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「神がつくった最後の秘境」でTシャツをなくした話

フィリピンには、神がつくった最後の秘境がある。それが、フィリピン西部のパラワン島というところにある「エルニド」という場所だ。


セブやボラカイとは違い、そこまで観光地化されていない。でも、海がまるでひすいのような色をしていて、最後の秘境と呼ぶにふさわしい場所であることは間違いない。少し深緑色した海がキラキラと太陽の光に照らされてゆれている。


そして、僕はそんな「神の最高傑作の1つ」ともいえる場所で、Tシャツをなくした。


エルニド3日目。僕と妻はアイランドホッピングツアーに参加した。

ボートに乗って、エルニド周辺の島を巡る。ラグーンに行ってカヤックをしたり、途中のポイントではシュノーケリングをしたり、ビーチでくつろいだりできるわけだ。

参加した時点では、僕の格好はTシャツに水陸両用の短パンだったはずである。写真を見返しても最初はTシャツを着ているので間違いない。どれだけ思い返しても、この段階でTシャツ型に日焼けもしていなかったし、筋肉をTシャツに隠れる部分だけ異様に発達させていたなんてこともないので、やはり間違いない。


ボートに乗り込みいよいよ出発。到着したのはビッグラグーンという場所。ここでは、カヤックに乗ってビッグラグーンの中を散策(?)できる。

周囲を切り立った岩山に囲まれたラグーンの中をゆったりとカヌーで進む。ただでさえ綺麗なエルニドの海水の色だけど、ラグーンの水の色はより綺麗だ。まるでバスクリンを溶かしたかのような(たとえに色気がなさすぎる)さらに緑にかたむいたような色をしている。

カヤックを漕ぐ手をとめて、自然の音に耳をすませる。場所によっては、人が多すぎて、人の声しか聞こえてこない場合もある。ビッグラグーンは、人で溢れていた。

カヤックから飛び込んでみる。透明度はそこまで高くない。太陽を受けてキラキラと輝く緑の水は上から見ているほうがいいということがわかった。収穫だ。


そんな風にこのアイランドホッピングのツアーは進んでいく。ビッグラグーンの次は、近くの島に上陸。砂浜でのんびりしたり、浅瀬でシュノーケリングを楽しんだり、ここではひたすらのんびりすることが求められている。

のんびりすることを強要されることは日本にいるとなかなかない。でも、ここではいやがおうにものんびりすることを強要される。僕らはもう強制されることでしかのんびりできないのかもしれない。だから、あえて砂浜で何もしない時間を作ってみることが大切なのかもしれない。

なんだ、この名セリフは。


いよいよお昼ご飯。準備をしている間、またカヤックで近くの海を冒険する。綺麗な海の色にはしゃぎすぎたのだ。僕はTシャツを脱いで、カヌーから海に飛び込み、ひとしきり泳ぎ倒した。


泳ぎ倒してからのお昼ご飯。他のツアー客がだんだんと仲良くなるのを横目に、圧倒的な人見知りを発揮して、妻と二人で静かに海を見ながらご飯を食べた。そうこうしているうちに、昼休憩は終わり、僕たちは次の目的地スモールラグーンへ向かう。

※ここから先はずっと上半身裸でお送りされています。


このスモールラグーンが素晴らしい。ビッグラグーンはその名の通り、ビッグなので、どうしても他のツアー客も同時にやってきてごった返してしまい、人でにぎわいがち。でも、スモールラグーンはその名の通り、スモールなので他のツアーの船はほとんどいない。あえて時間をずらしているみたいだ。

そうなるとスモールラグーンはとても静かな。もちろん、ツアーで一緒のボートになった観光客はいるが、スモールといえどラグーンだ。そこまで影響はない。

切り立った岩の中、本当にゆっくりと時間が流れる。カヌーの上で横になり、自然の音に耳をすます。鳥の声が聞こえる。水のサラサラ流れる音が聞こえてくる。これぞリラックス。リラックスofリラックス。全身が溶け出してしまうかと思うほどだった。いや、少し溶けただろう。しかし、お腹の脂肪は以前としてそこにあった。おかしい。


そんなリラックスタイムも終わりを告げて、スモールラグーンを離れ、シークレットラグーンと呼ばれる場所を周り、シュノーケリングポイントでひとしきりシュノーケリングをする。僕はシュノーケリングが好きすぎるので、シュノーケリングポイントでは誰よりも先に、海に飛び込み、ひたすら潜っては、浮上してを繰り返す。他のツアー客は、そこまでシュノーケリングには興味がないらしく、なんとなく海を漂っては、船に上がってぼーっと海を眺めている。

先ほどまで、誰とも馴染もうとせず、昼食の際も、海辺で妻と静かに食事をしていた男が、映画「マスク」のジムキャリー並みのテンションで、嬉々として海に潜っては浮上してを繰り返している。見ている側はぞわっとしたこと間違いなしだ。


そんな楽しいツアーも終わりを告げて、いよいよ船は帰路につく。出航したエルニドの港に戻る際に、ツアーガイドから声がかかった。

「忘れ物はないように。あと、今水着でいる人。エルニドの街中は基本的に裸や水着だけで歩くことは禁止されている。港につく前に服を着るようにしてくれよな。」


もちろんだ。私はケインコスギではない。池谷でもない。さすがに、「筋肉こそ一番のおしゃれです。」「服に着られてはいけない、服を着るんです。そのための筋肉なんです。」「腹筋がチョコレート!!」なんてセリフはまだ吐けない。とりあえずTシャツを着て、宿まで帰ろう。

しかし、Tシャツが見当たらない。座っていた座席の周囲にも、カバンの中にもどこにもない。おかしい。確かにお昼休憩前に脱いで、座席に放り出して、泳ぎにいったはず。でも、そういえば、それ以降一切目にしていない。


昼食時に人見知りを発動させていた時も上半身裸(上裸)だったし、スモールラグーンで自然を感じた時も、シュノーケルで狂ったように潜っては浮上してを繰り返していたときも上裸だった。

念のため、他の観光客が僕のTシャツを間違えて着ていないかも確かめる。もちろん誰も着ていない。疑ってごめんなさい。


どうやら僕は、どこかでTシャツを落としてきてしまったらしい。エルニドの海に大切なTシャツを。海を汚して(?)ごめんなさい。でもわざとじゃないんです。

それにしても、困ったことになった。先ほどのガイドの声がよみがえってくる。

「エルニドの街中は基本的に裸や水着だけで歩くことは禁止されている。港につく前に服を着るようにしてくれよな。」


うーん。予備のTシャツはない。これはどうしたものか。


結果、僕は胸元までバスタオルを巻き、女性タレントが銭湯に入るときのような格好で、エルニドの街を歩いて帰った。なんだか、これはこれで外を歩いてはいけない格好なのではないかと思う。でも、誰もそんなことは気にしていない。それも島のいいところだ。


それにしても、僕のTシャツはどこへ行ったのだろう?まだ、エルニド周辺の海を漂っているのだろうか?もし、エルニド周辺でぷかぷか浮いているTシャツを見かけたらご一報いただけるとありがたいです。そのためにも、ぜひ一度エルニドへ行ってみてください。


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