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日本に一時帰国後アメリカに戻ったら、現実に適応できず中国ドラマに陶酔した件

2023年の10月下旬に5年ぶりに日本に一時帰国した。
普段はアメリカ中西部の大学町で暮らしていて、COVID-19の流行前は2年に一度日本に戻っていた。2020年に帰る予定だったのに世界的な封鎖で帰国できず、しかも自分はワクチンを打たない選択をしていたから、出入国のコロナ関連の規制が全部外れるのを待っていたら2023年になるまで日本に帰れなかった。

今回の帰国では、フランスに永住する同窓の友人と旅程を合わせて東京で5泊同じホテルに滞在した。学生時代の共通の友人らと落ち合って飲みに行ったり、母国語で思い切り冗談を言い合って腹を抱えて笑い転げる数日を過ごした。旧友と山の方へ行ったり、海に行ったり。家族で集まって食事したり、それは素晴らしい体験だった。大陸の真ん中の方に住んだことがない方にはこの状況がわかりづらいかもしれないが、海に行ったり山に行ったりが簡単にできるというのは本当に夢のようなことなのだ。

それで、東京で楽しい2週間を過ごしたあとにアメリカの田舎に戻った私は体調を崩した。車に乗っていても、もう海も山も見えない。かわりに地平線のかなたまで続くとうもろこしの農地。それを見るたびに脳が胸焼けがするような、うんざりする思いになる。誰にも会わずに家からリモートで仕事をこなす恐ろしいほど静かな日常に、身体の不調が心の不調につながっていった、11月の終わりには「あ、ちょっとヤバイな、このまま行くと鬱状態に陥ってしまいそう。」という自覚があった。そこでガツンと筋トレかなにかしてすぐ復活できればよかったが、機を逸してずるずると堕ちていった。

その頃、何故か中国時代劇のビデオクリップがYoutubeのホーム画面に上がってくるようになった。これらの短いビデオのタイトルが微妙に変な文章で、例えば、「孤高の皇帝は嫉妬深い恋人に変わり、公の場でヒロインを抱きしめ、自分の優位性を宣言した」とか、「14万年間放置され続けたヒロインは今日ついにその関係に終止符を打つ」とか、え?どういうこと?と思いクリックしてしまう。どうも各クリップはドラマの一部分のシーンを切り取って勝手に題をつけたもののようだ。元になるドラマを探してみればそこには眩いばかりの中国神仙ドラマの世界が待っていた。

振り返ってラッキーだったと思うのは、一番最初に観たのがヒット作、「永遠の桃花」(中国名:三生三世十里桃花、英名:Eternal Love)だったことだ。脚本が面白く、俳優、女優さん達は脇役でもこれでもかというほど美男美女の大量投入で誰が出てきてもひたすら美しい。登場の神仙達が出かけるときはいきなりシューッと空を飛んだり、何千、何万年も生きてたりで、とにかくアメリカでうつ病勃発の自分の実生活とは全く何の関係もない。話している言葉もわからないし字幕に集中しなければいけない。中国ドラマを鑑賞している時間だけは憂鬱で不安な気持ちや胃のむかつきを感じることもなくドラマの世界にすっかり心奪われる。仕事と食事時間以外は人にも会わず家にいて、ずっとドラマを観ていた。現実からの完全逃避。

視聴は主にYoutubeからで、音声は中国語、字幕は英語か、英語字幕からの自動翻訳での日本語で観る。中国語を英語にすると驚くほど字数が膨らむので時間内に読みきれないからなるべく日本語字幕で観る。視聴作品の英語名、中国語名、日本語名と俳優さんたちの名前をグーグルシートに控えていて、昨年の12月から今年の1月と2月で37のドラマ、合計1333話を視聴したようだ。1話が30~40分でオープニングとエンディングを省略すると1話25分~30分くらい、冗長な場面は飛ばしながら観ることも多いけれどこなした話数の多さに我ながら引く。異常だという自覚はある。友達に相談したら、「飲酒するよりいいんじゃない?冬で外は寒いし暗いし。ドラマ観ててもいいんじゃないの?そういう時期もあるよ。」と言われて少しホッとする。

12月から徐々に悪化した不眠症は1月がピークで、早く寝ても早く目覚めてしまい一日の睡眠が2.5時間の日々が続いた。眠さが限界に来ると数日に一度5時間程度眠れる日が来る。2月は睡眠時間が少しだけ伸びて一日3時間。3月に入り3.5時間まで伸びた。早朝覚醒した未明に、布団の中で今朝も中国ドラマを観ている。




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