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『波よ聞いてくれ』を読んでくれ

友達のプッシュを受けて、遅まきながら読み始めた『波よ聞いてくれ』。

舞台は北海道・札幌。物語の始まりは、ミナレの失恋話から始まる。居酒屋で息巻いて話した自らの失恋話をラジオディレクターによって録音され、放送されたミナレが、トークのうまさとその声を認められ、藻岩山ラジオで番組を持つことになる。カテゴリーがあるのだとすれば、「ラジオ奮闘記」。

「奮闘」。Weblio辞書を引くと、「力を出して事に当たること」とある。では、奮闘記はどうだろう。Google先生にお伺いを立てると、1秒も満たないうちに約 9,580,000 件がヒットする。決して少ない数字ではない。現実や困難な出来事に遭遇し、体当たりしつつそれを乗り越えてる姿と成長を描く物語は多く、その姿は心を打つ。誰かの頑張っている姿を見るのは、私だって大好きだ。

おさえてほしいのはここ。この漫画、奮闘記だけど成長記じゃない。

コミックス既刊3巻までの『波よ聞いてくれ』の劇中、主人公はまったく成長しないのだ。それはもう、まったくすがすがしいくらいに!

ミナレは「努力・友情・勝利」を掲げて鍛錬を積むこともなければ、至らない自分を恥じて、心を改めて生きていくなんてこともない。あくまでミナレはミナレのまま。転がる岩のように、ものすごい勢いでこちらが思いもよらぬ方向に駆け抜けていく。おいーーー!そっちじゃないだろーーーー!心の中はツッコミの嵐だが、全力ダッシュで明後日の方向へ走っていくミナレは見ていて気持ちがいいのだ。瑞穂じゃないけれど、こんな人間が周りにいたら、私もきっと好きになる。君はそのままでいてくれ。そう思いながら、たぶん私も飯を作ってしまうだろう。

また、セリフ回しも巧妙。テンポのよい掛け合いは、独特だが知的で、私の無知を晒してしまうと、知らない単語はわざわざ調べ直している。これをすんなり意味を分かって読める人にとっては、たまらなくおもしろいのだろうなあとうらやましくなってしまう。話全体として声を上げてわっはっはと笑う話ではないが、勢いのある、クッと一声が漏れるような笑いがそこら中にばらまかれている。ちなみに、第一話を電車の中で読んだ私は社会的地位が危うくなった。できれば一人で家で読むのがおススメの作品だ。

最後に、主人公がラジオパーソナリティとして成功を遂げる物語なのだろうけれど、その本筋は進んでいない。進んでいないが、テンポは全くおちない。それは、ナミレが転がっていくスピードが尋常ではなく、紙と現実の境目が気にならないくらいには彼女が生き生きとしている証拠だ。「ミナ」はアイヌ語で「笑う」という動詞で、「ミナレ」には「周囲から笑われがちの独身オンナという意味」がこめられているらしい。未だ転がりまくり、泥だらけのミナレがこの後どうやって成り上がっていくのか、早く続きが読みたくてたまらない。


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