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少年と夏とすべてのこと

僕はサッカーが上手になりたい。
でもサッカーはそんなに好きじゃない。
やる事が他に思い当たらないからやる。
やる事がないと色んな奴らが話しかけてくるから。
壁の模様や、虫や、下駄箱の靴なんかはすごく話たがっている。
暑い夏は特にサッカーボールを蹴りに出かける。
やる事がないと便器に飲み込まれてしまうから。
家にいるとトイレの方から声が聞こえてくるから。
ひとりでいたくないから。暑い日差しの中喜んで走って出かける。
陽にやける自分からジリジリという音が聞こえる。
ツルツルと汗の球が運ばれて行く。
白いユニフォームに黒いハーフパンツにトレーニングシューズで
僕はできている。洋服からはみ出ている部分、特に首の後ろは
ほぼ真っ黒に焦げてしまった。
サッカーの練習には、犬のショーンと一緒に出かける。
グランドまでは一緒だが、すぐにガサガサと言う音だけを残して
姿は見えなくなってしまう。僕のサッカー練習が終わる頃、ショーンは
また姿を見せる。帰りたくなる時間はいつもほぼ一緒だ。
ショーンとは気が合うんだ。いてくれて助かっている。
だけどショーンにはこの声が聞こえていないのかな?
モグラが穴から這い出てきて挨拶する声。
コンクリートの塀の穴の向こうからこちらをのぞいて笑う声。
姿がバレていないと思い込んでいる電柱の影の咳払い。
どの季節よりもしっかりとした輪郭を見せる巨大な雲から
空気が抜け続ける音。
天地を無視して歩き回る足長蜘蛛の泣いて走っていく声。
泣きたいのは僕の方だ。学校で聞かされる話は退屈で仕方がない。
そんないつ使えるかわからないものを僕に詰め込む前に
この無数の声たちについて誰か教えてください。
どの声にも返事を返していいんですか?
笑い返してもいいんですか?

サッカーは嫌いじゃない。やればやるだけ上手になってしまう。
上手になるとみんなにどんどんサッカーが好きなんだと思われていまう。冗談じゃない。やる事がなくなると、学校で教わることか、
一人ぼっちの時にだけ出会う世界の声か、どちらかを選ばなきゃ
いけなくなるから。だからサッカーはやるんだ。
と、子どもの頃の僕が最近になって教えてくれた。
僕はずーっとサッカーが好きだと思っていた。思い込んでいた。
7月後半、真夏の積乱雲が世界の終わりの合図だと信じていた
少年の日焼けした顔は、黒焦げすぎてどうしても見えなかった。
今の僕なら相談相手になってあげれるのかな。
もし今の僕の話をきいくれるなら、見えたそのままが全て君だと伝えたい。

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