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監査における「挑戦」とは? 30年の経験から考える【監査ガチ勢向け】

監査は、定められた手続を粛々とこなし、その結果をテンプレートに従って報告するだけ。本当にそれだけ?


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

「監査」と「挑戦」って、あまり相性がよくない印象があるかもしれません。
やってみて「ダメでした」では済まされない仕事。
挑戦したい人は、アドバイザリー業務に異動したり、監査法人を辞めて独立したり、スタートアップのCFOになったり?

ちょっと待ってください、そんなに華々しくないかもしれないですが、監査でも挑戦できることはあります。というか、挑戦しないと成長しないし、何よりつまらなくないですか?



「挑戦」とは何か

まず、挑戦の定義をしておきましょう。
諸説あってよいと思いますが、ここでは次のように定義します。

うまくいくかどうか分からないことをやってみる

蛇足ながら、この定義は二つの要素から構成されています。

  • 「うまくいくかどうか分からない」
    言うまでもないですが、うまくいかないかもしれない、ということ。
    まず問題なくできるだろう、というものは挑戦ではありません。

  • 「やってみる」
    考えているだけではなく、行動するということですね。

ところで手元の国語辞典で「挑戦」を引くと「戦いに挑むこと」という意味しかありませんでした。
ひょっとすると正式には上記のような使い方は認められておらず、カタカナで「チャレンジ」の方が正確かもしれませんが、できるだけ日本語を使いたい派なのでplease forgive me。
(だらだらとすみません💦 本題に入ります)


監査における挑戦~てりたまの場合

30年以上も監査をやってきたので、自分なりに挑戦してきました。
例としてシニアスタッフのときの挑戦と、パートナーになってからの挑戦を紹介します。

シニアスタッフとしての挑戦とその結果

  • 売上高の全件データをはじめて入手し、それまで紙の帳簿と伝票でやっていた売上高の監査を効率化する

    →クライアントに全件データ提供してもらうための説明に時間の大半を使う。データは提供され、これまで分からなかったことも分かるようになったが、効率化は限定的。

  • これまでアニュアルレポートを出したことのないクライアントの英文財務諸表をゼロから作る

    →他のクライアントのサンプルを集め、見よう見まねで作成。出来はともかく、一応成功。

  • 上場準備会社の初度監査を現場のリーダーとしてやり切る

    →上司が忙しく現場に来ることができない状況で、経験不足をおして担当。結局、上司に頼りまくってどうにかゴールイン。「リーダーとしてやり切る」は成功とは言えない。

  • 海外駐在

    →マネジャー昇格後に行く駐在を、シニアスタッフとして挑戦。任期をまっとうしたという意味では成功。その成果は…反省点多し。

シニアスタッフ時代の「挑戦」を思い出しながら、全部成功したような印象だったのですが、よく考えてみると周りの助けで何とかなっていただけ、が多いですね。

今は独立性が厳しくてできない業務もありますが、その分、監査自体が複雑になっているので、監査での挑戦の機会が多いように思います。

パートナーとして挑戦とその結果

  • PCAOB基準監査に初挑戦

    →実は、本格的なPCAOB基準の監査にはパートナーになってから関与。何をもって成功と呼ぶかは難しいが、やはり反省点が多数。

  • 部門長を担当する

    →全国横断の部門が新設され、リーダーに就任。4年も務めたが自己評価としては鳴かず飛ばず。他業務が忙しくなったため、思い半ばにして別のパートナーに引き継ぐ。

  • 外部検査や法人内部の検査を受ける

    →ありとあらゆる検査を経験。正式な指摘を受けた検査はちらほらあるが、最低評価を受けたものはない。

  • 監査報告会において、より踏み込んだ内容を報告する

    →特に経営者への監査報告において、監基報が求める通り一遍ではなく、踏み込んだ内容を伝えるよう心がけた。今思えば、もっとできたなあ。

必ずしも「監査における挑戦」とは言えないかもしれませんが、お許しください。

この顔ぶれを見ていると、完全な成功もなければ、完全な失敗もない印象。
いずれにしても挑戦し続けられたのは幸せだと思います。


やってはいけない挑戦とやっていい挑戦の見分け方

監査において、避けるべき挑戦は、次の二つ。

  • 監査事故につながる挑戦
    例:思い切って識別するリスクを減らしてみたが、多数の虚偽表示が隠れていた

  • クライアントなど関係者に大迷惑をかけてしまうかもしれない挑戦
    例:新しい監査手法を試みたが失敗、やり直しとなり、特に難しいトピックスもないのに監査の期日に間に合わなくなった

こんなことにならないように、挑戦する前に以下を確認しましょう。

  • 失敗しても、監査事故につながったり、クライアントなど関係者に大迷惑をかけたりする可能性が低い

  • 失敗しても、監査事故などを防止するためのバックアップがあるか

どちらかがYesであれば、どんどん挑戦!


挑戦してますか?

挑戦しているか否か、事後的に分かる方法があります。
それは、「前向きな失敗があったか」。

単なるミスなど、後ろ向きな失敗は少なければ少ないほどよし。
一方、前向きに挑戦した上での失敗がゼロであれば、挑戦していない可能性大です。

「挑戦」の定義から、一定割合で必ず失敗があります。
これまでの1週間、1か月、半年を振り返って、前向きな失敗が思い当たらなければ、挑戦への向き合い方を見直す方がよいかもしれません。


おわりに

挑戦にもいろいろ種類がありますが、「量」への挑戦もあります。
たくさんのジョブを抱え、倒れそうになりながらようやく片づけたらもっと仕事が増やされる。人間の限界を試されるような「量」への挑戦。

プロフェッショナルたるもの、本来はもっと「質」で勝負するべきですね。「量」の挑戦を卒業し、「質」の挑戦に専念できる時代が早く来てほしいと思っています。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはX/Twitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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