コーヒーの味は精製方法で決まる――ナチュラルとウォッシュドについて
コーヒーの味を決めるのは、産地や品種だけではありません。
精製方法の影響も大きいです。とても大きいです。
たとえば、コピルアックって知っていますか?
ジャコウネコのウンチから取れるコーヒー豆です。
人間が精製する代わりに、ジャコウネコが精製しています(食べて出しています)
すごく美味しいということで、めちゃめちゃ高値で取引されています。
カップ1杯で数千円するコピルアックですが、コーヒー豆は普通のものです。
ジャコウネコが選り分けているという意味では特別ですが、
普通のコーヒー農園に普通に生えているという意味では普通です。
違いは精製方法です。ジャコウネコが精製するだけで、同じ産地、同じ品種のコーヒー豆でも味が(値段も)全然変わるのです。
そんな精製方法のおはなし。
コーヒーの精製方法は、味にどういう影響を与えるか
タイトルにある「ナチュラル」と「ウォッシュド」というのは、コーヒーの代表的な精製方法です。
難しいことは後回しです。
まずはその2種類が味にどういう影響を与えるかを見ていきましょう。
ナチュラルとウォッシュドを飲み比べると全然違います。
あとで実際に飲み比べますが、ほんとに違います。ワインと日本酒くらい違います。
たとえば、「ルワンダコーヒーは綺麗な酸味が特徴」なんて聞いたことありませんか?
それは、おそらくウォッシュドに限った話。
ナチュラルの場合には、ルワンダコーヒーでも事情は少し違います。
ナチュラルは熟れたブドウ、ウォッシュドは綺麗な酸味
飲み比べます。
まずはナチュラルから。
最初に感じたのは、枯れた赤ワインのような熟成感でした。
ナチュラルはよく、ベリーのようだと喩えられます。
ブルーベリー、ラズベリー、それからストロベリー。
個人的にはフルーツ感よりも熟成感のほうが印象的です。
果物って追熟すると、酸味が引っ込んで黒糖のような甘みが押し出されますよね。そういうイメージです。
心なしアルコールっぽさすら感じられるので、さながらワインみたいです。
つづいてウォッシュド。
ウォッシュドは酸味が綺麗に出ています。
たとえるなら、ライムのようなイメージです。
さっぱりしていてクリーンで、爽やかな酸味。
ナチュラルのようなワインっぽさなど、もちろん微塵も感じられません。
カフェによくある「本日のコーヒー」って、たぶんこういう感じです。すっきりしていてみんな大好きな愛されキャラ。
一方のナチュラルを油断して飲むと、きっと戸惑います。
腰を据えてしっかりとカップと向き合いたくなるような味です。
味に違いが出るのはなぜ?
ナチュラルとウォッシュドのように精製方法が違えば、味も全く変わります。
それはなぜか?
焙煎する前の生豆です。比べると一目瞭然なのですが、ナチュラルの方が色が濃いですよね。
この濃淡に、秘密があります。
コーヒーの実って見たことありますか?
赤色とか黄色とか、フルーツっぽい見た目をしています。(そのまま食べると甘いです。というかそもそもフルーツです)
コーヒーの実から果肉を外して、タネの部分だけにします。それを乾かしたものが生豆で、その生豆を焙煎すると見慣れたコーヒー豆になります。
ナチュラルもウォッシュドも、コーヒーの実を収穫してカラカラに乾燥させる点では同じです。
ナチュラルとウォッシュドの違いは、収穫した実を丸ごと乾燥させるか、果肉部分を取り除いてから乾燥させるかにあります。
ナチュラルは、収穫した実を丸ごと乾燥させて、乾燥した後に果肉を取り除きます。
ウォッシュドは、収穫後すぐに果肉部分を取り除いて、タネだけにしてから乾燥させます。
勘の良いかたは気付くと思うのですが、
ナチュラルでは乾燥している間、ずっと果肉が付いたままになっています。果肉の成分がタネに大きく影響します。
ナチュラルで果実味を感じやすいのは、そのためかもしれません。
一方のウォッシュドは、収穫後すぐに(12時間以内くらい)果肉などを外してしまいます。
その時に大量の水で洗い流すのでウォッシュドと呼ばれているのです。
余計な風味がつかず、すっきりした仕上がりになります。
作り手から見たナチュラルとウォッシュド
ウォッシュドは大量の水を扱うための(少し近代的な)設備が必要です。
水を使って色々やる分、工程も複雑に感じます。
一方のナチュラルは分かりやすいです。
摘んできたコーヒーの実を丸ごと乾燥させた上で、脱穀機のような機械を使ってカピカピになった果肉を取り除きます。
こう書くとナチュラルの方が簡単(安価)そうに見えますが、一概にそうとは言えません。
実はウォッシュドでは、水洗いする過程で比重を用いてコーヒー豆を選別できます。
水で洗ってるわけなので、不純物もある程度は取り除けます。
乾燥前に果実を除去しているので腐敗などの心配も少ないです。
対するナチュラルは、基本的に人力で選別するしかありません。腐敗しやすい果実ごと乾燥させているので、よほど注意しないと質が悪くなりがちです。自然条件に左右されやすい側面もあります。
つまり。
ウォッシュドは安定的に高品質のコーヒー豆を作れます。農家さんにとっては嬉しいお話ですね。
ナチュラルは設備投資は少額に抑えられる一方で、高品質なコーヒー豆を作るためにはかなりの人手が必要になります。
ナチュラルはどうしても欠点豆が混ざりやすく、品質が下がりがちです。一貫してナチュラルは扱わない方針のバイヤーさんもいるくらいです。*
高品質なコーヒーが求められるなかで、ナチュラルは戦略的に選びづらい精製方法でした。
もっとも最近は、ナチュラル特有の果実感、熟成感を求める人も多いです。COE(Cup of Excellence:世界的なコーヒーのコンテスト)でも高評価を取るナチュラルも多く、一部はかなりの高値で取引されています。
需要が増えて買い取り価格も高まれば、ナチュラルを積極的に選択する作り手さんも増えるかもしれません。
もしかして、産地や品種よりも大きな影響
ナチュラルやウォッシュドをはじめとした精製方法はコーヒーに「dramatic effect」を与えるとされています。**
実際、精製方法の違いはかなり大きいです。
コーヒー愛飲者でなくとも、飲み比べると一目瞭然です。
かなり前ですが、初心者向けのカッピングセミナーに参加したことがあります。いろんなコーヒーをみんなで飲んでいたのですが、ウォッシュドのほうが断然人気でした。
「ナチュラルは玄人好みかもしれませんね」と講師のかたはおっしゃっていました。確かに飲み慣れていないと驚く味だと思います。
でもナチュラルには、ハマると逃れられない魅力があります。
機会があれば、ナチュラルとウォッシュド、ぜひ飲み比べてみてください。たぶんびっくりすると思います。
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*Maxwell Colonna-Dashwood [2017] "The Coffee Dictionary: An A-Z of Coffee, from Growing & Roasting to Brewing & Tasting," Mitchell Beazley.
** James Hoffmann [2018] "The World Atlas of Coffee: From Beans to Brewing- Coffees Explored, Explained, and Enjoyed: 2nd Edition," Mitchell Beazley.
▽ 参考映像(英語のみ)
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