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企業が不正リスク対応するときに、監査基準(監基報240)を利用する

企業がまじめに不正リスクに対応しようとした時、参考になる書籍はあっても、よりどころとなる公式的な文書は少ないのではないでしょうか。そこで監査の基準が参考になると思います。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

内部統制本の決定版「内部統制の仕組みと実務がわかる本」の著者、浅野雅文さんが、Xで次の投稿をされていました。

「さらに表示」で肝心なところが見えませんが、このように書いておられます。

……改訂内部統制基準の適用に伴い、企業側にも不正リスク評価と対応の強化が求められます。
ただ残念ながら、内部統制基準では具体的な手続までは明示されていません。
よって第一義的には、企業側としても監基報240の内容を参照しながら自社の不正リスク対応を検討する必要があると考えています

そこで、企業の方が監基報240を使われる際のガイドを書こうと思い立ちました。
今回は、監査ガチ勢向けではなく、企業で内部統制を担当されている方(会計士を除く)向けです。



監基報240とは何か

「監基報」(かんきほう)とは「監査基準報告書」の略。監査基準の細目を定めたものとご理解ください。
監基報はテーマ別にたくさん発行されていて、それぞれ番号が付けられています。
「財務諸表監査における不正」という監基報の番号は240です。

各監基報は、次の構成となっています。

  • 範囲及び目的
    監基報の範囲と目的以外に、用語の定義もここにあります。

  • 要求事項
    監査人が必ず守らないといけないルール。
    各項目に番号(項番号)がついています。

  • 適用指針
    要求事項を実務に適用するための説明です。
    項番号にはA1、A2など「A」がついています。

  • 適用
    適用時期を定めています。

監基報は国際監査基準に準拠しているのですが、不正については日本で独自に追加した内容があり、項番号の先頭に「F」がついています。
監基報240は不正をテーマにしているだけに、特に「F」が多くなっています。

監基報は日本公認会計士協会の以下のWebサイトで入手できます。


企業が監基報240で参考にするべきこと

監基報は監査人向けに書かれていますので、専門用語が多く、また企業にとって参考にならない部分もたくさんあります。
監基報240のどこが参考になるのか、主な点を抜粋してご紹介します。

不正に関する基本的知識

不正対応をする上で前提となる知識がA1~A4にまとめられています。主として次のような内容です。

  • 不正のトライアングル(動機・プレッシャー、機会、姿勢・正当化)

  • 不正な財務報告の定義と主な手段

  • 資産流用の定義と主な手段

不正リスク評価の手がかり❶ 不正リスク要因

不正に関する個別の内部統制を検討する前に、企業のどこにどの程度の不正リスクがあるかを評価する必要があります。
そのときに役立つのが「付録1 不正リスク要因の例示」です。

「不正リスク要因」とは、不正のトライアングルのいずれかが存在している状況を言います。
不正リスク要因があれば、不正リスクがある可能性が高くなります。
付録1で挙げられている不正リスク要因はあくまでも例示なのですが、標準的なリストですので、まずはここに挙がっているものから検討するのが有効です。

不正リスク要因がどのようなものかを見ていただくために、二つ抜粋します。

・利益の減少を招くような過度の競争がある、又は市場が飽和状態にある。
・主観的な判断や立証が困難な不確実性を伴う重要な会計上の見積りがある。

一つ目は、想像を膨らませないと不正リスクにたどり着かない不正リスク要因の例です。
過当競争で利益が減少しているようなときは、利益を増やすような不正を行うリスクが高いと言えるかもしれません。増益をねらった不正は、架空売上の計上や未払費用の不計上などたくさんの手口が考えられますので、その中でどのリスクが高いかを検討します。

二つ目は、比較的不正リスクを特定しやすい例です。
主観的な判断や立証が困難な不確実性を伴う重要な会計上の見積りがあれば、その見積りを操作するような不正のリスクが想定されます。

不正リスク評価の手がかり❷ 監査チーム内の討議内容

監査人は、監査計画立案に当たって、不正リスクがどこに存在するかをチーム内でディスカッションすることが求められています。
企業側でも同様のディスカッションするかどうかは別として、どこに不正リスクがあるかを検討するため、A10にある討議内容のリストが手がかりになります。

企業としては参考にならないものもあるため、参考になるもののみをピックアップします。

・ 利益調整を示唆する状況及び不正な財務報告となり得る利益調整のために経営者が採る手法の検討
・ 経営者が注記事項を、適切な理解を妨げるような方法(例えば、余り重要でない情報を多く含めたり、不明瞭で曖昧な表現を使用するなど)で記述しようとするリスクの検討
・ 「動機・プレッシャー」、「機会」、「姿勢・正当化」に関する企業の外部及び内部要因の検討
・ 現金など流用されやすい資産に対する資産保全手続についての経営者の関与の検討
・ 経営者や従業員の不自然な又は説明のつかない行動や生活様式の変化の検討
・ 不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況に遭遇した場合には、その状況の検討
・ 経営者による内部統制を無効化するリスクの検討

「経営者」とありますが、ここでは執行役員や子会社の社長も含む広い概念として考えてください。

不正発見の手がかり

不正リスクが顕在化したときの対応です。

通常、不正は隠蔽工作を伴いますので、分かりづらくなっています。しかし、不正が大きいほど隠しきることは難しく、よく見ると顔をのぞかせていることがあります。
不正を発見するためには、そのような端緒を見逃さないことが重要。

そのために、監基報240では次の二つのリストが用意されています。

  • 不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況の例示(付録3)

  • 不正による重要な虚偽表示を示唆する状況の例示(F付録4)

違いが分かりづらいですが、「兆候を示す状況」のうち、不正が行われている可能性が高いものを「示唆する状況」と呼んでいます。
これは日本独自のカテゴリーで、「付録4」の先頭にFがついているわけです。

これらのリストに載っている状況は網羅的なものではありません。二つのリストを参考に似た状況がないか検討し、もしあれば不正なのかをきっちりと調べないといけません。


おわりに

監基報は、慣れていないと非常に読みづらいと思います。
この記事をガイドとして、不正リスク対応に役立てていただけると幸いです。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはX/Twitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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