年間115回持ち込みした所感と漫画についての考察

今年はとにかくデビューしたい一心で頑張り、年間4作、対面持ち込み94回、ウェブ持ち込み21回、合計115回という持ち込み回数を叩き出しました。

対面持ち込みの内訳は、
直接持ち込み:66回
コミティア出張編集部:21回
DAYS NEO REAL★NIGHT:7回

ウェブ持ち込みの内訳は、
電話:4回
メール:17回

でした。

担当さんが付くなどの具体的な進捗はなかったのが残念な限りであり、編集部に与える心証を考えると、持ち込みすれば良いというわけでもないという気づきもありました。来年から少し忙しくなるので、持ち込みペースは落とすつもりです。

しかし、持ち込みを重ねるにつれ、少しずつ感触は良くなってきましたし、決して高くはないコミュ力が鍛えられてきた感覚もあります。

特に4作目は「コマ割りが読みやすかった」という講評をわりと多く頂けました。今年の前半は、私の武器は「ゲーム音楽に関する知識のみ」という評価でしたが、ようやく漫画自体の武器を得ることができました。

私が偉そうに語るのも何なんですが、年間の持ち込み回数は恐らく日本一だと思うので、持ち込みについての所感と、漫画に関する考察を書きたいと思います。

持ち込みについて

持ち込みを重ねれば重ねるほど、方法論がないことが分かってきます。「正解はない」「ケースバイケース」「人それぞれ」というやつです。ただ、この3つの言葉を頭に入れても具体的にどうすればいいのかわからないと思いますし、「これだけは間違いなく言える」ということはあります。今回はそれを書いていきたいと思います。

直接持ち込みと出張編集部の違い

同じ対面持ち込みではありますが、両者には違いがあります。

・出張編集部ではネームを見てもらえる
コミティアの出張編集部の決まり事として「ネームでもOK」というのがあります。編集部によっては「完成原稿を見ないと何とも言えません」と言われることもありますが、とりあえず見てもらえて、講評ももらえるので、ネームの段階で不安があれば出張編集部で見て頂くと良いです。直接持ち込みは基本的に完成原稿のみです。(完成原稿とあわせてであれば、ネームも見てもらえることが多いです)

・出張編集部はゲスト感がある
コミティア等のイベントは、編集者さんも直接持ち込みに比べると比較的優しいです(あくまでも比較的であって、絶対的な度合いで言うと優しくはないことが多いです苦笑)。直接持ち込みだと、貴重な勤務時間を1人に取って下さっているので、緊張感が違います。

・講評時間
出張編集部では一人の持ち時間が20~30分程度という目安がありますが、直接持ち込みでは基本的に1時間の枠を取ってもらえます。直接持ち込みの場合、実際の講評時間は大抵20~30分前後で終わることが多いですが、1時間くらいになることもあります。

・出張編集部は効率が良いとも限らない
今年の2月、初めて出張編集部に持ち込みした時は1日で8媒体回りました。コミティアは年4回なので、単純計算で年間32媒体回ることができます。しかし、コミティアにサークル参加していると、一日中出張編集部にいるわけにはいきません。また、なぜ私が年間94回も対面持ち込みできたかといえば、直接持ち込みをしていたからで、とにかく顔を覚えてもらいたいのであれば、直接持ち込みのほうが良いかも知れないです。ただ、出張編集部のほうが助かると仰る編集者さんもいらっしゃいました。担当さんが付いてない場合は、直接持ち込みは3~6ヶ月に1回の方が心証が良いようです。

座る場所

出版社によって持ち込みブースの配置が違うので、まちまちなんですが、ある程度マナー的なお約束があります。うっかり破ってしまったからと言って評価が下がるどうかまではわかりかねますが、「自分が遜る」という意識を持った方が良いと思います。

基本的には、編集部がある側に編集者さんが座り、出入り口側に新人が座ります。出版社によってはレイアウトの都合でこれが逆だったり、どちらが編集部側なのかよくわからないこともあり、わからない場合は、編集者さんに「こちらで宜しいですか?」と確認すると良いです。編集者さんがどこに座れば良いか教えてくれます。

空気を読む

上手に空気を読んで話せたら良いんですが、そんなことを言っていたら、自分が空気を読めるようになるまで持ち込みできないことになってしまいます。重要なのは、どもっても、かんでも、視線をそらしてしまっても良いから、下手くそなりに空気を読みつつ「聞きたいことは聞く」ということだと思います。

「空気を読む」「空気を読めない」「空気を読まない」の3つを自分の中に持っておくと良いです。大抵は空気を読んだほうが良いんですが、咄嗟にどう対応すれば良いかわからないこともありますし、空気を読もうとして失敗することもあります。空気を読めなかったからって怒られることはないので(少なくとも自分の場合は)、言葉を選びつつ、言いたいことは言ってみても良いかも知れません。営業マンじゃないんですから、ちょっとくらいコミュ障だと思われてもしょうがないです。「空気を読まない」は自分ができているかどうかは微妙ですが、言わば主体性です。その場の空気に軸を置いてしまうと思い切ったことが言えません。生意気だと思われても、変な奴だと思われても良いから、空気をぶち破るようなことを時には言ってしまっても大丈夫なこともあります。

メモを取る

人によってはメモを取らなくても記憶できる方もいらっしゃるので、絶対にお勧めというほどじゃないんですが、私は可能な限り一語一句逃さずメモります。「~かも」「~じゃないですかね」というような口調まですべてです。「そんなことメモらなくていいですよ笑」とツッコまれたことは一度もありませんが、そう思われても良いから、すべてです。なぜなら、編集者さんの人となりが口調に表れるので、どんな人だったかを記録しておきたいからです。そうでないと、記憶があいまいになって、どんな人だったのか忘れがちなので。

自分が読めれば良いので、ミミズが這ったような文字で良いです。後でパソコンにメモを写しておくと、どんな講評をもらったのか整理しやすいです。

剛速球も変化球も受け止める

剛速球とは「厳しい言葉」や「冷たい言葉」、変化球とは「予期しない言葉」です。自分は最初は編集者さんが少し冷淡だったり厳しかっただけで内心腹を立てていましたが、これは編集者さんが悪いというより、会話のキャッチボールができてなかったと今は考えます。(相性が悪いのかなと感じることはありますが…)

変化球への耐性も重要です。講評は大半は「良かった点」「悪かった点」「質疑応答」の三段構えが多いですが、これは決まっているわけではなく、順序が違ったり、「他の編集者と同じことを言っても仕方ないので、どんなことを言われたかインタビューしても良いですか?」と聞かれたこともありました。咄嗟の対応ができず戸惑っても良いので、受け止めて、理解して、丁寧に答えると良いです。

感触について

持ち込みの感触について言語化するのは非常に難しいんですが、持ち込みを重ねるほど一概に高評価、低評価とは言えず、それよりも「何を言われたか」が大事だと思うようになってきます。講評シートに評価ランクがあることもあり、編集者さん側としては高評価と低評価の概念はあると思いますが、たとえ低評価だったとしても、そこで折れてしまうのではなく、何を指摘されたのかを理解して100言われたら変化球を入れて150返すくらいのつもりで臨むと良いです。

また、名刺を渡すということ≒担当するということ、というわけではないです。私も名刺を頂いたことはあり、嬉しかったですが、人間関係は0か1かではないので、担当さんではないけれども顔を覚えてもらえていることは多々あります。後々のことを考えるとそういうことの方が大事なのかなとは思います。

他社さんの話題

持ち込みで他社さんの話題を出しても大丈夫かどうか、これは本当に微妙です。他社さんに競争心を燃やす方もいらっしゃるので、ヤバそうだったら他社さんの話題は出さない方が良いです。「他にも持ち込みに行かれてるんですか?」と聞かれたら、間を置いて「はい」と答えたり、即答したり、相手によります。

年齢制限

最初は年齢制限があるかどうかほとんどの出版社さんで確認していましたが、年齢制限はないことがわかり、最近は聞くのも野暮なので聞いておりません。

年齢制限をかけた場合、仮にものすごい画力とストーリー力を持った中年新人作家が現れた時に出版社さんも困ると思うので、「年齢制限はありますか」という聞き方が良くないわけです。それで、先日、某社の編集者さんに「○○社さんの事例として○○代で持ち込みに来る人やデビューした人はいるんでしょうか」と質問しました。「○○代で持ち込みに来る人は少なくはないです。年齢が上がるにつれてデビューは難しくはなりますが、不可能ではないです。作品が面白いかどうかが重要です」とのご返答でした。

年齢を気にするかどうかは編集者さんの考え方によって違うように思うので、編集者さんによってはあまり気にしなくても良いと思いますが、若い人以上に努力しないといけなかったり、体や脳の老化と戦わないといけないのは事実です。しかし、自分と同世代のプロの作家さんと同じように競えるのであれば、何も問題はないわけです。(それが難しいのですが…)

漫画についての考察


自虐風自慢のようで恐縮ですが、私は漫画を描くのが好きなのが高じて漫画家を目指しているわけではありません。高校時代までの夢は漫画家でしたが、大人になってから自然消滅し、漫画はアニメ化された作品の原作や不条理ギャグ漫画を持っている程度でした。昨年末からゲーム音楽ネタの漫画家を目指し始め、思ったよりかなり険しい道のりなので勉強せざるを得なくなり、今は勉強用に漫画を読むよう心がけています。

漫画を構成する二大要素

最初は、漫画というのは「絵を描いて台詞を入れてコマを割ればいいんでしょ?でも、どうやってコマを割るかが難しいんだよなぁ」くらいの認識でした。今は少しずつ漫画がどういうものかが見えてきて、「絵」と「ストーリー」の2つが大きな要素だとわかってきました。

絵とストーリーのどちらも疎かにできないし、実際のところ、どちらも完璧にできる人はなかなかいないとも思います。だから原作者と作画担当者が分かれているケースがあるわけです。私はどちらもやりたいのですが、どちらもそこそこできたら良いのかというとそうではなく、ストーリーのエキスパートと絵のエキスパートが作った漫画と比べられてしまいます。厳しいですね…

漫画はキャラ中心に作る

持ち込みでほとんどの編集者さんがこれを仰いますし、漫画の描き方の本でもそのように書かれています。これほど同じことを聞くと、つい「他のやり方があるんじゃないか」と思ってしまうのですが、結局のところ、一年間の持ち込みを経て、編集者さんが最初から言っていたことが一貫して正しかったんだ、と気づきました。ストーリーがご都合主義にならないようにするため、次回こそはキャラ中心に作ろうとしているのが私の現状です。

なぜ言うことを聞かずにストーリーから作ろうとしてしまうかというと、そちらの方が面白くて楽だからです。魅力的なキャラクターを作るのは難しいし面倒です。でも、それをやらないといけません。

背景を描きたくないからキャラクターを中心に絵を描こうとする。なのにキャラクターを練り上げるのは面倒だから、面白そうなストーリーの枠組みから考えてしまう。これではやっていることが矛盾していて、結局遠回りになってしまっていることに気づきました。面倒でも、やるべきことをやったほうが近道なのかなと今は思います。

読みやすさについて

読みやすい漫画を描くよう、これも殆どの編集者さんが仰います。4作目にしてようやく「コマ割りが見やすい」「読みやすかった」という講評をちょくちょく頂けるようになりました。言わば、はさみを渡す時に取っ手の方を相手側にして渡すような姿勢だと思います。お金を払って読んでくれる読者さんにはさみの刃を向けて渡すような態度で読ませるというのはよろしくないと思います。

読みやすさを重視すべきという点では同じですが、ウェブ媒体で読みやすさを優先してページ数を減らしているという話も聞きました。はさみの例えで言うと、「手を煩わせないため、切らなくてはいけない紙の量を減らす」という感じでしょうか。作家の「たくさん描きたい」という願望より読者さんの都合を優先するのは至極当然の道理です。

思考の柔軟性

持ち込みで編集者さんの講評を理解するには、思考の柔軟性を鍛えることが重要だと感じます。「頭を柔らかくして」と言われても、具体的にどうすれば良いのか明確ではないです。柔軟性と言っても、高いストレス状態でも低いストレス状態でも適応できる柔軟性、臨機応変に対応できる柔軟性、物理的な柔軟性など、いろいろあると思いますが、持ち込みをしてきて自分が培った柔軟性は、これらとはまた別で、後天的に培えるものだと考えます。自分自身、この一年で培いました。

私は柔軟な思考というのは「関節をたくさん作り、どちらでも良いと考えること」だと思います。関節がたくさんあれば、まるでタコの足のように、視覚的にも柔軟であると捉えやすいはずです。

マリー・アントワネットの「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」という有名な言葉。これは頭が柔らかいように見えますが、「パンがないならケーキを食べるしかない」という直線的な思考という見方もあります。これを柔軟な思考に置き換えるなら、「あなたがパンを食べたいと仮定して、本当にパンがないのかを検討し、パンがあるのであればパンを食べても良いし、他のものを食べても良い。パンがないのであれば、何かを食べたい場合、他のものを食べることを検討する。それはケーキでも良いし、他のものでも良い。何も食べたくないなら、食べなくても良い」となります。大半の編集者さんがこういった考え方に基づいて講評をするので、編集者さんの講評を理解するためには必要な考え方だと思います。

正解がないとは

漫画は正解がない世界だという話も持ち込みで聞きます。では、正解がないってどういうことでしょう。

こちらも有名なホトトギスの俳句を引用します。

織田信長の「鳴かぬなら ○してしまえ ホトトギス」
豊臣秀吉の「鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス」
徳川家康の「鳴かぬなら 鳴かせてみよう ホトトギス」

どれが正解ということはないです。人によってやり方は違います。自分だったらホトトギスにどんな行動を起こすでしょうか。

例えば、

「鳴かぬなら 諦めよう ホトトギス」

こんなやり方があっても良いです。ホトトギスを鳴かせることを目的としているなら、このやり方ではホトトギスは鳴かないのでNGですが、「諦めたら案外鳴くかも」と思って諦めるのなら、こんなやり方があっても良いですし、ホトトギスが鳴かなくても良いのであれば、諦めても良いです。

以上、漫画の持ち込みと漫画に関する考察をまとめました。来年こそは嬉しい報告ができればと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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