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エネチェンジ社が有報を提出、そのポイントとは?【監査ガチ勢向け】

SPCの会計処理を修正するため、有報提出が遅れていたエネチェンジ。上場廃止が危ぶまれていましたが、有報が提出されましたね。話題についていけるように、ポイントだけ押さえておきましょう。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

ENECHANGE社の有報がようやく提出されました。7月10日までに提出されなければ上場廃止になるところでしたが、1日前に滑り込み。
忙しい監査ガチ勢のあなたのために、重要なポイントだけお伝えします。



💡連結決算

(前期:前期有報、当期修正前:当期決算短信(修正前)、当期修正後:当期有報、内部統制は前期及び当期の内部統制報告書)

B/S、P/L

最大の修正点は、非連結だったSPCを連結したことです。
これにより、SPCに対して計上していた売上高が消去されることになりました。
当期(2023年12月期)の売上高が、修正後で22億円減っているのはこの影響と思われます。

当期純損失は修正によって38億円悪化しました。
次のような内訳になっています。

  • 売上総利益 10億円減少

  • 減損損失 16億円増加

  • 決算訂正関連費用引当金繰入額 9億円

売上総利益の減少は、売上消去によるものと思われます。
減損損失は、SPCに販売した機器が連結上も固定資産として計上されることになり、事業計画が未達のため減損したものです。

決算訂正関連費用引当金は、外部調査委員会による調査費用、決算修正のための支援費用、監査報酬などによります。

これらの結果、純資産はマイナスとなりました。

継続企業(GC)注記

債務超過になったこと、財務制限条項に抵触していること、外部調査委員会の調査によりガバナンスなどの重大な問題が判明したことから、GC注記が付されています。

一方、プラスの材料としては、2024年2月に新株発行による40億円の資金調達を実施していることです。

なお、提出された有報では、前期末現在でも財務制限条項に抵触していたと記載されていますが、前期の有報では触れられていないようです。
前期数値は修正されていませんので不思議ですが、事情は分かりません。


💡内部統制報告書

有報と同じタイミングで、3ページにわたる読みごたえのある内部統制報告書が提出されています。
開示すべき重要な不備ありとして「内部統制は有効でない」との結論です。

具体的には、

  • 統制環境、リスク評価・対応、統制活動、情報と伝達、モニタリングという広い範囲に全社統制の不備あり

  • 全社レベルの決算・財務報告プロセスにも不備あり

これを開示すべき重要な不備としています。


💡監査報告書

有報には、あずさ監査法人による11ページに及ぶ監査報告書(連結)が添付されています。(空白を差し引いても実質9ページほど)

監査意見は無限定適正ですが、GCあり、後発事象あり、内部統制監査の部には開示すべき重要な不備あり、と盛りだくさんの内容です。
しかし、この監査報告書の半分を占めているのはKAMです。

KAMとして次の二つが記載されています。

  • 経営者による内部統制の無効化リスク

  • SPCにかかる連結範囲の妥当性の検討

「経営者による内部統制の無効化リスク」は、どの監査でもデフォルトで特検リスクですが、エネチェンジ社の監査報告書ではヒリヒリするような真剣さが伝わってきます。
特徴的なところをピックアップします。

不正の存在を「認定」

「重要な虚偽表示の原因となる不正が存在したとの認定に至った」と明言されています。
監査表明に先立ち、「見解書」も作成して監査役会と社外取締役にも報告しています。

不正を認定した理由として、以下の2点を挙げています。
なお、この判断をする上で、「外部の複数の法律専門家の意見を聴取した」とのことです。

  • CEOがSPCの筆頭出資者に個人貸付を行っていたことを、取締役会や監査法人に隠蔽していた

  • SPCの出資者に認められたプット・オプションについて、出資者に対して行った説明を隠蔽し、監査法人には意図的に異なる内容の説明を行った

外部調査委員会の報告書とは異なり、「隠蔽」「意図的に」という強い言葉を使って不正を認定しています。

取締役会と監査役からの「宣誓書」の入手

不正の当事者である経営者の誠実性には期待できないので、通常の経営者確認書では不十分だと判断。
そこで、次の2種類の「宣誓書」を入手しています。

● 経営者が、経営者確認書において虚偽の陳述をするリスクに対応するため、各監査役による適切な是正措置が講じられていることを各監査役からの宣誓書の入手により確認した。
● 経営者確認書の信憑性の疑義はない旨の宣誓書を取締役会及び各監査役から入手した。

監査報告書KAM「監査上の対応」より抜粋
(太字は筆者による)

エネチェンジ社は監査役会設置会社ですが、「各」監査役からこれを入手していることは注目するべきだと思います。
監査役の独任制を前提とした対応かもしれません。


おわりに

忙しい監査人の皆さんのために、有報を見なくてもサクッと理解いただけるようにと思って書きました。
しかし、特に監査報告書はぜひ目を通してください。きっとさまざまな気づきがあると思います。

それにしても、関係者はおそらく昼も夜もない日々を何週にもわたって続けて来られたのだと思います。
すぐに次の期の第1四半期にかからないといけませんので気は抜けませんが、一つの大きな節目を迎えられたことは、これまでの努力の成果です。お疲れさまですね。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはX/Twitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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