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太陽をめぐる攻防

一週間ぶりに晴れ間がのぞいたスペイン南部。やっと洗濯物が外に干せる。早起きしたかいがあった!と思い切り窓を開けたら、下の階のおじさんおばさん夫婦がパティオにいるのが見えた。

外出自粛になってから、彼らはよくパティオで日向ぼっこをしている。しかし、今日は彼ら夫婦以外に、はしごが私たちの階まで伸びているのが目に入った。はしご、とは何をするんだろうと思いながら、おじさんたちに挨拶する。おじさんたちは、とびきりの笑顔を返してくれる。

「よぉ元気かい!」

みんな元気で嬉しい。

さて、私の手には洗濯物。おじさんの手にはペンキ用の刷毛が握られているのが目に入る。そして、おじさん、おばさん、はしごの他にパティオにはテーブル、いす、漂白剤のボトルが見えた。

はしご、ペンキ、刷毛、テーブル、いす、漂白剤

控えめに見積もっても、今は洗濯物を干すベストタイミングではないだろうなということは私にもわかる。どうやら、おじさんたちは、壁のペンキ塗りと、家具の汚れ落としを本日の作業として予定しているらしい。

お互い手に持っているものに気づいたところでふと考える。こういうとき、スペイン人はどうするか。そして、私はこの洗濯物をどうしようかと。

でも私は遅かったのだ。数秒後、「またな!ははは!」と笑って、おじさんは何事もなかったかのように勢いよく壁にペンキを塗り始め、奥さんは漂白剤で家具を拭き始めた。

一週間ぶりの太陽である。できれば、外に干したかった洗濯物。でも、ペンキと漂白剤の臭いが私たちの階まであがってきて、洗濯物を干すどころか、窓を開けているのも耐えられなくなった。

窓を閉め、ちょっとしゅんとする。でも、彼らもこの青空を待っていたに違いない。だから早起きして、ペンキ塗りと漂白を始めたのだ。洗濯物を中に干しながら、よし大したことではないと考えなおす。

ところが、数時間後。午後2時、昼食時間となったので、少し風をいれようと窓を開けたら、今度はとんでもなく強い揚げ物のにおいが部屋に入ってきた。ここの家族は、おそらく週3回以上揚げ物を食べる気がする。そして、揚げ物でなければニンニク料理。これはほぼ毎日。このタイミングで洗濯物を外に出すと、服は乾くけれど、全部油のにおいになってしまう。

こんな調子で、毎日「今日は大丈夫かな」と窓を開けては、「あ、やっぱりだめか」とあきらめること10回中8回。運よく、よし今日はセーフだ!と思った日には、雨が降ったり、向かいの家の人がほぼヌードで屋上の掃除をしたりしている。目のやり場に困るのと、ほこりがこっちまで降ってくるから洗濯物を干すどころではない。

だから今日も私は洗濯物を外に干せない。何か次の作戦を考えなくてはならない。太陽をめぐる攻防戦は続く。

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