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一食抜かれそう

「まだかしらね?きゅん。朝はとっくに去って、もうそろそろお昼になる時間よ。ぐー、もう、耐えきれないわ」
「きっとあともう少しの辛抱だよ。ぐー、何てったって、ママがこんな大事なこと、忘れる訳ないから」
あら、一体、どうしたのでしょう?
何だか、いぬうた市の、きゅん君と、ぐーちゃんが、
先程から、自宅の1階のダイニングルームで、
ひそひそと何かを話しています。
どうしたのですか?きゅん君、ぐーちゃん。
「どうもこうもないさ。僕らにとっては一大事だよ。何せまだ、ママが僕らの朝食をくれていないんだよ」
あら、それは大層お腹が空いたことでしょうね。きゅん君。
「今日のママはとても忙しいのよ。お掃除やらお洗濯で。でも、ぐーのお腹もすっかりお掃除されて、お水で流されて、もう空っぽて、ぐーだから、ぐーぐーお腹が鳴ってるわ」
それはうまいこといいますね。
やっぱり、ママは忙しくて、ふたりのご飯、
忘れているんじゃないですか?
「悲しいけど、そうかもしれないな」
と、きゅん君、本当に悲しそうです。
悲しそうな顔してるのに、きゅん君のお腹も、
ぐーぐーなってて、何だかそれが、
ちょっと可愛くもありますが。
「何を呑気なことを!僕らは真剣なんだよ!って、あっ、そうだ!」
ここで、きゅん君、何か思いついたようです。
「ママの前に行って、このお腹の音を聞いてもらえば、きっとママは気付いてくれるに違いない!」
それは名案かもしれませんね。
「ぐー、ぐーぐーの音、ママに聞いてもらうー!」
がんばって下さいね。
ママの前に行っても上手く鳴るといいのですが。
「いいか、ぐー。頭の中でいっぱい美味しそうなモノを思い浮かべるんだ。そうしたら、きっと今よりもっと鳴るハズさ」
きゅん君が、ママのところに行く前に、ぐーちゃんに、
こうアドバイスしました。
「分かったわ。ぐー、ママに巨大ぐーぐー音を聞かせるわ」
ぐーちゃん、やる気というか、鳴らす気満々です。
しかし、しかしでした。
いざ、ママの前に行くやいなや、ふたり共、
お腹の音がピタッと止まってしまったのです。
「ぐー、どうした?早く鳴らせよ」
「きゅんこそ、鳴らしなさいよ。美味しいもの、ちゃんと浮かべたの?」
「浮かべているよ。鳥のササミとか、ビーフジャーキーとか」
「あー、もう、ぐー、食べたくてたまらなーい。でも、ぐーのお腹、ぐー鳴らなーい」
と、ママの前で、ひそひそと話をする、ふたりです。
どうも、ふたり共、意識すれば、するほど、
焦って、お腹な音が引っ込んでしまうようで、
ママは、ふたり、何やっているんだろう?
と、不思議な顔して、ふたりを見つめます。
けど、「ぐーなのに、ぐー出ない」
と、しょんぼりと泣きそうな顔して、
ぐーちゃんがぽつりそう言った時、
くぅ。と小さく微かに、ぐーちゃんのお腹が、
ようやっと鳴ったのです。
すると、ママは朝ご飯をあげてないことに気付いたようで、
急いで、ふたりにご飯をくれて、ああ、よかった!よかった!
とお腹も、気持ちも、落ち着いて、満足した、
きゅん君と、ぐーちゃんなのでありました。

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