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おいしい肴をつくれるように。

海士町は地域行事がとっても盛んで、私たち寺子屋生も来島してから3か月のうちにお花見、綱引き大会、ソフトボール大会といくつものイベントに参加させていただいている。そしてイベントの後には、お楽しみの打ち上げも。海士町では打ち上げのことを『直会(なおらい)』と呼んでいて、地域のみなさんと料理やお酒を囲んで、わいわいとおしゃべりをしながら過ごす。その日の好プレー珍プレーを振り返って盛り上がったり、海士の自然や昔のくらしについてお話を伺ったり。寺子屋の授業の時間だけではきっとお話するチャンスがなかっただろうなと思う方もいらっしゃって、行事や直会に仲間入りさせていただくことで、崎での暮らしが何倍も楽しくなっていると思う。今年は島内各地区のお祭りも、崎のだんじりも数年ぶりに開催される大当たり年!今からすごく楽しみ。

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 島に来て初めて耳にした『直会(なおらい)』という言葉は方言なのかな…と思っていたけれど、先日海士町で開催された日本の民俗学者 神崎宣武さんの「神と食」という講演会で、その言葉の起源を学んだ。神崎さんのお話によると、昔は貴重だった白米は神さまをおもてなしするご馳走で、中でも手間をかけて作られる御神酒は最上級のお供えものだった。御神酒は、祭典が終わると神前から下げられ参拝者にふるまわれるのだが、それを『直会』と言うのだそう。『直会』は神さまと人が契りを交わす儀式で、御神酒を丁重に三口で飲み干して、肴で口を改めて(酒肴一対)…を3回繰り返すのが正式な作法『式三献』。平安時代の宮中儀礼から始まって、後に武家社会の『契りの盃』として定着していったとのこと。現代の直会・宴会では、そうした礼儀作法は抜きにして「無礼講で」ということが多いけれど、結婚式での三三九度に『式三献』の作法が生きていたり、酒と肴は必ず一対という概念は居酒屋さんのお通しとして残っていたりする。普段の授業や仕入れで学ぶ生産・流通、料理の技術とは別の切り口で食を考えるのは、とても新鮮だった。講演の最後には、神崎さんから「みなさん、おいしい肴を作って、文化を繋いでいってくださいね」と声をかけていただいた。

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 離島キッチンの夜会席の料理は、季節を感じる海のもの、山のものを使った八寸から始まる。神崎さんのお話を思い出しながら、なぜ最初に八寸をご提供するのかということを改めて考えてみると、どんな肴があったらいいか考える手がかりが少し掴めるような気がする。
 今月の八寸の献立には、夏越祓(※)にちなんで『茅の輪』をイメージした野菜チップスのあしらいや、『水無月』の形に似せた豆腐などが盛り込まれていた。お正月のおせちの具材には、それぞれ1年間の願いが込められているという話はよく耳にするけれど、会席料理にもこんなふうに自由な発想で、願いや気持ちを取り入れることができるんだ!とわくわくした。

 離島キッチンでお迎えするお客さまは、島外からの観光・視察、島内の同窓会・直会など様々で集まる目的は異なるけれど、宴会中に聞こえてくるごあいさつや歌、掛け声から(「契り」とまでは言わないけれど)お客さま同士で盃を交わしながら、思いを共有されているんだなと感じる。それを聞きながらホールや厨房で動いていると、こうした場で食べていただく料理を作れるようになるってやっぱりすごいな、幸せだな…と思う瞬間も。これから料理の技術と合わせて、日本の文化や風習についても勉強しながら、お客さまの気持ち・願いにそっと寄り添えるおいしい肴を作れる人になりたいなと思う。

※夏越祓:なごしのはらえ
ちょうど1年の半分にあたる6月30日に、半年間の罪や穢れを払い、残り半年の無病息災を祈る神事。
今月本土に用事があり、出雲大社にお参りしたら茅輪があったのでくぐってきました。
これで身も心もきれいになったはず…! まっさらな心で7月もがんばります。

<おまけ>
6月の夏至の夜、母屋組でキャンドルナイトを企画!
炎天下にもかかわらず、竹を切って運んできてくれたはるちゃんに大感謝。
夜はキャンドルの灯りの中、月を見上げながら真竹の皮に包んだ水無月とみたらし団子を食べました。

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 絶対に達成する目標
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・盛り付けの引き出しを増やす
・お造りをちょうどよい大きさで、きれいに切れるようになる
・だし巻きを巻けるようになる

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 風流の会
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・8月  夏酒の会
・9月  月見酒、新米収穫祭
・10月 ひやおろしの会
・11月 
・12月 こたつで燗酒の会
・1月 新酒の会
・2月 
・3月

※複数の蔵の飲み比べと肴とのペアリングの実験!

(文:島食の寺子屋生徒 河野)