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CPAAOB「監査事務所検査結果事例集」を読む【監査ガチ勢向け】

公認会計士・監査審査会(CPAAOB)が毎年発行する「監査事務所検査結果事例集」。「読まないとなあ」と思いながらそんな時間のないあなたのために、さわりをご紹介します。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

CPAAOBは、毎年、監査法人への検査で発見された主な指摘事例を公表しています。直近のものは2023年7月14日付で出ています。

上場会社の監査をなりわいとする以上、目を通して自らの業務を振り返るべきもの。しかし、全部で187ページ、個別監査業務編だけでも90ページもあり、多忙な監査人には時間がない。
そこで、個別監査業務編から一部ご紹介しましょう。


とにかく時間がない方は…

「こんなnoteなんか読んでるヒマはないんだ!」という方は、98ページから3ページにわたって記載されている表をざっと眺めて、ご自身の監査業務を振り返ってください。
特に多い指摘事項に対応する留意点がまとめられています。

頻発する指摘事項に対応する留意点
(冒頭部分)

前年度の「事例集」にある表とほぼ同じ内容ですが、グループ監査の項目に以下が追加されています。ただし、指摘の事例としては過年度から挙げられており、新しいものではありません。

連結仕訳について、適切性、網羅性を及び正確性を評価しているか。

個別監査業務の指摘事例の全体像

では、「事例集」を見ていきましょう。

紹介されている事例の数

「事例集」冒頭で、掲載している事例数は指摘数を反映するものではない、とくぎを刺しています。とはいえ、全体をイメージするためには役立つと思います。

「事例集」では、指摘の対象となった監査法人を「大手」と「準大手・中小」の二つに分類しています。また、掲載されている事例のうち、新規のものと頻発しているものはそれぞれ「NEW」「頻発」とマークされています。

大手と比べると、準大手・中小は「頻発」の割合が少し多いようです。
なお、新規と頻発の両方のマークがついている事例が大手で2、準大手・中小で18あります。

ざっと事例を見ての感想

「事例集」には、個別監査業務の指摘事項が発生した原因として、次の3つを挙げています。(95ページ~)

  • リスク対応手続の監査リスクへの適合性及び監査証拠の十分性・適切性の検討が不十分

  • 監査人として発揮すべき職業的懐疑心の欠如

  • 要求事項に対する知識不足

何年も繰り返し聞かされてきたようなことですね。
個人の感想なのですが、真の原因は次の3つではないかと考えています。

  • 時間不足
    期日が近づき人手も十分でない中で、このまま走り抜ければぎりぎり終われるか、とあせっているところに無情にも出てきた問題点。応急処置でやっつけたつもりが、検査官は「職業的懐疑心が発揮された形跡がない」と一刀両断。

  • 詰めの甘さ
    検査官から見ると詰めの甘さ、監査チームからは「そこまで必要とは思わなかった」というケース。
    例えば、「不正リスクに手続が十分に適合していない(そんな手続では足りない)」「内部証憑では証拠として不十分」というもの。

  • 知識不足
    一部には、監基報の要求事項を参照しないと分からなかったと考えられるものも。しかし、上記2つを原因とする指摘の方が多そう。

大手監査法人への新規の指摘事例

全部で127ある事例のうち、大手監査法人に対する新規の事例9件について簡単にご紹介します。

収益認識に関する不正リスク

①売上高について不正リスクを識別しているが、不正の手口を検討せず、突合する証拠を追加したりサンプル数を増やすなどで対応している。(104ページ)

重要な取引の合理性

②売上計上後に回収条件や回収方法の変更の検討が繰り返されているが、変更の理由を把握しておらず、不正な意図があるのか評価できていない。(110ページ)

③得意先から受けているクレームに対して、外注先に負担を転嫁する前提で処理。(そのうち一部について?)外注先の納品書で減額されていることを確かめている。クレームの詳細などを十分に把握できておらず、外注費の減額が不正を示唆するものか評価していない(111ページ)

IT全般統制

④IT全般統制に不備があったが、リスク評価の見直し、追加の実証手続を検討していない。(126ページ)

実証手続―見積りの監査

⑤非連結子会社(持分割合100%)の純資産が取得価額の50%を下回っており、5年内には回復しないが、超過収益力は毀損していないとして評価減せず。超過収益力について合理性を検討していない。(143ページ)

⑥土地については固定資産評価額に基づく簡便な評価額が簿価を上回っているため減損せず、建物等償却資産は全額減損。それぞれについて重要な仮定の合理性を検討していない。(150ページ)

実証手続―その他

⑦不動産事業での土地売買取引について期末日に売上計上。入金、登記は翌期。販売先が期末日の引き渡しに同意しているとの主張の合理性や、引き渡しが実質的に行われたか検証していない。(129ページ)

⑧不正リスクを識別し、滞留債権のある得意先について電子メールで売掛金確認。回答者のメールアドレスのドメインがウェブサイトと不一致であったが、追加手続を検討していない。(133ページ)

⑨売上高についてサンプルテストを実施。一部サンプルについて被監査会社が外部証憑を保持していないため代替的に入手した監査証拠の適合性を検討していない。(136ページ)

おわりに

日ごろから検査についてはいろいろと思うところがあったとしても、この事例集に書かれていることが監査業界が直面している現実です。

各監査法人でも研修などがあると思いますが、皆さま自身が不安に思っておられる領域については原本に目を通されることをお勧めします。
この記事がそのきっかけとなれば幸いです。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはTwitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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