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おけら帝国物語 Part 1

あるところに、おけら帝国という国がありました。

その国にはある変わった風習があります。
その国の国民たちは、口頭では話をしないのです。
コミュニケーションは、全て筆談で行われていました。

口で話せないわけでは、ないのです。
どこから見ても普通の人間です。
ノドの部分だけが、天龍源一郎みたいな感じなのではありません。
なのですが、いずれにせよ全てのやりとりは筆談にて行われておりました。

そういう事情でございますので、紙の需要は5年前までハンパなくありました。その国は今年で開国150年記念ですので、145年間、紙を使い続けていました。パルプを、使い続けておりました。

幸い、その国にはトトロというペットがおり、
トトロが植物を急成長させる能力を持っておりましたので、
パルプの原材料は問題なく供給できておりました。

しかし、五年前、ナムという青年が筆談でつぶやきました。
「てかさ、ホワイトボード使えばいいんじゃね?」
翌日、ナムはみんなに持ち上げられて、帝国の総統になりました。

しかし、国民の間ではナムを持ち上げた違う事情がございました。
ナムはもともと帝国の給食当番でした。
朝早くから起きて、せっせとみんなの為に料理を作ります。
前日から献立は決めているので、あとは手を動かすだけです。
長年の経験からか、どんどん料理ができていきます。

この料理が、酷くマズいのです。
酷く、マズいのです。

どれだけマズいかと言ったら、ぶっちゃけ言葉では表現できません。
普通の白飯が、すでに、マズい。
普通に炊けているのに、見た目はコシヒカリみたいなのに、マズいのです。

それもナムはこだわりまくるタイプの性格なので、一度の食事で5品は出してきます。国民は毎日、テレビ4台に囲まれて、その全てで映画のSAWが放映されながら、なんとかモノを喉に通しているような感じに苛まれながら毎日を過ごしていました。

そんな感じでしたので、ナムを総統に押し上げる時の国民の必死さはハンパありません。実はこれも、帝国民の裏でコソコソ動いているとっても賢い参謀の作戦だったのです。ナムにホワイトボードを提案させたのも、実はこの参謀でした。

国民はもう大喜びです。
新しい給食当番を早く決めたかったですが、まずは祝勝会を開くことにしました。国内外から様々なお酒を取り寄せて宴会場に押し寄せる国民たち。

そこで目にしたのは、料理を続けるナムでした。

「総統になっても僕にできることはこれくらいだからさ、やらせてよ。」
キラキラした目をしながら国民に訴えかけます。
もちろん総統の命令ですから、国民が反対することはできません。
参謀の作戦負けです。
参謀はうなだれて、前職の作詞家に戻ることにしました。
国民もうなだれて、なんとか舌をごまかすために酒を爆飲みし始めました

国民は、ナムに料理をやめさせる権利を、自ら奪ってしまったのでした。

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