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忠犬さんとお話

いぬうた市の、きゅん君と、ぐーちゃんの自宅の、
1階のダイニングルームでは、
先程から飼い主が何やら熱心にテレビを観ています。
しかも途中、何度も泣いたりして、
最後には大号泣のありさまです。
きゅん君と、ぐーちゃんは気になって、
おやおや何を飼い主は観ているのかな?
と、テレビ画面を観ると、どうやら、
忠犬ハチ公の一生を描いた映画だったのです。
そして、飼い主は、きゅん君と、ぐーちゃんを、
自分の膝に抱っこしようとしたので、
ふたりはそれを激しく拒否をして、
2階の寝室に逃げて来たのでした。
「何か、嫌な感じじゃなかった?飼い主ったら。あれは、ぐーたちへの嫌味かしら」
ベッドに座って、
ぐーちゃんが堰を切ったように言いました。
「きっとそうだよ。完全に僕らに対する当てこすりだね。僕らが飼い主を迎えに駅で待つのを嫌がったり、家でも、帰って来ても、知らんぷりばっかりしているからって、ハチの映画、僕らに見せつけなくてもいいじゃないか」
きゅん君も憤まんやる方ない、といった感じです。
「だいたい忠犬さんの飼い主って教授だわよね。ぐーだって、もし今の飼い主がそれくらい偉かったら、それは待つわよ。世の中には待つに値する人とそうでない人がいるというのを分かってないわね」
今日はより飼い主に辛辣な、ぐーちゃんです。
「ハチだって、すでにいない飼い主を駅で何年も待ち続けたっていうけど、実は屋台の人がくれる焼き鳥が目当てだったとも、言われているよ」
きゅん君がそんな異説を唱えました。
「そうなの?今度是非、忠犬さんに真相を聞いてみたいものだわ」
と、ぐーちゃんが言ったら、
その晩、ぐーちゃんの夢にハチが出て来ました。
しかし、ぐーちゃんは、
夢枕に立っていたハチに気付くのには、
しばらくかかりました。
だいぶ経ってから、
「あら?誰かいるなと思ったら、あなた忠犬さんね。いつからいらっしゃったの?」
ハチは答えました。
「結構待ちました。でも待つのは慣れてますから」
「ごめんなさいね。ぐーまで待たせたりして。それにしても何でも待つお方なのね」
と、言ってから、ハチの返事は待たずに、
早速、質問をした、ぐーちゃんです。
「あっ、そうだ。あなたに聞きたいことがあったのよ?あなた、実は焼き鳥が目当てで駅にいたって本当かしら?」
口調は丁寧ですが、
いきなりぶしつけに、それを聞いた、ぐーちゃんです。
すると、たちまちハチは動揺しました。
「えっ?あーっ、それは、えーと、まあ、何というか」
その慌てふためくハチを見て、ぐーちゃんは全てを察し、
「ごめんなさい。初めて会ったのに失礼なこと聞いちゃって」
形だけでもと謝りました。
「恐縮です。でも飼い主が好きだったのは本当なんですよ。そこは分かって欲しいなあ」
と、ハチは、ぐーちゃんの目を見て、
それだけは、しっかり言いました。
「大丈夫。もちろん信じます。ぐーだってママは大好きだし。じゃあこれが最後の質問よ。あなたにとって待つとは何かしら?」
と、突然、ぐーちゃんがインタビュアーみたいに聞くと、
「何だろう。愛することかな」
と、ちょっと照れながらも、ハチは堂々と言いました。
「素晴らしいお答え。そうなのね。肝に銘じます。でも、ぐーは愛するより愛されたいタイプなのよねえ」
と、それからも、ふたり会話がはずんで、
最後に、ぐーちゃんは、
「今は、あなたの像の前でたくさんの方が待っているわ。これからも待って待たれて、がんばって下さいね」
と言って別れました。
朝起きて、ぐーちゃんは、
「忠犬さん、とても謙虚で良い方だったわ」
と、夢の報告を、きゅん君にすると、きゅん君は、
「何で僕らは待てないんだろ?あっ、分かった!ハチはどちらかというと白い犬だよね。白い犬はきっと待てるんだよ。僕らは黒いから待てないんだ!」
と、言って、
「白、待って。黒、待てないで。白、待って。白、待ち続けて。黒、待たない」
と、旗上げゲームの歌みたいに歌って、
朝から、大笑いした、2人です。

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