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近所に敵がいる

「最近、僕は誰かに狙われている気がするんだよね」
そう、ポツリ言ったのは、
いぬうた市の、きゅん君でありました。
きゅん君。何ですか?急にそんなこと言って。
物騒ではないですか?
一体、何で、そんなこと思うんですか?
「僕だって思いたくないけど、でもやたら気がつくと、背後からの視線を感じるんだよね。けど振り向くと誰もいないんだ。これはきっと僕を巧妙につけ回しているからだと思うんだ。それで僕の隙を見て、一気に飛びかかって来るんじゃないのかな?」
それはますます物騒ですね。
何か、きゅん君、誰かにそれだけの恨み、
つけ回されるだけの恨みを、
買った覚えはないんですか?
「それがないんだよね。だから余計に不気味なんだよね」
でも、きゅん君に覚えがなくでも、
知らずに恨みを買うということは、
ないことではないですから。
ただ思い当たるフシがないと、対策も打てないですから、
困ったもんですね。
「そうなんだよね。本当、困っちゃうよ」
と、言葉通りの困り顔をした、きゅん君です。
あれ、それって、ぐーちゃんなのではないですか?
ぐーちゃんがもらったオヤツまで食べてしまったとか?
「ああ、それはないよ。だって、その気配を感じるのは外だけだからね」
なるほど。だったら、ぐーちゃんではないですね。
ぐーちゃんだったら、家内外、
関係なく狙われるでしょうから。
「うん。僕もいろいろ散々考えたんだよ」
そうですか。それだと考えられるのはそうですねえ。
わんこはそんな自由には歩いてないから、
きゅん君をつけ狙えないですし、
あるとしたら、にゃんこですかね。
「やっぱりそうかな。猫かな。僕、猫に恨み買うようなことしたかなあ。イヤだなあ。困ったなあ」
と、ため息をつく、きゅん君なのでした。
そんなイヤな気持ちを引きずったまま、
散歩の時間となり、ぐーちゃんと外に出ました。
この日は天気が大変よく、明るい、いぬうた市です。
しかし、きゅん君の気持ちはあいかわらず弾みません。
と、そんな時追い打ちをかけるように、
例の視線を感じたのです。
「あっ、まただ!また感じる。感じるよ。誰かが僕を狙っているあの感じ」
そう言ってから振り向く、きゅん君。
だが誰もいません。
「やっぱり誰もいない。何て素早いヤツ!またとっさに逃げやがった!」
と、きゅん君、ウンザリ顔です。
でも、きゅん君、今は本当に誰もいませんでしたよ。
あっ、それってもしかして。
分かりましたよ。分かりました。
きゅん君が常々感じている視線の正体とは。
それは、きゅん君の影でした。
だから外でしかその気配を感じられなかった。
と、こうゆう訳です。
しかし、きゅん君はこの事実にまだ気付くことなく、
時折後ろを振り向きながら、ビクビクしながら歩くのでした。

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