どこもかしこも家ばかり
「何で、いぬうた市には、いっぱいおウチがあるのかしら?」
ある日、その、いぬうた市に住んでおられる、
ぐーちゃんが、同じく在住の、きゅん君に言いました。
それは、いつもの散歩の時の出来事で、
ふたりが住んでいる家を出て、しばらくして、
ぐーちゃんの言ったことです。
その夕方の散歩は、いぬうた公園一周が目的で、
ママと、その歩をひたすら重ねていた途中で、
やたらとその周囲を見渡していた、ぐーちゃんが、
ふとぽつりと言ったことでした。
「何言ってんの?ぐーは。そんなこと決まっているじゃないか。それだけ人が住んでいるからだよ」
と、きゅん君は、何を当たり前のことを、
ぐーちゃんは言い出すんだろう?と思って、
さらりとそう答えましたが、
それを聞いても、ぐーちゃんは、きゅん君の言ったことが、
とても本当だとは思えませんでした。
何故なら、ぐーちゃんは、ぐーちゃんが見渡す限りでも、
ぎっしりと周囲は家だらけなのに、
その家の数に見合うだけの人々を見たことがないからです。
「ぐー、こんないっぱいのおウチの数だけでお人がいるのを全然見たことないわ。そもそもこれだけおウチがあるんだったら、そこに住んでいるお人の出入りもひっきりなしなんじゃないかしら?でも、ぐー、あんまりそんな場面見たことないし」
と、ぐーちゃんの疑問は続きます。
「それって、ぐーは何が言いたいのさ?」
きゅん君には、ぐーちゃんの気持ちが分かりません。
なので、ぐーちゃんが説明します。
「ぐーが言いたいのは、本当はほとんどのおウチにはお人が住んでいないんじゃないか?っていうことね。もしくは、それぞれのおウチは一見、バラバラのように見えるけど、実は中でつながっていらっしゃって、実際に住んでいる方々は微々たるお人たちなのではないかしら?」
と、そのような、ぐーちゃんなりの推察をしたのでした。
でも、確かに最近の家は防音技術が進んだせいか、
音漏れがあんまりしないので、ひとけがしないというか、
基本的に住宅街はシーンとしていますね。
なので、きゅん君もちょっと納得したようで、
「なるほどね。まあ、ぐーの言うことはさすがにないと思うけど、家がいっぱいあるわりには、いぬうた市内はシーンとしてるよなあ」
と言って、ふたりはママと家路に着くのでした。
家に帰っても、その話題がまだ続いていて、
2階のベランダから、また周囲の家を眺めている、
きゅん君と、ぐーちゃんです。
「本当にどこまでも家が連なっているよね」
きゅん君が改めて確かめたように言うと、
「やっぱり全部のおウチにお人が住んでいるなんて、ぐー、信じられないわ。いっそおウチが透けてれば、それが分かるのに」
と、ぐーちゃんが笑うと、きゅん君も、
「そりゃいいな」と続けて笑いました。
その、ふたりの声は、閑静な住宅街の中で、
ひときわ響いて、この、きゅん君と、ぐーちゃんの家だけは、
ひとけというか、犬気がいっぱいで、
誰かが住んでることがモロ分かりなのでした。
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