辻村深月さん『傲慢と善良』を読んで

多少のネタバレを含みますので、ご留意ください。


こんなにカロリーの高い小説、もう読めません。
1度読めばいい、ずっと心に残り続けるから。

婚活を題材とした小説で、
自分が今まさに婚活をしている状況なので、
いろんなものに胸にぶっ刺さる思いでした。

相手の見た目や条件などを否応にも気にしてしまうこと
高望みはしていないはずなのに、小さなことが気になること
会話が上手く成り立つかどうかいつも不安なこと
些細な一言への違和感から、「価値観が違うのではないか?」という心配
自分はそもそも相手と釣り合うのか、
相手も自分と釣り合うのか気にしてしまう
「この人となら!」と期待を膨らませても、何度も来る「お断り」
見えない出口、過ぎていく時間(と消えるお金)
「この先の人生、自分は一人なのか」という不安
比べなくてもいいのに、周りの結婚していく友人と比較してしまう
「『普通は』結婚できる」という言葉の残酷さ

現代人の婚活が上手くいかない背景を
『傲慢さと善良さ』にあるのではないかと問いかけられる前半

婚活当事者としてはあまりにもリアルに聞こえすぎて
「そうか、そうなんだ・・・」と納得せざるを得なかった

低すぎる自己肯定と高すぎる自己愛
相反するようで全くもって矛盾していない困った感覚
婚活市場に当てはめて意訳すると
「自分は『恋愛弱者』だけど、ありのままの自分を好きになってほしい」
といったところだろうか。
どこかで聞いたことのあるようなセリフだが。
分解して考えると、自己肯定と自己愛のアンバランスなんだなと。

辻村さんの分析力に感嘆してしまう。
そして、『傲慢と善良』の2語に押し込めて納得させてしまうことに
センスを感じる。(超上から目線)

婚活していた自分と比べたり自分の価値観を問いただし直したりしながら
読み進めることになるので、
まあ、カロリーの高いこと高いこと。
恋愛強者の10代後半から20代前半や既婚者は
また違った感じ方をするんでしょうね。

自分は恋愛弱者の自覚があるし、30歳を目前に控えた人間なので危なかった
今、自分は大好きな人と巡り合えて、
相手の人も私を大切にしてくれている
この状況がなかったら、
「誰かと会い続けて見えない出口を探している状況」だったら
この本を読んで心が真っ黒になっていただろうと思う

後半、見えなかった部分が見え始め、真の主題に話が進む
前半のようにキーワードは無い
でも、辻村さんが語りたいのは後半なんだろうと思った

互いの両親や家族、友人、職場の同僚、元カノ、過去の婚活相手
いろいろな関係から見られていた婚約だったのが前半だった。
人間関係に縛られ、他人を気にして、過去に囚われて、
相手のことを真っすぐ見ているのはずに、
真っすぐ見ていないんじゃないかと自分に疑ってしまう。
自分を疑ってしまうから、相手も疑ってしまう。
信じられなくなる。
好きなのに。

後半、一気に話が加速する。
前半までに気にしていたこと
それらを全て無視して、架と真実、二人だけの問題として考える。
そして自分自身と向き合う。
自分をさらけ出す。
善良で世間知らずで恥ずかしい人間でもいい。
傲慢で鈍感で気の利いた言葉が出てこない人間でもいい。
そんな自分を相手にさらけ出せるか。
さらけ出した相手を受け止められるか。
それでも、いや、だからこそ「好き。」と伝えられるか。
「これは二人の問題だ」って、
そこに周りは関係ない。気にすることはない。
それが結婚するってことなんじゃないか。

私はこの本を読んで、そう思えました。

私は、『善良で傲慢な』人間の一種です。
この本を読んでいくうちに、それに気づいてしまい、怖くなりました。

私は、今、大好きな人に対して覚悟を持てているのでしょうか。
何があっても、全てを受け止めて、受け入れて、乗り越えると。
これからもずっと、好きでいられると。
『覚悟はできている』と、この本を読む前から言い続けているので、
自分を信じる他ありませんね。
『愚直』なところに『自己愛』を感じる自分を信じましょう。

今も、これからもずっと大好きですよ。

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