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「てりたまさんの監査へのモチベーションは、どこにありますか?」後編【監査法人職員の皆さんへ】

てりたまです。監査法人で監査を30年以上、パートナーを17年勤めました。

前回の前編を踏まえて、解決編です。

クライアントは社会の公器、それゆえのモチベーション

前回の話をまとめると、この二つでした。

  • 監査は、その性質から、モチベーションがどこにあるかを見いだしづらい人が多い

  • そもそも会社とは、存在意義がある限り経営者や従業員がどんどん入れ替わって支える「うつわ」であり、これを「社会の公器」と呼ぶ

今回は、「社会の公器」がどうモチベーションにつながるかをお話しします。

結論から先に言うと、私が監査という仕事で感じていたモチベーションは、社会の公器であるクライアントが、社会に対して、より大きな貢献が、より長期間にわたってできるように手助けをすることにありました。

中堅企業が買収すると…

例えば、中堅規模の上場企業が、海外の会社を買収したとき。

昔々であれば、大きなのれんが計上されても「3年くらいは様子を見ましょう」とのんきに構えていました。今はもっと早いタイミングで、減損の兆候がないか検討が必要です。

しかし、買収に慣れていないクライアントだと、買収対価を決めたときの事業計画が明確でなかったり、実績が下振れしていても要因が分析できていなかったり、対策は打っているものの「とにかくがんばる」の域を出ていなかったり、ということが起こります。

監査法人としては、これでは困ってしまうので、「事業計画を明確にしましょう」「下振れの要因を特定しましょう」「対策の有効性を評価しましょう」ということをいうわけです。

監査法人とクライアントの不幸な関係

すると、次に何が起こるかというと…
経理部門が監査用に事業計画を作り、実績を分析し、下振れを取り戻すシナリオを書きます。
監査法人が買収された会社でヒアリングすると、事業計画やリカバリープランと矛盾する話がいろいろ出てきます。そりゃそうです、社内の資料を参考にはしたものの、経理部門が勝手に作ったものですから。

経理部門の担当者から、こんな不満が聞こえてきます。
「監査法人はあれもこれも必要と言ってくる。がんばって作ったら、細かく見てダメ出ししてくる。買収した会社に迷惑をかけないようにしながら、人手のない中で最大限対応していることなど、おかまいなしだ」

監査法人のスタッフは、嫌がられながら経理部門に動いてもらい、気を使いながら指摘事項を伝えた上に、こんな一言まで聞こえてくるとモチベーションは下がりまくり。そこで「100%会社のために仕事するコンサルティングがうらやましい」となる…

経営者の課題が監査から見える

ちょっと待ってください。
これって、監査のためだけに必要、監査がなければ不要なものですか?
買収対価を決めるときに、経営者は、内容を十分に理解し納得した事業計画を持ち、買収対価は十分に回収できると判断するべきではないですか?
経営者は業績を月次で追いかけて、下振れしそうであればすぐに原因を調査するべきではないですか?
事業計画の前提を理解していれば、下振れがどこの見込み違いで起こったかが分かり、的確な対策も打てるのではないですか?
もし見込み違いがあった部分はリカバリーが難しいとすると、ビジネス全体を見渡して、ほかの部分で打てる手を打つのは経営者の仕事ではないですか?

これを経営者に伝え、改善してもらえれば、買収に対して係数面からしっかり対応することができます。
今の経営者にとっては、うるさいかもしれません。しかし、このような管理の仕組みを構築し、引き継いでいくことができれば、将来の世代の経営を助け、会社のより大きく、より長きにわたった社会貢献につながります。
これは、公認会計士が監査という業務を通じてクライアントに提供できる大きな価値です。

監査で起こる問題は、クライアントの課題が背景にあることがよくあります。
これを「クライアントに価値を提供できるチャンス」ととらえて、伝え方を工夫し、改善するまで伴走することが、私のモチベーションになっていました。

と、上から目線で話しておりますが…

私は十分にこの役割を果たしてきたか。申し訳ないですが、その自信はありません。
「もっとこうしたらいいのにな」と思うことがあっても、言い方がまずくて伝わらなかったり、腰が引けてはっきりと言えなかったり、別のことを優先してしまったことが多々ありました。
虫のいい話ですが、やり残した仕事は、元部下、後輩の皆さんに託しています。私はいなくなっても、次の世代、その次の世代が引き継いで、監査法人ができる社会貢献をより大きく、より長きにわたって続けてもらえたらと考えています。
監査法人も「社会の公器」ですからね。人が変わってもより大きく、より長く価値を提供し続けるべき存在です。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
迷いながら手探りで書いていますので、この投稿へのコメントや、Twitter(@teritamadozo)などでご意見をいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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