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Entôダイニングの先輩後輩

今回は、Entôダイニングで働くおふたりにお話を伺いました。
お話を伺ったのは、島食の寺子屋卒業生(2022年度1年間コース卒業生)の武井さんと、武井さんの先輩である吉冨さんのおふたり。
島食の寺子屋の卒業生が、現場でどのように働いているのかを含め、休日の時間をお借りして聞いてみました。

左:武井さん 右:吉冨さん 休みの日の和やかなインタビューでした

お二人が海士町で働くことになった経緯を教えてください。

吉冨さん:
もともとずっと福岡の方で料理の仕事をしていて、コロナをきっかけに大阪や湯河原辺りで料理人兼ホテルの支配人というものをちょっとやっておりまして。

その際に、そこでお世話になっていた方から、海士町というところにホテルがあって、そこがすごく楽しいよっていうのと、良かったら少し力を貸してくれないかっていうふうに言われたので。

2022年10月にお試しで海士町に来てみて、自然豊かだなと思いつつ、食材その種類についてはあるようでないようには感じていて。ただ前職のときに小笠原諸島で料理の仕事で同じような体験はしていたので、そこでの経験をここで活かせるかなと思ったのと。

あと一番は、海士町にある「風と土と」という会社が出版していた、アリスウォーターさんの「スローフード宣言」がきっかけですね。
もともと19歳から料理人になろうって決めて、23歳の時に具体的にどんな風にやっていきたいかと見据えた時に、いつかアリスウォーターと会えるような生き方をしようと思っていて。

実際に夢が叶ったアリスウォーターさんとの出会い

もしかしたら海士町に行ったらその漠然とした夢が叶うかもなっていう気持ちがあって、思い切って移住を決めました。

いま現在は大きく分けて、Entôダイニングと地域開発事業(お土産品開発)、というところをやっているところです。ダイニングの方では、主に朝食の改善であったりとか、オペレーションの改善であったりとか、急に入ってくるオードブルやビュッフェなどのレシピを考えたりのイレギュラー対応をしています。

そして、地域開発事業の方は、自社でお土産品を開発するということを目指しています。その中で私は食品部門での開発担当者ということで、島でのお土産品を開発しているところです。

武井さん:
茨城県つくば市出身で、女子栄養大学という管理栄養士の資格をとれる大学に通っていました。管理栄養士の資格をとって新卒で働くことを考えたときに、管理栄養士として働くかどうかを悩んだ時期があって。

まずは栄養とかを考えずに、楽しく料理をしてみたいなという思いがあって、その時にたまたま島食の寺子屋のことを知りました。楽しそうだなと思って事前に来島見学をした時に、イメージ通りだったのでそのまま入塾を決めました。

流し素麺用の竹を近くの山から切り出したり

新卒だったということもあって、寺子屋在学中に授業料を満額を支払える状況ではなかったので、卒業後に1年間は島に残るという前提で在学中を含め2年間で授業料を支払うという制度を使うことにしました。

自分的にも、新しい土地に行くのに1年だけ行くのはもったいないなと思ったので、ラッキーと思いながら応募した記憶があります。


Entôダイニングの特徴を教えてください。

吉冨さん:
ダイニングは海士町産のものにこだわっているところと、隠岐がジオパークに関係する土地ということで、ジオに関係するドリンクを提供するようにしています。今年からは、食材の視野を拡げて、「隠岐」という括りでその土地の食材を使うということを守って朝食・夕食と提供しています。

Entôダイニングの1日/1年の流れを教えてください。

吉冨さん:
基本は朝番と遅番という形で、朝番が船の時間帯にもよるのですけど、朝番が5:30~14:30、遅番が13:00~22:00という割り振りで、あいだに1時間の休憩を挟んでいます。朝番は朝食対応と翌日の朝食仕込みというところと、遅番は夕食のみをやります。

繁忙期は7月~9月のシルバーウィークが明けるくらいまでは、割とコンスタントに忙しい感じですね。本土ですと年末年始も忙しいのですが、年末年始は日本海が荒れる関係で、割と12月~2月は割とゆったりとした時間を過ごしています。なので、その間は喫茶を営業してみたりと島民向けのプランをやってみたりしています。

喫茶「遠島」

Entôダイニングの料理はどういうイメージですか?

大前提として地産地消です。海士町のものだけで、肉野菜魚を含め地産地消率は95%くらいはありますし。

朝食は「島のおばあちゃんがつくる朝ごはん」というコンセプトでやっています。島の人たちが昔つくっていた料理の作り方であったりとか、海士町の空気感であったりとかを、料理から感じられる場所にしたいと思っています。

Entôダイニングの朝食

夕食ですと、「地球にぽつん」というテーマを、お皿の上で表現しているような料理が多いですね。また、ジオに深く関わる土地ということもあって、特にドリンクはイタリアなどジオに関わる産地のワインなどを揃えています。

ジャンルでいうと、表現が難しいんですけど、和風の創作フレンチというのが一番近いかと思います。


実際にEntôダイニングに入ってみた1年間で、どのようなことを感じましたか?

武井さん:
島食の寺子屋での実践は、
「まずは先生から言われたことを、ちゃんとこなせるように動く」
というところまでしか個人的に出来ていなくて。

島食の寺子屋での実践 日本料理店「離島キッチン海士」にて

「これ、どんな風にすればいいですか?」とか「どのような大きさにカットすればいいですか?」とか、鞍谷先生に逐一聞いてから動いていたのですけど。

今は指示を受けなくても動いてみるという風に、1年を通して私自身変われてきたのかなと思います。

吉冨さん:
現場で、こちらから指示をすることにも限界があって、目の前の作業が終わった時に自分が次に何をするかというのを先読みして動いてくれるようになっていますね。次の予定を見て、来週これがあるなとか、この食材が結構使われるなとか把握して。

なるべく指示をするようにしてはいるんですけど、なかなかそこに追い付かないという時は、みんなが各々で動くようにしていますね。

武井さん:
実際に働き始めた時に、扱う食材が違ったりすると、もっと戸惑うことがあったかもしれないけど、扱う食材が同じだったので、食材のことに慣れた状態でオペレーションに集中して色んなことを体得していくことができたのは良かったです。

Entôダイニングでも島の魚を捌く

吉冨さんにとって、武井さんはどんな後輩ですか?

吉冨さん:
料理基礎というところがあまりないスタッフもいる中で、武井さんは島食の寺子屋出身というところで、基礎技術のところはしっかりしているなと感じつつ。

ただ、武井さんはあまり意見を言うタイプではないので。
とはいえ、思っていることもあるし、考えていることもあるはずだなと思っていて。なので、最初にまずは言えるように引き出してあげる関係を築こうと思っていました。

武井さんから「厳しくしてください!」って言われたので、「わかった!」という感じで。いきなりバンって厳しくするのもなんなので、徐々に言うことを言っていますし。

でも、厳しくしてと言われつつも、ずば抜けて何かができなかったりとか、悪いことをしているわけではないので、怒ることもそんなにないかなと。私的には即戦力として、頑張ってくれているなと思っています。

あと、いい意味でまっさらだからこそ、仕事に対して嫌なことを言わないのが良いですし。繁忙期も忙しくて残業が多くなっても、誰に対して文句も言わずに、淡々と仕事をして帰っていく。当たり前のことだけど、他の人は意外にできなかったりするので。

次に彼女に対して伝えていくこととしては、より実践的なところを目指しています。こないだ単発でやった喫茶も武井主体でやりましたし。全責任をぼんと渡して伸びるタイプでもないので!どちらかというと一緒にやっていって、徐々に手を離していく感じですね。

今年はふたりで海士町の中でできることをやっていこうよと思っていて。
一緒に経験しながら、飲食って色んな方向性を教えてあげたい気持ちです。

武井さんにとって、吉富さんはどんな先輩ですか?

武井さん:
仕事の相談もしやすい環境にしてくれていると感じています。
仕事以外のプライベートでも仲良くしてくれて、ありがとうございますって感じです。料理に関しては見ているだけでも勉強になりますね。

ダイニングでの接客の様子

島で料理をすることは、料理人にとってどのような意味がありますか?

吉冨さん:
繁忙期を過ごしていると、本当に食材に限りがあるなと思って。
その中でどのようにやっていくかというところが、料理人としての腕の見せ所だし、経験を活かすところだと思っていて。

京都に研修にいった際に、「草喰 なかひがし」の中東さんとお話をさせて頂いたときに、「何もないけど、今君たちが踏んでいる草だって食べられるんだよ」って仰っていて。そこまで深掘りして考えてこれていなかったなと、その時に感じて。

離島の良さって、今までみんなが食べようと思っていなかったものであったり、昔の人は食べていたけど今は失われてそうになっているものがあるのかもって、深掘りしていくと面白いのではないかなと思っています。

視点的には「これ食べられるかな?」とか、
これって食べること以外に何かしらに活かせないかなとか。
食べられないものであれば、器であったりか鑑賞用の飾りにしたりと、
視点が変わってきて。

栄螺の殻を使ったキャンドル

お土産開発も、今までにない材料を新しく育てて作るとかではなく、今までみんなが泣く泣く廃棄していたものとか、本当はこれどうにかしてほしいってものを商品化するのが、この島でのやり方として良いやり方なのかもしれないと思っています。

武井さん:
島に行くっていうこと自体に特別感があるんじゃないかなと思っています。
そこで食べる料理というのも、お客様にとっても特別なものになるでしょうし。島で料理をしているだけで、特別だなと思えます。


これからどのような目標を持って仕事をしていきますか?

吉冨さん:
2024年中に、お土産品をいくつか必ず商品化するということと。

あと、海士町から海外にインターンに行くということをできるようにしたくて。それこそ、アリスウォーターさんがされている、シェ・パニースへとか。東京とかに行かずとも、海士町に来てもそういうことができるよっていうモデルケースになれればと思っています。

あと、Entô以外の場所で、海士町の料理を表現するとこうなるよというのを、武井に手伝ってもらおうと思っているので。最終的には、生産者と持続的に繋がりを持てるように商品化をしたり、色んな人が港周りを訪れるようにすることが、私の料理人としての使命だと思っています。最終的にはどこかでお店をやりたいと思っています。

武井さん:
私は毎日とにかく目の前のことを頑張っていくし、とにかく楽しくやっていく時期ですね。


Entôで働いてみて、同じ島でも過ごし方が変わりますか?

吉冨さん:
島食の寺子屋にいると、島の人たちとの繋がりを持てると思うんですよね。Entôにはゲストは色々な方がいらっしゃっていて、そのひとりがアリスウォーターさんだったんですけど。

色んな食に関わる方々だったりするので。次にこういうキャリアを聞いておきたいなとか、そういう知り合いは増えるし、どのような人と関わっていきたいかも選べるのかなとも思う。島というフィールドで、島の外の人とも関わりを持っていけます。

武井さん:
島食の寺子屋で得た生産者の方々と、二年目も関わっていくと、やっぱり顔を覚えてもらっていたりとか。色んな行事ごとにも参加しやすいですし。

Entôに入ってから、寺子屋に入っておいて良かったと思うことは多々あったので。Entoは寺子屋での知識とか一年間を活かして、実践の場にスムーズに移れました。

吉冨さん:
いきなり現場に入ると、その人のことを知るのがけっこう難しかったりするんですよね。どこまで、どのようなことができるか手探りというか。

でも、島食の寺子屋という場所を通過していることを踏まえて、この人はここまでのことはできるし経験があるって、理解が早められますね。

武井さん:
島食の寺子屋にいる時は、何人かいるうちの生徒のひとりって感じだったんですけど、やっぱり二年目になったりとか、少し島に残るというだけで名前を覚えてもらったりとかがあったので。一年目の時よりも、ひとりの人としてちゃんと見てもらえている気がします。

吉冨さん:
人事的な視点でも、一からスタートの人よりも「島食の寺子屋で一年を過ごしていると、ここまでできるのだろう」という前提があるので、どんどんとできる仕事を任せていきやすいなと思っていて。


余談


休みの日は何してる?

吉冨さん:
ずーっと料理をしていますね。
それこそ、武井も遊びにきてくれたりしていますし。
こないだは、しゃぶしゃぶの鍋をフリマで買って、その二日後にふたりでしゃぶしゃぶをしました。

武井さん:
最近は、パン作りとかお菓子作りをしていますね。
あとは散歩。散歩友達が欲しいんですけどね~。

吉冨さん:
三月は一緒に旅行します。出させます! 尾道へ。
なっちゃんと3人で、結局同じ部署の人たちと(笑)

私が全て行程を作って、他のふたりはただただ付いてくるだけっていう。
行程を作れば自分の好きなところに行けるじゃないですか。

ひとりだと厳しいけど、何人かだと入れるお店とかありますし。
休みの日に食べる料理は、良いものというか、面白そうなものとか食べたいタイプで。ご飯屋さんだけは、自分でどうしても予約をしたいんですよね。

そんな感じで、なんだかんだ一緒に遊んでいますね。

インタビューの間、終始ふざけながらも真面目に楽しむようなおふたりでした!

(2024年2月14日 収録@Entôロビー 休日編)