ブランドにおいて「意志による主観性」と「数字による客観性」は、どちらが大事なのか?
私は、NineCraftという会社を運営している鄭泰玉(ちょんておぎ)と申します。
NineCraftは、「100年続くブランドを育てるチームに伴走する」をテーマに探求しており、短期の売り上げと長期の関係性構築を実現させるためのメソッドを日々開発しています。
我々の専門領域は「売上を作り出すためのマーケティング」と「意志を中心としたチーム全員でのブランディング」です。
「どのように数字を作り出すか?」という問いと、「どうやって意志を貫き通すか?」という問いを同時に考え、お客様と共にそのトレードオフ構造を打ち崩そうと仕事に励んでいます。
今回は、そのような我々の立場だからこそ伝えられる「ブランドにおいて『意志による主観性』と『数字による客観性」』は、どちらが大事なのか?」というテーマに対する解説を行なっていければと思います。
数字は「客観的指標」として優れている
ビジネスにおいて、数字は「客観的信頼性」の高い指標です。
例えば、以下のレポートがチームから報告されたとします。
この時、次の3ヶ月間も「クリエイティブA」に引き続き投資をするという判断は賢明であると言えます。
そして、その判断基準は人によってほとんど変わることはありません。
どれだけ想いがあろうが、意志が強かろうが、数字の前ではそんなもの意味がありません。
まるでアジアゾウに踏みつけられたシャボン玉のように、あらゆる主観性は一瞬で消滅してしまうのです。
パンッ、ゼロ。終わり。
それほど、数字の客観的信頼は高いのです。
効果効用をもたらす現象には、必ず副作用が存在する
数字がもたらす効果効能は大きいです。
誰が見ても認識の変わらない客観性は、ビジネスのあらゆるシーンにおいて重宝されます。
ブランドを運営する人も、このことは理解しておくべきでしょう。
しかしながら、もう一つここで取り上げておくべき真実があります。
それは、「効果効用をもたらす現象には、必ず副作用が発生する」ということです。
「誰が見ても認識の変わらない客観性を担保する」という数字の効果効用は、「主観性を排除してしまう」という副作用を生み出します。
この副作用は一見すると、ビジネス上の判断には影響しないように思うかもしれません。
しかしながら、もしもあなたが「ブランド」を運営する立場だとしたら、この副作用がもたらす影響力を見過ごしてはいけません。
ブランドにおいて、主観性は重要な要素である
「客観的である」とは、誰が見ても認識の変わらない状態であるということ。
一方で「主観的である」とは、あくまでも1人の個人的な精神性から出た「ひとつの意見」であるということを意味します。
「数字」は客観性の象徴的な概念です。そして、主観性の象徴的な概念は「意志」です。
意志は「論理を超えた個人的な強い思い」であり、圧倒的な主観性を帯びた概念と言えるでしょう。
ここまでの話から、
「数字→客観性」
「意志→主観性」
という対立概念が立ち上がってきました。
それを踏まえて、冒頭で伝えた報告の例を再び取り上げてみましょう。
この報告を「数字」軸で判断する場合、結論は誰が判断しても変わらないものになります。
「クリエイティブA」は、使い続けた方が良い。ほとんどの人がそのように判断をすることでしょう。
しかしながら、「数字」の効果効用が発揮される時、「主観性の排除」という副作用が発動していることを忘れてはいけません。
「誰が判断しても同じ結論」になる。これは数字の効果効用です。
そして、その効果効用の裏側には「他者が考えるものと全く同じような、まるで独自性の欠けたアイデアを導いてしまう」というリスクが隠れ潜んでいます。
ブランドにおいて、独自性や差別化は生命線そのものです。
数字を軸とした客観性をもとに判断すれば、確かに関係者全員が信じられる結論を導くことはできます。
しかしながら、そこに独自性なるものはありません。
そして、独自性が欠けた判断を繰り返していくことは、ブランドの独自性が失われることに繋がっていくのです。
ここに、数字の副作用の怖さが見てとれます。
一方で、主観的な判断である「意志」は、その人個人の精神性によるものです。
ゆえに、そこに独自性なるものが生まれる可能性は非常に高いです。
意志は再現不可能であり、その人独自の精神性から生まれる極めてユニークなものだからです。
独自性や差別化が生命線であるブランドにおいて、意志の効果効用はまさに欠かすことのできない要素であると言えるでしょう。
ブランドチームにおいて、「意志」による「主観性」は大きな意味をもたらす
意志による主観性とは何か?
それは、「自分たちはそれはしたくない。なぜなら、それはしたくないからだ」という精神的な性質のことです。
全く客観性に欠ける、極めて主観的な言い分と言えるでしょう。
しかしながら、このような「意志による判断」はブランドチームに少なくないメリットをもたらしてくれるのです。
意志はチームのアウトプットに独自性を見出す
「アウトプットに独自性を見出す」
これは、意志がチームにもたらすメリットの一つです。
成果を上げている「クリエイティブA」に対して、「ブランドの意志に反するから、ストップする」という判断をブランドオーナーがしたとします。
(これはブランドオーナーがクリエイティブAはブランド毀損につながるかもしれないと考えたからです)
正直に言って、楽なのは「クリエイティブAそのまま利用する」ことでしょう。
結果が出ることはわかっていますし、そのまま同じクリエイティブを利用すれば良いため、作り変えるという手間も発生しないからです。
もしも、ブランドオーナーの「意志」を尊重するとなると、数字が取れるクリエイティブAを使わずに、ブランドの意志が反映された新たなクリエイティブBを生み出さなければならなくなります。
当然のことながら、ブランドの意志を表現することを選び取ったとしても、数字目標は変わらないため、シビアさはさらに増してきます。
このように考えると、「意志を尊重する方」が確実に大変です。
しかしながら、独自性とはこのように「理想を追い求めながら、数字を落とさない」というトレードオフ構造を打ち崩そうとする姿勢の中から生まれます。
「やりたいことと、数字をどちらとも追いかけるなんて無理に決まっている」
そんなふうにして、一方(数字or意志)を諦めてしまう人は、ただの妥協です。
トレードオフ構造に見えるそれぞれをどう両立させるかを考えることそのものが、ビジネスとしてブランドを運営するということなのです。
そして、この独自性のためのクリエイティブは「意志」無しには生まれることはありません。
意志による判断が差し挟まることで、他者が見つけることのできない独自性への扉が開かれるのです。
意志はチームの「レジリエンス力」を高める
レジリエンス力は、「困難をしなやかに乗り越え回復する力」と一般的に言われています。
・挑戦の数を増やす
・大胆に新しい発想を試す
このような行動は、アイデアやイノベーションが不可欠である時代において、多くのチームに求められています。
そして当然、そのような新発想を推進していくためには、失敗に何度もめげずに前向きに立ち向かっていく、レジリエンス力が大切になってくるのです。
そして、そのチーム全体の「レジリエンス力」を育むのが「意志」というわけです。
「意志」というのは、論理では説明できない強い個人的な精神性です。
そして、人は「論理では説明できない強い個人的な精神性」に共感した時にこそ、困難を乗り越える大きな力(レジリエンス力)を手にすることができる。
そのように私は信じています。
「理由はわからない。けれども、この人が信じるものに強く心惹かれる。そして、そのために自分も頑張りたい」
このような共感をチーム同士で作ることができるのは、圧倒的な主観性である「意志」だけなのです。
意志の効果効用にも、副作用が存在することを忘れてはいけない
数字がもたらす効果効能について、副作用があることは前述しました。
しかしながら、これは何も数字だけに言えることではありません。
当然のことながら、「主観性によって独自性と共感をつくる」という効果効用を生み出す「意志」にも副作用は存在します。
それは、「客観性の欠如」という副作用です。
数字ばかり追いかけるのは良くない。
意志による精神ばかり唱えても意味がない。
そのように物事を二項対立で考えるのではなく、「効果効用をもたらす現象には、必ず副作用がついてくる」。
そのように考えることが重要です。
場面によって、効果効用を使い分け、いつも副作用が裏側で影響していることを意識しておくことができる人が、ブランドを理想に近づけていけるのだと、私は信じています。
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