(気温の上昇によっての)小さな影響はあるとは思います。  風土病としてのウィルスは基本的には、温度の上昇と感染力が反比例します。   風土病とは、そこの地域で広範囲で常に存在するウィルスのことですが、それらのウィルスにとって暖かくなると2つ困ったっことがおこります。                                                         一つ目は、時間的な問題。 集団免疫が出来てしまう、ということ。2つ目は、夏に、 社会的距離ができるのと、太陽光(紫外線)、温度、乾燥、、、これらの条件はウィルスにはよくありません。 これらの条件と集団免疫が重なったときに、感染は終息します。  例えば、インフルエンザ、とかですね。 この季節的な流行のインフルエンザと、パンデミックのウィルスとを比較してみると、どのくらい阻止できるのか。   あまり抑える事は出来ませんが、多少の影響はあるでしょう。            このような計算はできますし、もう計算してあります。 その数値を以前ここで使ったと思うのですが、、、そこでは、(夏に) * 0,5ポイントのR0数値の減少が見込める、ということです。

R0とは、基本再生産量、1人から何人が感染するか、という数字ですね。

そうです。それが、この想定値ですが、それによると、夏までには、R0は、1以下にはならないだろう、という結果がでています。

最後に、外出禁止令についてお聞きします。 これは、政治的な決断ですが、学術的にみて、この外出禁止を都市や州で実行した場合、どの位の期間継続して続けなければいけないのでしょうか。 効果が出るまで実行期間など、なにかありますか。

それは、、、難しいですね。 外出禁止は、並行して実行されている対策の一つでしかありません。  学校閉鎖、社会的距離、自宅隔離、集団隔離、家族などですね、感染者の濃厚接触者に割り出し、、、、など、これら全てをあわせての対策ですので。  そこに、外出禁止を加えた時に、どの位の効果があるか、、、ということは、どこにもデータはがありません。  ドイツにもないですし、世界中のどこにもまだないのです。      シュミレーション、水曜日にお話したと思いますが、イギリスのシュミレーションですね、そこでも、外出禁止は入っていませんでした。         外出禁止がどのくらいの効果があるかは不明ですが、今現在の対策、自宅待機、自主的なですね、それが守られないのであれば、、、、政治的な決断として、外出禁止、という禁止令にしなければいけないのです。    このような政治的な決断には、状況の印象、というのも重要なポイントです。 一人一人が認識している印象、ですね。 これも、政治的な決断に影響します。  これを、データがない状態で決めることは難しい。 専門家が想定値を2〜3週間後にだして、外出禁止を加えた際の効果度がみえてきたら、、、決断しやすくなるかもしれません。                 例えば、学校閉鎖をやめたとしたら、全部だけだはなくても、高学年だけ再開する、など。そうした場合に何が起こるか、などというシュミレーション計算をすることはできます。  この際に、リアルなデータ、数値があればあるほど、正確にわりだせます。   それを、来週にしなければいけません。  そして、それを元に、イースターのあたりで、対策の見直しと改善をすべきだとおもいます。   長期的にみて、効果の見直しをせずに、対策だけをどんどん厳しくしていっても意味がないです。    今の時点での対策で十分なのか、足りないのか、そのような見極めをするには、バランス感覚が必要です。   そのためにも、受け取る印象はとても重要です。  
私の印象は、ウィルス学者としてではなく、個人の印象ですが、、、、私は毎日自転車で通勤していますが、、ここ3日のうちに、周りの意識も変わってきた印象を受けます。 メルケル首相の呼びかけも効果があったのかもしれませんが、状況の深刻さが伝わったように思うのです。    そして、今日の午前中に、明らかに道を歩く人がいなくなっていました。 ベルリンの中心街で、です。 このエリアは通常であれば、沢山のひとがいますし、夜などはビールを片手にたむろする若者で溢れているのにです。  それ以上に気がついたのは、、観光客がいなくなったことです。カフェに入っていくような観光客の団体がいませんでした。  歩いていたり、自転車に乗っている少数の人たちは、きっと重要な仕事にむかっているのだな、というひとたちだけ。    勿論、車は走ってました。 でも、それも圧倒的に少なかったです。普通ならラッシュアワーの午前8時、8時半に、です。 夜はがらん、としています。    今日、この変化を実感しました。

先週末は、お子さんと一緒に公園に行かれた、とおっしゃってましたが、多くの公園が現在閉鎖されています。私も3人子供がいますから、子持ち代表としてお聞きしますが、、、、新鮮な空気はどのように調達すればいいでしょう

窓を、、、開けたら良いのではないでしょうか。

外にはでない、ということですね

今現在、*外出禁止にはなっていませんし、外に出ること自体が悪いのではなく、人との接触を制限すれば問題ないでしょう。集団で集う、とか、、、    例えば、ジョギングはまったく問題ありません。  スポーツは大切です。 精神的に安定もしますし、2日か3日に一度、30分走るメリットを、発見する人も多くなるのではないでしょうか。 ここでの直接な接触はおこりませんから。   その他にも、距離を保てば問題がないことは沢山あって、家族が家族だけで、他の人との接触がない状態で外にいても、 疫病学的には自宅と状況が同じですから問題ありません。 私は個人的にはすぐに外出禁止令が必要だ、という側ではありません。  もうすでに、多くの人が自主的に防止策を実行しています。  もしかしたら、もう少し時間が必要かもしれません。 とはいっても、政治的な決断には、違う要素と印象が関係してきますから、、、これからどうなっていくかは、、、私にもわかりません。  外出禁止令が必要だ、という意見を持つ政治家も多いですし、週末にまたアドバイザーとして会議に出席する予定になっています。

今週も長い週でした。2日間ポッドキャストはお休みですが、また来週の月曜日によろしくおねがいいたします。 ありがとうございました。

(* 現在のR0値 R0:3  編集者注)

(**3月20日正午、マルクス・ゼーダーバイエルン州首相が外出禁止令を発令  編集者注)

ベルリンシャリテ
ウィルス研究所 教授 クリスチアン・ドロステン

https://virologie-ccm.charite.de/en/metas/person_detail/person/address_detail/drosten/









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