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小川洋子さん『博士の愛した数式』を読んで

前回の『夜のピクニック』に引き続き、超有名だけどまだ読んでなかった一冊です。
先に書いておきます。
やっぱり名作は名作でした。

著者の小川洋子さんとの出会いは『猫を抱いて象と泳ぐ』でした。
私は興味の範囲以外のことは疎くて、小川洋子さんのことなんて一切知らなかったのですが、本屋のポップがきっかけでこの本の購入を決めました。
内容はうる覚えなのですが、「この本を読んで、この出版社に入ろうと決めました。」的な内容でした。
読んだ本に感動することはあれど、人の職業選択までさせてしまうほどの作品ってどんな内容なんだろうって猛烈に惹かれたのを覚えています。
そのポップ、写真で撮っておけばよかったとずっと後悔しております。

『猫を抱いて象と泳ぐ』は間違いなく傑作。
読み終わった後に興奮しながら著者の小川洋子さんってどんな人なんだろうって調べ始めました。

おいおい『博士の愛した数式』の人だったのかよ。
そりゃスゲー人でしょうね。
『博士の愛した数式』も読みましょうか。
みたいな感じで購入した次第です。

2冊しか読んでないですが、小川洋子の作品って読者の想像力に任せちゃうどっしりとした作品だと思いました。
読者が読んでいて誤解しないように、正しく世界を理解できるようにっていう説明が全然無いです。
だから理解力や想像力が追いつかないと全然面白くないと思います。
ブラウン管テレビで白黒の映像がつまらなそうに流れてる感じ。

でも、美しく本の中に存在している世界がちゃんとあります。
この世界のことを、個性的な人たちを愛せるようになると、途端に白黒で無機質だった世界が明るくなっていきます。
それに気づき出すと、もうページをめくる手が止まらない。
最高に面白いんです。
そして温かいんです。

『博士の愛した数式』の中で一番心が動かされたのは、物語の後半、博士が熱を出して"私"が看病のために博士の家に寝泊まりをしたところです。
ここまで読んでくると、私も"私"も博士のことをよく理解して、尊敬し大切にし慈しむ心で接していると思っていました。
ですが、博士の苦悩を理解なんかできていなかった。
ちゃんと必要な情報は出ていたのに、どうして私も"私"も気づいてあげられなかったのだろう。

朝起きて、彼が最初に何を思うのか。
何を考えて、今の状況をどう理解していくのか。
その辛さはどれほどのものなのか。

博士を見つめる私と"私"の、悲しさや虚しさや申し訳無さや恥ずかしさが見事にシンクロして涙が出てきました。

また、子どもの頃、算数や数学、算数パズルが好きだった私には、数への見方や理解が若返ったような感覚が得られたのも嬉しかったです。
パッと見てそれが素数かどうか調べてしまうところは、やるやるって思ってしまいます。
美しい三角数の求め方に感動した"私"を見て、小学生の時に悩んで悩んで答えを知って感動した私は幸せ者だと思いました。
数を直感で捉えて、その数の性格をなんとなく理解してみたいなことをやっていた小さい頃の私を褒めてやりたいです。

ちなみに私が1番好きな数は47です。
見た目のバランスがどんぴしゃに良くて、小学生の時に一目惚れしました。
博士の大好きな素数のうちの一つです。
日本の都道府県の合計数です。
いろは歌に出てくる仮名文字の数です。
野球の工藤公康や山口鉄也、今だと高橋奎二らが背負っている背番号です。
47は投手ばっかりみたいです。不思議です。
そして、各位を乗算すると、この物語にも出てくる大切な完全数28に落ち着きます。

そんなところで、不思議な縁を感じる一冊でした。

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