今、ここにいる私のこと

今、自分はこんな場所にいるんだなあと、どこか他人事のように、ちょっと自分を突き放して「私」のことを見るような感覚になることがある。

このことを考えるようになったのは、
高校受験がきっかけだ。

推薦受験の日に出会った女の子のことが
私はいまだに忘れられないのだ。

彼女とは面接の控室の席が近く、長い待ち時間を何人かと一緒におしゃべりしながら過ごしていた。
「家族もこの学校に通っていてとても楽しそうに学校のことを話していたから
私も合格してここで学校生活を送りたい。」
そう照れながら話した笑顔が印象的で、
合格を争う相手だとわかっていても、
彼女が合格できたらいいなと
心の底から思ったし、
帰り際には笑ってバイバイをした。

結果、私は受かって彼女は落ちた。

わかってはいるのだ。
受験なんてそんなものである。
同じように受験の時に友達になり、
落ちた彼女と連絡を取り合っていたという子に聞くと、
一般受験でも落ちてしまったという。
そしてなんと、彼女は高校浪人をし、
翌年も同じ高校を受けていたという。

ただ、入学式で配られた後輩たちの名簿に、彼女の名はなかった。

ああ、私はここでいきたかった誰かの代わりに立っているのだな。
自分がこの学校の制服を着て、友達と笑う。
そんな生活を夢見ていた人間はたくさんいたのかもしれないな。
探せなかった名前のことを知ってから、そう思うようになった。

彼女の行方はそれからはわからない。
どこの学校に行っているのかも知らないし、
今はどうしているのか見当さえもつかない。

ただ、あのときから、なんだかむずむずする自分がいる。

誰かの代わりに、今私はここに立っている。
私が立っている場所は、誰かが渇望していた未来かもしれない。
私が行きたいと心から願った場所で、誰かが笑っているのかもしれない。

そんな人生のおもしろさと寂しさを、あのときからずっと感じているのだ。

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