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企業の「風通しが悪い」とは、こういうことだった!【内部統制&ガバナンス&監査ガチ勢向け】

世界に誇る「日本品質」のリーダーであったはずの自動車メーカー。ところが品質不正が相次いでいます。その内幕を探ると共通の問題が浮かび上がります。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

2023年12月20日にダイハツが品質不正に関する第三者委員会の報告書を公表しました。

日本の自動車メーカーの品質問題はこれにはじまったわけではありません。
2022年には日野自動車でもありました。

その前には日産自動車、SUBARUなどでも。
2016年の三菱自動車の問題は、その10年ほど前の度重なるリコール隠し問題を受け、徹底的な社内改革をしたはずのところに起こっています。

今回のてりたまnoteでは、この3つの品質不正の調査報告書(要約版)に基づいて、共通する問題を議論します。
自動車メーカーに限らず、これらは日本企業がおちいりやすい弱点を示唆しています。



3社の品質不正の概要

3社で何が起こったのか、軽く振り返っておきましょう。

ダイハツ(2023年)

2023年4月に海外向け車両の側面衝突時の安全性を確認する試験の認証手続きで不正があったと発表。
第三者委員会を立ち上げ、同年12月に調査報告書を受領、公表しています。

日野自動車(2022年)

2022年3月、日本市場向け車両用エンジンの排ガス及び燃費に関する認証申請において不正行為が発覚します。
特別調査委員会を立ち上げ、同年8月に調査報告書を受領、公表しています。

三菱自動車(2016年)

2016年4月、認証申請に使用する燃費試験データに不正な操作が行われていたことが判明。
特別調査委員会を立ち上げ、同年8月に調査報告書を受領、公表しています。


共通の問題❶ 組織の風通しの悪さ

この3社に限らず、不祥事が発生したときに「風通しの悪さ」はよく原因として挙げられます。
なんとなく「コミュニケーションがうまくいっていない」ことは分かりますが、具体的にどういうことなんでしょうか?

上席者の無関心によるコミュニケーション不全

管理職が認証試験の実務や現場の状況に精通しておらず、報告や相談を行っても認証試験の担当者が抱える問題の解決ができない状況が生じていたことから、現場サイドから管理職に報告や相談ができずに現場任せの対応になっていた。

ダイハツ工業「調査報告書(概要版)」P. 8
太字は筆者。以下同様)

現場の人が上司を頼れず、自分たちで判断するしかなかったということですね。
上司もそれをいいことに、あえて関与しなかったのでしょう。

本来は、経営陣も現場も、ともに同じ方向を向いて「いいクルマづくり」を目指す仲間である。しかしながら、経営陣は、現場に対するクルマづくりの「発注者」のような意識であったのではないか。現場はそのような経営陣の意識を感じ取り、声を上げなくなっていたのではないか。

日野自動車「調査報告書(要約版)」P. 39

上司を頼れない、という点では日野自動車も同様の状況にあったようです。

上席者の過剰な関与によるコミュニケーション不全

経営陣や上司から積極的にコミュニケーションをとっているのが裏目に出ることもあります。

日野においては、役員が必要以上に現場に口を出し、現場は委縮して判断や検討を放棄するという体質が生まれていたようにも思われる。

日野自動車「調査報告書(要約版)」P. 44-45

日野自動車では役員が出席する会議が多く、そこで詳細な報告を求めていました。その結果、現場は指示されたことしかやらなくなり、上への自発的な発言がなくなってしまいます。

また、「言い訳は認められない」というプレッシャーも3社に見られたようです。

MMCの開発本部では、全体的に、上司から検討を指示された事項に対し、「できない」と言うことが容易ではない風土ができていた。

三菱自動車工業「燃費不正問題に関する調査報告書(要約版)」P. 29

三菱自動車(MMC)では、開発目標が達成できない場合には幹部が理解、納得するまで何度もレポートするよう求められていました。結果として、できないと言わなくて済むように別の方法を探すことになります。それが不正であったとしても。

部門間の横のコミュニケーション不全

経営陣など上席者との縦のコミュニケーションに加えて、部門間の横のコミュニケーションにも問題がありました。
よく「サイロ化」と言われるやつです。

「自分や次工程さえよければよく、他人がどうあっても構わない」という自己中心的な風潮がある組織風土が、認証試験の担当者に対するプレッシャーや部門のブラックボックス化を促進し、リスク情報の経営層への伝達を滞らせる土壌となったと思われる。

ダイハツ工業「調査報告書(概要版)」P. 10

上席者だけでなく他部門も頼れないし、頼りたくない。
そうすると内にこもり、部門内で解決しようということになります。

開発本部の性能実験部以外の部長、副本部長及び本部長並びに開発統括部門長は、性能実験部が行う適合に関する知識をほとんど持っていないという状況が認められた。これは、これらの者が自らの出身部署以外の部署の役割についての関心が低く、その中でも、とりわけ性能実験部に対する関心が低いことに起因しているものと考えられる。

三菱自動車工業「燃費不正問題に関する調査報告書(要約版)」P. 33

ほとんど同じ会社の話を聞いているようです。


共通の問題❷ 業務処理統制の整備上/運用上の不備

財務報告に直接は関係しませんが、品質不正を防ぐための内部統制に不備が指摘されています。

内部「牽制」が働いていない

衝突安全試験の認証申請に使用する試験成績書と実験報告書の正確性の確認は安全性能担当部署に委ねられており、認証申請書類の正確性をチェックする体制が構築されていなかったことは認証プロセスにおける重大な不備といえるものであった……

ダイハツ工業「調査報告書(概要版)」P. 9

パワートレーン実験部の従業員は、開発業務に従事するのと同時に、認証申請に向けた認証立会試験及び認証社内試験等の認証業務を担当していた。

日野自動車「調査報告書(要約版)」P. 44

性能実験部は、適合を通じて燃費改善を図るという開発部署としての機能と、燃費等に関する実験を実施するという実験部署としての機能の双方を持ち合わせていた。そのため性能実験部は、良い試験結果を得るための不正に及ぶ動機と機会が与えられてしまった。

三菱自動車工業「燃費不正問題に関する調査報告書(要約版)」P. 31

3社からの引用を並べましたが、これも同じ会社の話のようですね。(ダイハツの「安全性能担当部署」は、試験成績書と実験報告書を作成する部署でもあります)

「同業他社はみんな同じ方法でやっているから大丈夫」がいかにあてにならないかが分かります。

方針やルールが明確になっていない

日野においては、オンロードエンジン、オフロードエンジンを問わず、また、開発部門、品質保証部門を問わず、そもそも業務や権限に関する規程が作成されていなかったり、作成されていたとしてもその内容が抽象的で簡易に過ぎるために実際の業務を行う上で参考にしにくいものが目立った。

日野自動車「調査報告書(要約版)」P. 44

「あるべき」が明らかでないと、手順や判断の基準が変わってしまいます。

社内のルールだけでなく、法規制の理解も十分ではなかったようです。

当委員会が認定した不正行為には、法規適合性について正確な知見がなく、明確な法規不適合との認識まではないものの、過去から踏襲されたグレーな方法として漫然と現場で繰り返されていた不正行為や技術的には問題ないので法規上も問題ないはずと独自に判断して試験結果を流用する不正行為も見られた。

ダイハツ工業「調査報告書(概要版)」P. 7-8

勝手な解釈により方針やルールを逸脱する

「ルールは外れるが、ここまでは大丈夫」という現場の解釈。これはあらゆる品質不正に見られる問題です。

ヒアリングを実施した多くの性能実験部の(元)従業員らは、「惰行法でも、高速惰行法でも、最終的に得られる走行抵抗は“理論上は”異ならないから、高速惰行法を用いることはそれほど大きな問題ではない。」などとして、自らの不正行為を正当化しようとする様子であった。

三菱自動車工業「燃費不正問題に関する調査報告書(要約版)」P. 30

排ガス・燃費試験では「惰行法」という方法の適用が求められています。これはたいへん煩雑な試験で、三菱自動車の開発現場ではなんとかやらずに済ませたい、と考えたようです。
そこで、動力性能試験という別の目的のために会社独自に実施していた「高速惰行法」の結果を流用しよう、ということになります。「惰行法」の結果として使えるようにデータを変換するプログラムまで作っていました。

「惰行法」も「高速惰行法」も大差ないという議論はあるようですが、「惰行法」に準拠していないと法律違反になってしまいます。


共通の問題❸ タイトなスケジュール

もうお腹いっぱいだと思いますが、最後にもう一つ。
開発部門は人手が削減され、開発期間が短縮され、しかも設計変更があっても開発日程の死守が求められていました。

……「認証試験は合格して当たり前。不合格となって開発、販売のスケジュールを変更するなどということはあり得ない。」というような考えが強く……

ダイハツ工業「調査報告書(概要版)」P. 6-7

本来、認証試験に不合格となれば、試験を担当する部署としてはそんな開発をした前工程に怒ってもよいくらいです。
しかし、試験担当者は「ここで合格を出せなければたいへんなことになる」というプレッシャーを受けていたわけです。


おまけ:監査ガチ勢への警告

さて、本題は以上なんですが、監査ガチ勢の皆さんのためのおまけです。

これまで、「クライアントでこんなことが起こっていないか」という目でお読みいただいたと思いますが、監査法人自身も他人事ではありません。
コミュニケーション不全、ルールの理解不足や勝手な解釈、タイトなスケジュールでついつい、はいずれも監査現場でも起こりえます。

さらに、以下も見てみてください。

第三者的立場による職業的懐疑心と批判的精神に基づくチェックの重要性は、科学技術の分野において、技術者に求められる基本的な発想であるが、日野のクルマづくりには、こうした発想が欠けていた。

日野自動車「調査報告書(要約版)」P. 39

「職業的懐疑心」なんて、ドキッとしますよね?

MMCが、自動車開発において採用しているMMDSは、フロントローディング(計画策定段階に力点を置き、実行の円滑化を図る考え方)による計画策定と計画の確実な実行を主な趣旨とするシステムである。(略)商品戦略部門や開発統括部門だけでなく、経営陣にも、MMDSの制度趣旨が正確に理解されておらず、フロントローディングの考え方が浸透していなかったためである。

三菱自動車工業「燃費不正問題に関する調査報告書(要約版)」P. 31

「MMDS」はMitsubishi Motor Development Systemの略で、三菱自動車における開発方法のことです。
MMDSでは計画段階に力点を置くこととしているのに、開発部門も経営陣もよく理解できていませんでした。

監査計画が不十分で、あとでバタバタする監査のようです。


おわりに

ご覧いただいたように、ダイハツ、日野自動車、三菱自動車の品質不正の原因はとても似ています。
ところが、三菱自動車の不正が発覚したのは2016年なのに、ダイハツ、日野自動車はそこから学ぶことができませんでした。
また三菱自動車自身も、その前に起こったリコール問題での教訓を生かすことができていません。

同業他社から学ぶことも、自社内で横展開することも、いかに難しいかということが分かります。

3社とも日本の自動車メーカーですので、共通点が多いのは当然と思われるかもしれません。
しかし、個々の品質不正には業界の特殊性があっても、その背景には多くの日本企業が抱えるのと同じ問題があります。監査法人も無縁ではありません。

皆さんが内部統制、ガバナンス、監査を考えられる上で参考になれば幸いです。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはX/Twitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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