見出し画像

新NISAをはじめる監査人は、独立性に気をつけよう【監査ガチ勢向け】

新NISAがはじまり、日本でも証券投資が盛り上がろうとしています。監査人の皆さんの中にも、この機に投資をはじめようという人も多いのでは。ただし、監査人ならではの点に要注意です。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

今回のメッセージは、端的に言うとこれだけです。↓

新たに証券投資をはじめるとき、金融商品を買うとき売るときには、監査法人のルールに完全にしたがおう

当たり前ですね? ただ、証券投資をはじめる人が増えると誰かが失敗する可能性も大きくなります。あなたがその「誰か」にならないように、注意しましょう。


新NISAとは

「新NISA」という言葉は耳タコだと思いますが、何なのか説明できますか?

金融庁Webサイト「新しいNISA」より
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/nisa2024/index.html

正確には金融庁のサイトなどを見ていただきたいのですが、ざっくり言うと年間360万円、累積で1,800万円までの証券投資でもうかっても税金は一生かけません、という制度です。

2023年までの旧NISAと比べて金額が大きくなり、非課税保有期間が無期限になるなど思い切った拡充がされています。


監査人の独立性

監査人の独立性は、監査論のはじめの方で勉強しますし、監査法人に入ってからもやかましく言われます。

日本国内では公認会計士法、会社法、内閣府令、倫理規則、解釈指針などのルールがあります。
さらに米国上場企業については米国SECの規則も適用になります。
監査法人(またはグローバルネットワークファーム)が独自のルールを上乗せすることもあります。

具体的には勤務する監査法人のルールをよく見てください、としか言えないのですが、ここでは相当複雑になりえる、ということをお話しします。

投資信託の仕組みと独立性

新NISAに限りませんが、証券投資の初心者からベテランまで、少額からスタートできる手軽な商品として投資信託がよく利用されます。

投資信託の仕組みを知らなくても投資はできるのですが、独立性を考えるうえでちょっとだけお付き合いください。

一つの投資信託に、どれだけの会社が関与しているかご存知ですか?

投資信託協会Webサイト「投資信託の仕組み」より
https://www.toushin.or.jp/investmenttrust/about/scheme/index.html

慣れないとごちゃごちゃして見えると思いますが、登場人物を見ていきましょう。

「投資家」は、投資信託を買うあなた自身です。

投資信託を買おうと思うと、証券会社や銀行などに口座を開いて買うことになります。これが「販売会社」。

このあたりから、ちょっと縁遠くなります。
投資信託を作り、集めた資金を何に投資するか決めている会社が「運用会社」です。
新NISAでも人気の「eMAXIS Slim全世界株式」いわゆる「オルカン」の場合、MUFGグループの三菱UFJアセットマネジメントがこれに当たります。

運用会社の指示にしたがい、実際に株式などを売買したり、買った金融商品を保管するのが信託銀行。
「オルカン」で言うと三菱UFJ信託銀行です。

信託銀行は市場から株式などを買います。
「オルカン」の場合は、全世界の主要国の株式が対象になります。

ファンドとは、投資信託そのものです。

独立性の及ぶ範囲

このうち、販売会社、運用会社、信託銀行は監査を受けています。
投資信託の投資先である上場企業も監査を受けています。
さらに、ファンド自身も監査を受けます。
さらにさらに、これらの会社が業務を委託している先も監査を受けているかもしれません。

適用される独立性のルールによるのですが、思いもしない投資信託がルール違反になるということがありえます。

ルール違反を防止するためには、まずは監査法人のルールをよく理解すること。
また、監査法人がシステムやマニュアルでの報告制度を用意していれば、ルールに沿って必ず報告しましょう。報告する際に、取得できない投資信託であることが分かるかもしれません。

独立性とは別のリスクも…

独立性の話ばかりしてきましたが、もう一つ注意が必要なのがインサイダー取引です。
もちろん投資信託だけでなく、株式でも債券でも気をつけないといけません。

実際に、インサイダー取引を行ったとして公認会計士が処罰された例があります。課徴金の納付を命ぜられるだけでなく、業務停止も受けています。
監査法人にとっても信用失墜する事件となり、社内の処分も相当に厳しいはずです。

監査法人では、インサイダー取引を防止するためのルールもあるはずなので、よく理解して完全に準拠しましょう。


それでも…投資のススメ

ほとんど投資はやめておけと言っているように聞こえるかもしれませんが、私は少額でも投資しておく方がよいと思っています。
理由は次の3つです。

  • 監査が保護している対象である投資家になってみることで、監査をよりよく理解する

  • 将来、年金財政がどうなろうと自分のキャリアがどうなろうと、生活を下支えする財産を確保する

  • 新NISAによる破格の優遇制度を利用する

事故を起こす可能性があっても自動車に乗るように、ルールには十分に気をつけながら無理のない範囲で投資するのがよいと思います。

なお、投資は損をすることもありますので、はじめるか否かも含めて自己責任でお願いします。


おわりに

繰り返しになりますが、今回のメッセージはこれです。

新たに証券投資をはじめるとき、金融商品を買うとき売るときには、監査法人のルールに完全にしたがおう

まずは独立性やインサイダー取引のルールの理解を確かめるところからはじめましょう。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはX/Twitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?