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なななななな、なななな。

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ままならぬ感情や個性を持て余す歯車たち。 ないならないで手持ち無沙汰、あったらあったで持て余す。 激しく、時に凪ぐ“感情”について描いた掌編、短編集。
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2020年11月の記事一覧

犬のように吠える

犬のように吠える

 夜中に散歩をするのが好きだ。特に秋の終わり、冬の始まりの頃だ。
 風は乾燥して、枯れた葉の香りやそれが風に舞う音が聞こえる。
 カサカサ、カサカサ、と耳をくすぐる。
 枯れ葉は時折額に落ちて、さらに地面へ落ちていく。
 夜は仄明るくて、少し青白い。
 そんな夜、まだ電気のついているカーテンごしの部屋を眺めて歩くのが好きだ。
 深夜の散歩なんて奇特なことをしている自分と夜更かしをしている彼らを同調

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地獄に墜ちてみた

地獄に墜ちてみた

 墜ちた先は地獄だった。
 最後に覚えているのは、飛び出した自転車がガシャンと音をたててひしゃげる景色。自分が乗っていた、赤いスポーツタイプの自転車だ。
 自動車がくると思わなかった。いつも車どおりの少ない道で、左右の確認もなしに飛び出した。そうしたら、轢かれた。多分。
 それからの意識がない。
 正確には、意識を取り戻した時、真っ暗だった。
 目が見えなくなったのかと思って手足を動かしてみると、

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