あなたを解く。

あなたは、遠いところからはるばると私のもとにやってくる。様々な人の手を借り、私の目の前に現れる。どうぞよお手柔らかに。外見だって、意外と大事。厚めの紙だと手触りが心地よくて、思わずうれしくなってしまう。緊張の空気の中で笑みがこぼれる。よしっ。

「それでは初めてください」の合図で、紙をバサバサとめくる音が周りを埋め尽くす。

はじめまして、今日はあなたが私の問ですね。文字を目で追いながら、少しドキドキする。

目に飛び込んだお題を紐解き、自分の経験とつながりそうな場所を探す。あのときのことがいいかな、こっちのエピソードの方が問いには合うかもしれない。考えながら問題用紙の余白に自分のメモを取る。よしっこの内容ならかけそうだ。そう決めて、一つ息を吐いてからシャーペンを持ち直す。

ガリガリガリ、一息ついて時計を見る。まだ大丈夫。時間はある。

ふと手を止めて周りを見回すと、みな手を動かし続けている。同じ言葉を見て、全く違うことを思い浮かべながら問いに対して答えていく。一人一人の頭の中を覗けたらなあ。そんな風に思ってもう一度自分の問いに向き合う。

時間いっぱいかけて原稿用紙を言葉で埋め尽くし、一番初めから読み直す。言葉のよれはないかしら。漢字はあっている?あっここ間違えているじゃない。あぶないあぶない。書き直して。よしっ。

残り5分での合図を聞きながら、まだできることはないかと作文用紙を眺める。

「終わりにしてください。」会場全体にふぅっという息が聞こえ、みんなの心の筋肉が緩むのを感じた。あとは、この文章があなたに届いたらいい。どうかどうか、刺さってほしい。

こんな小論文の時間を、私は愛している。

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