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なぜ監査人は、もう一歩で見つけられる不正を見逃してしまうのか【監査ガチ勢向け】

不正が発覚してから、実は監査でもう一歩踏み込んでいればもっと早く見つかったのに、ということがあります。その理由はシンプルです。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

不正調査専門の弁護士さんとお話ししたときに、「監査法人は、意図して不正に目をつぶっているとしか思えない」と気になることをおっしゃっていました。
不正調査に入ると、監査チームがもう少しで不正を発見できるところで手続をやめていることが多く、そのような印象を持たれたようです。

不正と知って見逃す監査人がそんなにいるとは思えず、ほとんどのケースでは惜しいところで「不正ではない」と判断してしまったのだと思います。

なぜそんなことが起こるのか? どうすればよいのか? 考えてみましょう。



👓なぜ監査人は惜しいところで不正を発見できないのか?

あと一歩まで来ているのに、なぜ不正ではないと判断してしまうのか。
3つの理由が考えられます。

🔹不正は不正の顔をしていない

私の知る限り、不正は「いかにも不正」という雰囲気を醸し出してはいません。
不正実行者も「いかにも悪いことをしている」ように見える人はほとんどいません。

不正実行者は、不正が見つからないように入念な隠蔽工作をします。不正が見つかりそうになると、平静を装いながら死に物狂いで隠します。
その結果、よほど意識してみないと、不正が行われているようには見えません。

🔹人は目の前の相手を信用したい

詐欺にあっているときに、本人よりも先に家族や友人が気づくことがよくあります。
どうも人は、知らない人を疑うことは簡単でも、目の前にいて害がなさそうに見える人を疑うことは難しいようです。
それが面識のある人ならなおさらです。

監査人が往査しているときにも、目の前の人のことを疑うことは簡単ではありません。
不正実行者の周囲の人たちは、日々接しているわけですから、なおさら不正が行われているとは信じがたいでしょう。そんな人たちに質問しても、不正の核心に至ることは難しそうです。

🔹面倒なことから目を背けたい

今や余裕のある監査現場はあまりありません。
何も問題がなかったとしても、監査は終わるんだろうか、と心配している現場が多いでしょう。
あるいは、終わりそうにないが、とりあえず全速力で走っているような現場もあると思います。

そんなときに、不正の端緒かもしれない事実を見つけてしまったら、どう思うでしょうか?
「頼むから不正じゃないと言ってくれ」
あるいは
「絶対に不正なんかじゃないから、簡単に済ませられないか」

そんな思いを抱きながら、不正を見つけることはできません。


👓あと一歩踏み込むために、どうすればよい?

「ひょっとして…」と思わせる事実にぶち当たったら、どうすればよいでしょうか?

🔹懐疑心を高める

「職業的懐疑心なんて、言われなくても分かってますよ」と言いたくなりますよね?

不正に向き合うときは、通常以上の懐疑心が求められます。
本当に不正だったら、監査人を欺こうと手を尽くしているはずなので、いつもの懐疑心では太刀打ちできません。

懐疑心が高まっているとき、集中力は増し、緊張感が伴っているはずです。
そうなっていますか?

🔹事実を冷徹に見直す

憶測や希望的観測は排除して、把握できた事実は何なのかを冷徹に見ましょう。
もし不正だったら、それらの事実のうち不正と整合するものはどれで、矛盾するものはどれでしょうか?

このときにやってはいけないのは、「不正ではないストーリー」で自分を納得させてしまうことです。
そのストーリーの下で、把握できた事実はおおむね整合するかもしれません。
しかし、不正だった場合のストーリーとも整合するかもしれないのです。

🔹覚悟を決める

目の前には仕事が山積みになっているかもしれません。
急ぎの仕事もいくつもあるでしょう。

しかし、何が重要かをよく考えましょう。
もし不正だったら、最優先で取り組まないといけないのではないですか?

後回しにすると事態は深刻になるばかりです。
結果的に不正なのかどうかはやってみないと分かりませんが、すぐに取り組みましょう。
そして、疑問が解消するまで妥協しないと、覚悟を決めましょう。


🐣おわりに

心構えばかりになりましたが、意図的にこうしました。
冒頭の弁護士さんの言葉に戻ると、不正を見つけられないのは、技術が未熟だからと言うよりも、「もう少し掘ってみよう」という気持ちになるか否かが大きいと感じたからです。

「監査における不正リスク対応基準」が公表されたとき、「空振りを恐れずバットを振るよう、監査人の背中を押してくれる基準」だと感じました。
当時は「結局、やることは変わらない」「意味がない」などと監査業界でははなはだ不評でしたが、これがあるので自らをもっと奮い立たせることができるのだと思います。クライアントへの説明もしやすくなりました。

何ごともないのが一番ですが、もし不正かな?と思ったら、覚悟を決めて、空振りを恐れず、バットを振ってください。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはX/Twitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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