ブロックは、能動的、積極的なものである
ブロックは重要であり、ゲーム中における戦術的機能や、作戦思考、練習の重点においても、もっと焦点があたるべきプレーだと思っています。
日本では、そんなブロックが練習ではなかなか重点化されず、特に育成世代の練習ではおろそかになりがちな現状があるというのも、当ブログでは何年も前から指摘させてもらっているところです。それが日本のトップレベルのゲームにも反映されており、なかなか世界に追いついていない感が、ゲームの様子からうかがえるような気がします。
指導者講習や生徒たちへのクリニックなどでは、ブロックの主な機能として、
①相手スパイクのコースを塞ぎ、フロアディフェンスのコースを限定する
②ワンタッチを取り、相手スパイクを無効化し、チャンスボールにする
③相手スパイカーへのプレッシャーとストレスを与え、ミスを誘発する
④キルブロック(シャットアウト)による得点を得る
⑤ネット上のボールをダイレクトや押し込むなどで得点につなげる
という項目で説明しています。
しかし、ここで重要なポイントは、「ブロックは能動的なプレー」である。
ということです。
逆に言えば、ブロックは決して、受動的なプレーではなく、意図的に行われるべきだということです。
個人的に、日本のバレーボールのレベルがなかなか世界に追いついていないのは、育成段階の指導プロセスに課題があると考えていて、それがブロックにも言えると考えています。
日本のバレーボールの育成世代の、特にブロックの練習においては、まず決定的に練習に割く割合が小さすぎます。ほとんど練習していないチームも珍しくないくらいです。
次に、日本のバレーボールの旧来の課題の一つに、画一的な型にはめる指導があったということです。フットワーク(ステップ)やハンドワーク、姿勢など、さらには、ブロックのポジショニングやブロッカーのコース選択など選手の判断まで、こと細かに指導者の言った通りにすることを要求されることが多いわけです。
そういう中で選手は、自分の眼と判断を研ぎ澄まし、思考を働かせて、自ら対応することをやめてしまうようになります。むしろ、そうしないと、時として指導者から言われたこととは違うことを実行することになり、指導者に叱責を受けることもあります。
その結果、よく見受けられるブロックが、”おみくじブロック”、”神頼みブロック”とも言えるような、とにかく要求された動きと姿勢をつくることが最重要課題で、自ら出したブロックにボールが当たるかどうかは、相手スパイカー次第という、極めて、ブロックのパフォーマンス効率の悪い状態に陥っているのだと思います。
ですから、どういう状態に陥っているかと言うと、ブロッカーは一生懸命言われた通りにブロックを遂行しても、なかなブロックの手にボールが当たらない状態が続きます。そうするうちに、メンタル的にストレスが自チームのブロックやディフェンスにかかってきます。なぜなら、言った通りにやっているのに機能していないため、打開策を見失ってしまい、ゲームにおける思考が停止に向かってしまうのです。
日本のバレーボールに、シー・アンド・リアクトを伴った、リードブロックが戦術としてなかなか定着していきにくいのも、ブロッカーの主体的な思考判断を奪っているような状況が影響していると考えています。
当たり前の話ですが、もっとブロッカーは、自らの眼と頭脳で判断していいはずです。
・相手のスパイクの可能性を割り出す。
・相手スパイクを無効化できる最低なポジショニングをとる
・シー・アンド・リアクトによる、ボールの行方の正確な把握
・相手スパイクに対して、最もパフォーマンスを発揮するジャンプのタイミングをはかる
・相手スパイクの、ボールのコースを判断する
・相手スパイクのボールコースに対して、自ら手をはこぶ
指導者から言われて行う、動きや姿勢以上に、ブロッカー自身が訓練し、磨いていかねばならないスキルや思考判断があるはずなのです。
ところが実際は、それら「主体的なブロック」を導くことにならない、画一的で型にはめる指導が多いために、ブロッカーは試合中に、ブロックを相手に対応させることや、修正することができないまま、ゲームを終えてしまう。そんな光景が繰り広げられているような気がして、もったいないと思うわけです。
一生懸命やみくもにブロックに跳ぶも、「カミサマお願い」的に手を出すブロックからいちはやく脱し、スパイカーよりもより思考判断を能動的に働かせ、自分たちを優位に導くような、そのようなブロックになるよう、ブロックの練習量の増加だけではなく、指導内容の向上も、求められていると思います。
バレーボールにおけるブロック局面の
off the ball movementsの評価に関する研究
フットワーク
ハンドワーク
アイワーク
それに対するジャッジ(判断)とアジャスト(対応)
ただでさえ日本のバレーボールの練習では、ブロックに割く時間が圧倒的に少ないのです。
それは、日本はボールコントロール重視の練習風土があり、短期的な指導強化しなければならず、ブロックというスキルは、練習効果の実感がなかなか得にくく、実戦での成功の実感も短期間では目に見えるものではないからです。
ですから、従来は、ブロック練習をしたとしても、フットワークやハンドワークなど比較的、行動として実感を伴うものしか焦点があたらかったのです。
女子バレーでも「ブロック」のアップデートがはじまってきた
女子バレーボールでのトータリティ(世界バレー2018)
FIVB volleyball women’s world championship 2018 Japan Sapporo
1次ラウンド PoolB 9/29~10/4 札幌 北海きたえーる
世界バレー女子大会が、当地北海道札幌で開催され、東京や大阪から離れた日本の遠隔地にいて、なかなか国際大会を間近に観ることができない私たちにとって、大変貴重で有意義な経験となりました。今回の札幌大会では、イタリア、中国、トルコ、ブルガリア、カナダ、キューバによる1次リーグの試合となりました。
何といっても世界ランク1位、郎平監督が率いる、シュテイやエンシンゲツといった名高い選手を擁する中国は注目大でした。
イタリアはすべてのすべての選手の個人スキルが高い印象があり安定した試合運びをしていましたし、トルコも選手起用の妙があり試合展開の運び方が大変参考になります。ブルガリアはチームとして一戦一戦に対する目的が明確でしたし、カナダは組織的なバレーにトライしているようで、キューバは露骨に8年後を見据えた強化をしているのがわかりました。
こうして数年に一度バレーボールの国際大会を会場で観ることができているのですが、テレビ中継だけでは感じることのできない、いろんな空気を感じることができます。
やはり、それぞれのチームが、この大会、この一戦にどのような目的や意識を共有して臨んでいるのか、それが日本とは違うような気がします。
おそらく「戦略」という言葉があてはまるのでしょうか?
もちろん、どの試合にも手を抜くとか負けて良いという感じはないのですが、試合ごとに同じチームでもチームの雰囲気や起用方法が違っていて、面白いなと思います。
さて、今の世界の女子バレーボールを実際に観てみると、やはりサーブはどのチームも戦術化が進んでいて、しっかりとゾーンを狙ったサーブがほとんどでした。ジャンプサーブもどのチームでも見られました。
攻撃面では、バックアタックは、まだ男子ほど頻度は多くないし、パイプ攻撃などようなテンポの攻めも少ないものの、旧来の消極的バックアタック・・・つまりフリーボールするよりはマシという意味合いのバックアタックではなく、より積極的にバックアタックを攻撃オプションにしているのもわかりました。
「ブロック」では、中国やトルコなどが積極的に3枚ブロックを仕掛ける場面が見られ、少しずつ男子バレーの組織的な戦いに近づいているのが感じられます。
しかし、一方で女子バレーではまだまだ、ゲームにおける「ブロック」の位置づけが、男子とは同じとは言えない印象です。それは、3枚ブロックをやったかどうかではなく、ミドルブロッカーの動きや、相手の中央攻撃に対するブロックの配置などをみていると、女子バレーにおいては、ブロックの戦術化をさらに整備していくことで、チーム力を高め他チームに差をつけることができるのかなと思います。ですから、日本代表女子も世界と戦えるヒントは、ブロックのスキルや戦術を強化していくことが、世界との溝を埋めることにつながるのではないかと思います。
相手の中央からのクイックやバックアタックなどの攻撃に対して、ブロックが1枚になるチーム、または中央攻撃が絡んだ中からサイド攻撃に切り替わった時にミドルがブロックに行けないチーム・・・こういったチームは今や勝利をつかむのは難しいという印象です。
確かに「リードブロック」というものを標準スキルとすることが大事だという議論になりますが、必ずしもリードブロックをやりさえすればいいというものではなく、そこはサーブ戦術とのリンクや、配置における対応力、相手の配球傾向の分析・・・など、様々なスキルや情報が必要になってくるような気がします。
世界の女子バレーでは、ブロックの戦術化のさらなる向上、個人のブロックスキルの向上、そしてコート上6人の個人スキルがさらにオールラウンド性を求め攻撃オプションをより多く確保することができることが、世界の上位進出のカギになってくるんだと思いました。日本代表女子も、世界の上位に入り込む強化はできるんじゃないかと、感じます。
世界の中で女子バレーでも、ブロックスキル、ブロック戦術のアップデートがはじまってきた感があります。これからは女子のチーム力を推し量るためにもブロックに注目していくことが必須になってくるはずです。
(2018年)