セグメント情報のここ、間違えていませんか?
投資情報として重要なセグメント、意外と会計基準の理解が浸透していないのでは?
てりたまです。
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めました。
セグメント情報は、投資情報としてめちゃくちゃ大事な注記です。
例えば、楽天モバイルへの投資に社運をかける楽天。全社で赤字になっていますが、セグメント情報を見れば楽天市場や金融業での利益とは規模感の異なる損失を計上していることが分かります。
サイバーエージェントもABEMA TVへの投資を続けていますが、全社では黒字です。セグメント情報でABEMAを擁する「メディア」セグメントの赤字の規模が分かります。
このようにセグメント情報は会社の状況を理解するために必須で、注目度も高いのですが、足元をすくわれやすいポイントがいくつかあります。
忙しい方々のため、今回の内容をチェックリストにまとめます。読み進めていただく方は、飛ばしてください。
以下、次のように略します。
「基準」:企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」
「適用指針」:企業会計基準適用指針第20 号「セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針」
セグメント情報で間違えやすいポイント
地域ごとの情報
通常、地域別の売上高を開示していることが多いですが、会計基準の要求はちょっとイメージが異なります。(基準第31項(1))
国内の外部顧客への売上高に分類した額
海外の外部顧客への売上高に分類した額
2.のうち主要な国がある場合には、これを区分して開示
上記に加えて、複数の国を括った地域(北米、欧州等)に係る額を開示することもできる
つまり、まず「国内」と「海外」に分けた後、「海外」の中で主要な国があれば開示してね、さらに地域別の額も開示したかったらしてもいいよ、というわけです。
なお、主要な国とは、P/L売上高の10%以上を言います。(適用指針第16項)
この「主要な国」と「地域別」の主従が逆転してしまって、「地域別」しか頭にないことがあるので注意が必要です。
気が付いたら「(日本を除く)アジア」の中の「中国」が大きくなっていた、ということがよくあります。
なお、有形固定資産にも同様のルールがあります。
主要な顧客ごとの情報
「売上高の10%を超える相手先がないため、記載を省略しております」という開示が通常です。
これも「主要な国」と同じように気が付いたら大きくなっていることがあり、要注意です。
主要顧客の方が厄介なのは、名寄せの問題です。
同じ一社に対して、異なる事業部やグループ会社から販売している場合、そもそも合計でいくらになるか、把握が難しいことがあります。
さらに2023年3月に金融庁が公表した留意事項に、以下の記述があり話題になりました。
有報提出会社には金融庁から個別に文書が送達され、このような事例は投資家保護の観点から適切でないと注意喚起されています。
そもそも会計基準違反になる契約など結ぶな、ということでしょうか…
状況の変化への対応
主要な国、主要な顧客以外にも、買収によりのれんが発生したり、固定資産の減損損失を計上すると、セグメント別情報の開示が必要になります。
会計方針の変更も同様に要注意。
財務報告に何らかの重要な変化があれば、セグメント情報にどのような影響があるか、期中から検討しておく必要があるでしょう。
より基本的なポイント
実際に開示を検討するタイミングでの話ではないのですが、報告セグメントの決定について、検討が必要な場合があります。
マネジメント・アプローチ
現行のセグメント情報会計基準が「マネジメント・アプローチ」を採用していることは誰でも勉強することです。
マネジメント・アプローチは、売上高、利益などの財務数値を「投資家に分かりやすいように区分して開示する」方法ではありません。
経営者の視点で財務数値を見ることは投資家にとっても有用なはず、との仮説の下、「経営者が見ている区分で開示する」方法です。
経営者がグループ全体をどのように区分して見ているか、を起点に、事業セグメントを識別する必要があります。
実際に開示されるセグメント(報告セグメント)がダイレクトに決まることはなく、まずはこの事業セグメントが特定されます。
事業セグメントの集約
報告セグメントは、事業セグメントそのままのこともありますが、複数を集約したり、小さいものを「その他」にくくったりして決定されます。
集約基準の中に、「経済的特徴が概ね類似していること」(基準第11項(2))というルールがあります。これは適用指針では「長期的に近似した業績の動向を示すことが見込まれている必要がある」とされています(第8項)。
この例として、長期的な売上高総利益率(平均値)が近いことが挙げられています。
つまり、二つの事業セグメントが、似たような製品を、同じ製造ラインで作り、同じ販売先に同じ販売方法で売り、規制環境も同じであっても、経済的特徴が類似していると言えなければ集約できないことになります。
経済的特徴が異なるものが合算されると、財務諸表の利用者としては分析しづらいためと考えられます。
実はセグメント情報の会計基準は、日本基準、IFRS、米国基準でほぼ同じです。米国基準が先で、IFRSがほぼそのまま受け入れ、日本基準がまたそれをそのまま受け入れたためです。
IFRSや米国基準は「経済的特徴」の要件は箇条書きではなく本文に埋め込まれており、よく見落とされます。
日本基準はあえて箇条書きにしている分、親切だと言えるでしょう。
おわりに
財務諸表の注記の中には、誰が利用しているのかよく分からないものもありますが、セグメント情報は決算発表のプレゼンでもメインコンテンツとして登場する別格の存在です。
その割に、浸透していない部分があると思って、記事にしました。
日本基準でのセグメント情報が今の形になったのは2008年ですので、何を今さらwというリアクションかもしれません。もし一つでも「知らなかった…」と思われることがあるなど、お役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。
てりたま
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