トイレで立てこもり犯と出会ったらどうするべきかと自分がそうならないためのライフハック教えます
文明の発展で、我々の生活はとても便利になった。いつどこにいても誰かと繋がれるようになり。どこにいても仕事ができるようになり、どこにいても暇をつぶせるようになった。
動画、漫画、SNS、人とのコミュニケーション。その全ては、手の中にある一台のスマホに集約され、それさえあれば、何時間でも時間をつぶせるようになった。
僕もその恩恵を受けるひとりなので、そのことを否定するつもりはさらさらない。
毎日スマホでyoutubeを観て、誰かとくだらないLINEで盛り上がり、SNSをみて、バーコードアプリで決済を完了させる日々を送っている。
ただ、一つだけ。文明の発展によってもたらされた闇に物申したいことがある。
それが
「トイレに立てこもり犯が頻繁に発生しがち問題」だ。
先ほども、カフェのトイレに行こうとしたら、男性トイレの中に人がいた。
トイレは女子トイレがと男子トイレもが1つずつ。どちらも個室タイプで、誰かが入っている場合、出てくるのを待つしかない。
仕方なく、待つことにする。
高校生のとき、友達から紹介してもらった女の子とデートの日に30分待たされたあげく、会った瞬間に
「あ、あんまり好みじゃないかも。今日はお茶だけして帰るパターンでもいい?」と言われて以来、待つことに対するトラウマがひどい僕でも、さすがにトイレは待てる。
スマホでもいじって待つとするか。SNSを開くと、そこには宮古島で遅めの夏休みを満喫する後輩がいた。羨ましい。
「遅めの夏休み」
なんだか憧れるフレーズである。
夏休みを人とずらしてとるのって、なんか格好いい。
そんなことを考えながらトイレを待っているが、一向にトイレから人が出てくる気配がない。しかし、まだ待ち始めてから3分だ。十分な許容範囲である。
もう少し待つことにしよう。
そうだ、スケジュールアプリで、今後の予定を確認しておこう。今日は三連休の中日。誰かと食事の予定があったかもしれない。
スケジュールアプリを開くと、そこは何の予定もない空白の画面が広がっていた。虚無。
気を取り直して、トイレに意識を戻すと、まだ出てくる気配がない。かれこれ待ち始めてから8分ほどたった。そろそろ出てきてもいい頃である。
ちなみにさっきから、2人ほどの男性がトイレの近くにやってきては、苦虫を噛み潰したような顔をして立ち去っていった。
中からは物音一つしない。
トイレットペーパーを巻き取る音とか、放屁の音とか。何か一つくらいしてもいいものなのに。
やがて、僕の心に確信めいたものが生まれ始めた。
「これは、トイレ立てこもり犯だな」
文明の発展は、生活を便利にすると同時に、トイレ立てこもり犯を生み出した。
トイレ立てこもり犯とは・・・
「トイレで座った瞬間にスマホを取り出した結果、ネットの深みにハマり、トイレから仮想空間である異世界へと飛ばされ、トイレでの用は全て済んでいるはずなのに、トイレから出て来れなくなった者」のことをさす。
その結果、彼らは我々の尿意や便意を人質にとりながらトイレに籠城(ろうじょう)する。
「事件は会議室で起きてるんじゃない、トイレで起きてるんだ。」
青島刑事もびっくりである。
踊る大捜査線とはぐれ刑事純情派で、刑事のいろはを学んだ僕は、犯人の説得にあたることにした。
まずは、優しくドアをノックしてみる。
本来、ノックは2回であるが、ここは優しく3回だ。
異世界に飛んでいっているであろう彼を現実に引き戻すのは、就活戦線を想起させる3回ビジネスノックである。
立てこもり犯が、就活中の大学生であった場合、彼の頭には「就活」の二文字が強く意識されることとなり、現実を一気に突きつけられることになる。
立てこもり犯が、中間管理職のおじさんであった場合、トイレの中から「はい、どうぞ〜」の声が聞こえてくるはずだ。
中間管理職として弊社の二次面接を担当したことのある彼は、3回ノックに対しては「はい、どうぞ〜」と答える癖がついているはず。「パブロフの犬」ならぬ、「二次面接の中間管理職面接官」である。
とりあえず、説得を試みる前に犯人の身元を確認しておく必要があると判断した私は、3回ノックで相手の出方をうかがってみた。
ところが、犯人からはなんの反応もない。
たとえ、就活経験のない「大学在学中に起業して、そのまま会社を軌道にのせたゴリゴリの起業家」が立てこもり犯であったとしても、ノックに対しては何らかの返答をするはずだ。
こうなれば、強行手段にでるか?いや、しかし、犯人を刺激しすぎるのはよくない。犯人の身元がわからない以上、もう少し慎重に犯人との交渉を続けるべきだ。
私は、鍵が閉まっているドアノブに手をかけ、そっとドアノブを下におろし、軽くドアを押してみることにした。
まるで初めてトイレにやってきて、鍵がかかっているのに気づきませんでした〜(てへぺろ)という雰囲気で行為におよぶ。
ドアは固く閉ざされていたが、「ガツッ」と音を立てることには成功した。
すると、少しだけ反応があった。中で「ガタン」という音がしたのだ。
こうなれば、こちらのものだ。あとは、現実世界に戻ってきた犯人が、自らの良心の呵責(かしゃく)に応じて、とっとと用を済ませて出てくるだけである。
よかった。これで、強行的に突入する必要はなくなりそうだ。僕は犯人の投降を待つ。
ところが、犯人は「ガタン」と音を立てて以来、またしても動きをみせなくなった。1分経過しても、トイレの中からは物音が聞こえてこない。
まさか、この期におよんで、まだ立てこもり続ける気なのか?
その後、私も周囲に聞こえない程度の声で「母さんは夜なべをして〜♪」と歌ってみたり、カツ丼をウーバーイーツで頼むふりをしてみたり、犯人の要件は何なのか妄想してみたりしたが、全くらちが明かない。
これは?一体、何が起きているんだ?犯人の要求は一体なんだ?
もしかすると、犯人はトイレに住んでいるのか?
不動産屋とこのトイレを内見にきた誰かが、このトイレの内装をいたく気に入り、ここに住みますと伝え、賃貸契約を結んだのか。あの甲とか乙とか書いてあって、どちらが甲でどちらが乙かすぐに見失う謎の契約書にサインでもしたのか?
というか、そろそろ限界だ。だんだんムカついてきた。
この時の僕の頭の中では
「お前は何をトイレの中でくつろいどんだ?ここはカフェのトイレだぞ。カフェは、コーヒーを飲んで、くつろぐ場所や。なんで、自分の席でくつろがず、トイレでくつろぐんだ?カフェなんだからスマホは便器ではなく、自分の席で思う存分いじれるだろうが。」
というまあまあ的を得た悪態がこだましていた。
そろそろ、強引な交渉も視野に入れていかなければ。いつまでも甘い顔をしていられない。最終的には、ドアを蹴破ることも辞さない覚悟だ。
ドアを蹴破る行為が、良くない行為なのはよくわかる。
社会人として、カフェのトイレを蹴破ることとカフェのトイレ前で漏らすこと、その2つを天秤にかけたとき、どちらが後々の社会的制裁が大きいかは賛否両論あるところだとは思う。
ただ、こちとら社会人である前に人間だ。人としての尊厳を、こんなところで失うわけにはいかない。
というわけで、思いっきりノックして、思いっきりドアノブをガチャガチャしてやった。
「大人気ない」と思ったそこのあなた。
これは大人としての尊厳を守る行為だ。カフェのトイレ前で漏らすことは、「大人気ない」とかではなく「大人じゃない」行為なのだ。
さすがにこの交渉には犯人も大きな反応を見せた。中からけたたましくトイレットペーパーを巻き取る音がしたと思ったら、ドアの鍵が外される音がする。
あぁ、私は今ひとりの立てこもり犯の説得に成功した。無事に人質の解放と、犯人確保を達成できた。
とにかく何より、人質(膀胱だから膀質?)が無事でよかった。犯人は今後、自分の罪を認め、更生への道をしっかり歩んでくれることを願うばかりだ。
これがトイレ立てこもり犯説得の一部始終である。
皆さんも今後トイレ立てこもり犯に出会うかもしれない。その時は、この文章を参考に、冷静に対処して欲しい。決して、いきなり強めのノックはしないこと。
そして、皆さんが立てこもり犯になってしまわないことを切に願う。
最後に、立てこもり犯にならないためのライフハックを1つ。
「スマホの待ち受けを織田裕二か藤田まことにする」
現場からは以上です。
サポートしていただいたお金は、旅の資金に回し、世界のどこかであなたのことを勝手に想像してニヤニヤしたりなどします。嫌なときは言ってください。