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ここからが日本の男子バレーの新たなスタートとするために。(個人的東京五輪振り返り)

(写真FIVB)

 オリンピック東京大会2020。バレーボール日本代表男子は、1992年バルセロナオリンピック以来、29年ぶりにオリンピック決勝トーナメントに進出し、準々決勝で世界ランキング1位のブラジルと対戦。セットカウント0-3のストレートでの敗退とはいえ、充実した内容と成果があるゲームで大会ベスト8(7位)で東京オリンピック2020大会を終えました。

 選手のみなさん、チームスタッフのみなさん、その他運営やボランティアの方々、さまざまな形や立ち位置から日本の男子バレーボールを支えたり応援してくださったみなさん、おつかれさまでした。本当にありがとうございました。素晴らしい経験をたくさん私たちは得ることができました。

「龍神NIPPON」(バレーボール日本男子代表)の軌跡と奇跡

 とにかく「29年ぶり」という言葉で何度も盛り上がり、歓喜と称賛につつまれた、バレーボール日本男子代表チーム。その足跡は、この場で詳細を述べるまでもなく、また振り返りも大変すばらしいものがたくさんあるので、その紹介にとどめておいたいと思います。

(ウィキペディアのページより)

 今大会最後に挑んだのが、世界ランキング1位でもあり、現代バレーの元祖でもある常勝軍団ブラジル男子代表。そこでも、日本代表は、果敢に勝負を挑み、充実したゲーム内容に心躍らせエキサイティングした人は多かったと思います。

 平成の時代の日本男子バレーの長いトンネル、低迷期から、一気に明るい光が射し、そこにこれからの期待感と希望、勇気をもてたはずです。そして何よりも嬉しいことに、選手たちは、地に足をつけしっかり前を向いている・・・現状に満足せず、むしろまだまだこれから立ち向かわねばならない課題やそれぞれの道と向き合っていることが、うれしい以上に頼もしくさえ思えますね。
 これからも、バレーボール日本男子代表だけではなく、V.LEAGUE(Vリーグ)や大学バレー、春高バレーなども見逃せなくなりました。みなさんぜひ応援していってみてください。

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よりディテール(細部)な勝負の次元へ・・・

 現代バレーボール、世界のバレーボールで、「リードブロック」が浸透してから約30年以上、バックアタックを組み込んだ最大4人のアタッカーによる「同時多発的シンクロ攻撃」が浸透してから、そしてリードブロックやシンクロ攻撃をベースにディフェンスやオフェンスのシステムが整備され、それを打ち破るべくここ10年間で進化し続けるサーブ力と「サーブ&ブロック戦術」・・・・。

 10年以上前、20年30年以上前から、海外勢はバレーボールの戦い方において、トレンドを浸透させ標準装備し、さらにアップデート、進化させながら今日に至っている中、日本のバレーボールは、その潮流に乗ることができないまま長年海外勢に溝を開けられてきました。そしてようやく、日本の男子バレーではここ数年の間という短期間でそのアップデートを図ろうとしながら今大会を迎えました。その戦い方は、海外勢の戦い方のエッセンスをたくさん取り入れ、対等に勝負できていることは、もう皆さんも承知のことだろうと思います。 

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 どうやら、日本の男子バレーボールは、世界の中で戦っていくために、

「何をする必要があるのか?」がはっきりつかめているのだと思います。

 日本を飛び出し果敢に海外のリーグに挑戦してきた日本人選手たち。そして日本国内リーグであるV.LEAGUE(Vリーグ)にも海外から素晴らしい選手やコーチたちが来てくれている。そうやって今日に至っているんだと思います。

 しかしながら、イタリアやポーランド、ブラジルと・・・日本は善戦したとはいえ、悔しいけど、力の差があったことは認めなければいけません。
 昔から言われている「高さとパワー」も要因としてゼロではないかもしれません。ですが、これはかつてのような敗戦の逃げ口上ではなく、アンダーカテゴリも含めたトレーニングなどでも解決できそうですし、何よりも「高さとパワーで負けた一辺倒」になっていない点が素晴らしい変化です。
 
 だとすれば、これからのチャレンジすべき課題は何なのか?個人的には、「時間をかけて経験という成功のデータを積み重ねる」
ということだと考えます。 
 
 海外勢のチームと、同じようなゲームモデルを導入しても、日本のクイックやバックアタックはなぜか相手に通りにくく、決まらない。相手にブロックされたり簡単にディグされたりする。
 ブロックも、リードブロックから2枚、3枚跳びにいけている場面が昔よりも格段に増えている中、日本の2枚、3枚ブロックを打ち破られてしまう、またはブロックアウトにされてしまう。
 意図を持ち、海外チームの選手を狙ってサーブを打つも、なかなか思った通りに崩れてくれない。ストレスを与えるに至っていない。
 
 やるべき事は分かっちゃいるけど、相手に通じていない。この状況を打破するためには、今まで以上に日本国内のバレーがグローバルスタンダード化し、世界のバレーと近い質やレベルでゲームがなされていくこと。そして海外にチャレンジしようとする選手を後押ししてあげること。

・世界レベルのサーブを打ち、レセプションする。
・世界レベルの攻撃を繰り出し、それをブロックする。
・世界レベルのブロックを相手にスパイクを決める。
・世界レベルのオフェンスシステムに対してトータルなディフェンスを敷く。
・どんなところからも得点を奪いに行く攻撃を繰り出す。

 ブロック、サーブ、クイックやバックアタック、レセプション・・・これらを、そういった世界レベルの環境の中で地道に経験を重ねて、鍛え上げていくことが次なる課題になってくるんだろうと感じました。柳田選手が重い扉をこじあけ、石川選手や西田選手も世界相手に強力なサーブを打ち込んでいますが、これからは日本ではそれが特殊例ではなく(他にも出現し始めていますが・・・)、国内でもビッグサーブが当たり前にみられ、そしてリベロ山本選手だけでなく、高橋蘭選手や高梨選手のようにアタッカーでも当たり前にレセプションできる。そういうスパイラルが日本国内で起きてくるはずです。

ネットの下の勝負から、ネットの上の勝負へ。自分たちの勝負から、ネットの向こうの世界との勝負へ。

 日本のバレーボールでは伝統的な指導として、ディフェンス面におけるボールコントロール。「ボールを床に落とさない」ための豊富な運動量を求められる傾向が強かったのです。ですから、ディグやレセプションなど、昔からいう「レシーブ練習」にものすごい練習量とこだわりをもったトレーニングが続いてきました。

 しかし、今のバレーボール日本男子代表は、ディフェンスだけではなく、オフェンスもサーブも進化しています。
 特に、「サーブ」と「ブロック」は、日本の伝統的な練習では軽視されがちだった要素でありました。しかし、実は現代における世界のバレーでは、むしろゲームを制するための一丁目一番地。ゲームの核であり、基本であり、ゲームチェンジャーになるものとなっていています。
 これからの日本でも、これまで以上に、サーブやブロックの機能を研究し、追究し、そこからどのようにトータルディフェンスと多彩なオフェンスシステムを発揮していくか。
 
 ネットを制する者はバレーを制す
 勝負はネットの下からネットの上へ
 戦いはネット手間の自分たちから、ネット向こうの兵たちと


 東京オリンピック2020を終えて、いろんなチャレンジングな課題やハードルがポジティブに見えてきている中、受けのマインドから攻めのマインドへ。たとえディフェンスであっても、意図のある戦略的で、相手のシステム破壊に挑戦するための空中戦。空中での思考判断とハイパフォーマンスの発揮の勝負という、新たなステージを迎えています。
 日本の男子バレーが、世界の強豪に並ぶその入り口、スタートに立っている瞬間を私たちは目にしているのかもしれません。

「何をするか?」から「どう持続可能なものにするか?」日本の小中高校バレー(アンダーカテゴリ)が生命線に!

 今大会、日本男子代表の健闘、善戦、そして飛躍の象徴となったものの一つに、「フェイク・セット」プレーがありました。
 最後のブラジル戦でも、日本チームから繰り出す「フェイクセット」に相手ブラジルが翻弄され、胸のすくようなスパイクで得点した場面が強烈なインパクトを与えていました。

 このフェイク・セットのプレー自体は、お目にかかる機会はそう多くはありません。ですので、ゲームに勝利する得点源となる必殺技プレーではありません。これをすれば、ゲームに勝てるというものでもありません。

 しかし、大事だと考えているポイントが2つあります。

➀これまで日本では、日本人選手ではほとんど見られなかったプレーだった
②このプレーが出現するに至る創造性、個人スキルの高さ

                              です。

 従来の日本型バレーといえばいいでしょうか?バレーボール風土と言えばいいでしょうか?このような「フェイク・セット」は試合で見られなかっただけではなく、練習場面でも時間をかけて行われることはありませんでした。練習でも行われず実戦でも行わない。ある意味日本では練習や指導に忠実だったとも言えます。
 
 海外の選手や今回の日本代表の選手たちがみせるこの「フェイクセット」。何気なく即興的にやっているプレーですが、

・確かなオーバーハンドパス(セット)の能力
・セッター以外の選手によるジャンプセットの能力
・バックアタックの能力
・相手へのフェイクとなる意図的なモーション
・瞬時の状況判断と他選手との意思疎通

こういったものが、一人のプレーヤーで持ち合わせていないと、発生させることができないプレーです。ですから、かつては日本人のプレーヤーではなかなか見せなかったプレーが、日本人でも、そして何人も、さらには世界トップのブラジルを相手にした大一番の場面でも、こういったプレーを発揮できること自体に、日本の男子バレーの進化が裏付けられているのだと言えます。

 何も「フェイクセット」のプレーは、必勝法ではない。しかし、これができていなかった思考判断や創造性、そもそものボールコントロールやフィジカル面を克服し、日本人でも発揮できるようになってきています。

 「学ぶ」は「真似る」から。これをやればいいわけではないけど、これをやってもいいんです。やってみたらいいんです。やってみようとしたらいろんな探究が生まれてくるはずです。できるようになってみたい、うまくなりたい、そうなるためにはどうしたらよいのか・・・。

 東京オリンピック2020の日本男子代表の選手たち、チーム、戦い方は、日本のバレーボールにさまざまな教材を、ヒントを、未来像の一端を示してくれる「教科書」にもなるかもしれません。

遠回りじゃない、見直すべき重要なポイント(6つの提言)

 一部のスター選手の登場を、ただ単に待っていては、日本代表の躍進も一過性のものとなってしまいます。
 世界レベルのプレーやゲームの維持や追究を「持続可能的に」していくためには、日本のバレーボール指導者の絶え間ない研究と学び、そして一握りのタレント発掘だけではない、本当の「育成」がキーになってきます。
 すべての子供たちに、長い期間をかけて見守り、個に応じた適切なサポートを。この実現をしなければいけない。残念ながら、日本のバレーボール界、いや日本のスポーツにおけるアンダーカテゴリーの実情は、まだまだ理想からは遠いものではないか、というのが正直な実感です。

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 世界のスタンダードをやる。それがリードブロックなのか、1stテンポのアタックなのか、強烈なスパイクサーブなのか・・・。それを教える、やらせる以前に、子供たちに提供・保障されなければならないことがあるように思えます。そしてこれは、指導者目線の「指導」としては、何かの目に見える成果や即効的な手応えとして得られるものではないです。
 しかし、今回の東京オリンピックでの日本男子代表にみんながエキサイトし感動しました。そんな素晴らしい選手やチームを、「持続可能性」をもってみていけるようにするためには、育て続けなければいけません。バレーボールを始める子供たち、バレーボールをやりだした若者たちに、まず植え付けておきたいこと、そしてそれを達成するための環境が必要だと思います。

①楽しむ~FUNdamental
②ボールが友達
③主体性や自発性
④脱思考停止・脱指示待ち、「考える」の当たり前化
⑤モチベーション・ファースト
⑥これらが彼らから湧き出るような大人の関わり方

 プレーができるかできないか。上手いか上手くないか。大会で勝つか負けるか。そんなことばかりに、子供も大人も目を向けすぎては、将来の日本代表を背負えるマインドが育たないのではないでしょうか?

 バレーボールにおける、戦術やゲームモデルは、ある意味指示などで与えられる側面があるかもしれません。しかし、その中のパフォーマンスの発揮やハイパフォーマンスの維持は、コート内の選手たちの主体的な思考判断でしか達成されないはずです。
 残念ながら、まだまだ現状、従来の伝統的な日本のバレーボールの価値観では、その部分を奪ってしまう指導法になっていると感じます。

 日本代表の選手たちは、みんな素晴らしいマインドをもっているはずです。そんな彼らが今、彼ら自身の次なる目標に目を向けているだけでなく、私たちにもある種の期待のメッセージを発していると考えたいです。これからは個人の努力に依存するだけではなく、みんなで育てていくことも、私たちみんなでチャレンジに値することだと思います。

小中高校バレーの指導者、保護者のみなさんへ

 日本は、世界の中でもバレーボールが普及している裾野が広い国です。いろんなスタイルのバレーボールをいろんな形で愛好している人、プレーじゃなくてもいろんな楽しみ方をしている人が多い、そして幅広い世代の人に認知されている、それが日本のバレーです。

 東京オリンピック2020を通して、キャプテン石川選手をはじめとするたくさんの選手たちが、私たちにいろんなメッセージや願いを発信してくれています。私たちは、そこから多くのことをキャッチし、学んでいかなければならないと、私自身も決意を新たにしたような感覚になります。

子供に懸命に関わっている、熱心な日本のバレーボールの指導者や保護者のみなさん。

世界のバレーボールは、4年に一度のオリンピックに、それぞれの威信をかけて挑んできています。

 勝者がいれば、敗者がいる。

男子のイラン代表、男子のアメリカ代表
女子の中国代表

強豪国と目され、それぞれもメダルを狙い挑んだチームが予選で敗退。

同様に、世界中の期待と注目を浴びていた、男子のポーランドやイタリア、男子のブラジル、女子のイタリアやトルコも、残念ながら頂点には立てないわけです。

みてほしいんですよね。
敗者になるということはどういうことか。
「グッド・ルーザー」とは何か
彼らは勝者以上に私たちに大事なことを教えてくれています。私たちに一番欠けているのはそこではないでしょうか。

これからのバレーボール日本男子代表チームの発展と活躍を期待し祈りつつ、これから先も、みんなが歓喜や感動を分かち合えるよう、それぞれの立場でみんなで応援し、育めて行けたらいいですね。

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(2021年)