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ダイニングルームに行けない

ある日のことです。
いぬうた市の、きゅん君と、ぐーちゃんは、
自宅の2階の寝室でしばらくのんびりしていましたが、
何となく気分を変えようと、何の気なしに、
階下に降りたところ、何と、いつもいる、
1階のダイニングルームの扉が閉まっていたのでした。
こんなことは今までなかったケースなので、大変に戸惑う、ふたりであります。
「これは一体、どうゆうことかしら?ぐーたちに入るな!っていう無言のメッセージなの?」
と、動揺が隠せない、ぐーちゃんです。
きゅん君も同様で、
「ダイニングルームは寝室と同じく、ママや飼い主に愛想を振りまく、いわば職場だよね。僕らの仕事はそれなんだから。そこを締め出されるなんて、信じられないよ」
きゅん君に至っては、怒りさえも感じているようです。
「でも、もしかして、飼い主がうっかり閉めてしまっただけかもしれないわ。飼い主は外出したみたいだから、ここはしばらくママを待ってみるべきじゃない」
きゅん君の怒りを鎮めようと、ぐーちゃんは、
いつになく冷静に、そんな提案をしました。
そう言われて、きゅん君も、渋々と
従うことにして、ちょっとの間、ただただ、ジッと、待っていた、ふたりでしたが、
結局、きゅん君が、しびれを切らしてしまいます。
「やっぱりダメだ。待てど暮らせどママは来ない。きっと、僕らが知らない間にママも外出しちゃったんだよ」
と、悲しそうに言って、
「職場封鎖されたということは、僕ら、失業したんだよ。だから別の職を見つけないと」
と、きゅん君、ダイニングルームに入ることを、
諦めたようで、他の部屋を、ウロウロし始めました。
その、きゅん君の様子を見て、ぐーちゃんも、
「これは、きゅんの言う通りかも。となれば、ここは早急の頭の切り替えが必要ね。ぐーも仕事を探さなければ」
と、きゅん君の後を追って、
「仕事さん、仕事さん、新しい仕事さんは何処にいらっしゃるの?」
何やら仕事やらを探すのでした。
しかし、どこの部屋に行っても、仕事さんはいません。
疲れた様子の、きゅん君は、投げ捨てるように言いました。
「職がないんじゃこうなったら、犯罪に走るしかないよ!ぐー」
その、きゅん君の言葉にコクリとうなずく、
ぐーちゃんです。
そこで、きゅん君が念を押します。
「ぐー、覚悟はいいか?犯罪に一回でも手を染めれば、僕らはもう二度と今までの日常には戻れないからな」
「分かっているわ。新しい仕事さんは、泥棒さんということね。ぐー、そしたら華麗なテクニックで盗みを働くパーフェクトな泥棒さんになるー」
そう、ぐーちゃんが言うと、
「よし、やるか!」
と、きゅん君が叫んで、それが合図のように、
それから、ふたりは、洗濯カゴに入った靴下を盗んで、
ガジガジ噛んだり、ゴミ箱のティッシュを、
盗んで、クシャクシャ噛んだりして、
家の中で、散々悪事を重ねるのでした。
ずいぶん思い詰めた割に、その行動はいつもと、
やっていることは大して変わりないんじゃないですかね。
そして、ママが帰ってきたら、いつもの通り、
さぞ、こっぴどく怒られるであろう、
きゅん君と、ぐーちゃんなのでした。

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