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飛んで火に入る夏の虫系バレエ『パピヨン』

先日、蝶に関係する音楽を探していて興味深いバレエを見つけました。

題は「パピヨン」。ストレートに蝶です。
主人公の名前は「ファルファラ」で、これも蝶。
内容としては、概ね

某国のお姫様ファルファラちゃんが悪い妖精の呪いで蝶の姿に変えられるが、なんやかんやで人間に戻って王子様と結ばれる

という感じです。

作曲はジャック・オッフェンバック、リブレットはヴェルノワ・ド・サン=ジョルジュ。
サン=ジョルジュは、オペラでは『連隊の娘』(ドニゼッティ)『美しきパースの娘』(ビゼー)、バレエでは『ジゼル』(アダン)で知られる……
ということで、そこまでトンチキなものばっかり書いてる印象ではないです。この作品は結構へんてこな感じしますが……

クライマックスで呪いがとける場面、ウィキペディア(日本語)のあらすじを見ると

蝶に変えられたファルファラは松明の炎に身を投じ、呪いは解ける。

とあります。

いや乱暴
呪いの解き方が乱暴
呪い解いてるっていうか飛んで火に入る夏の虫

脳内のファルファラちゃんの作画がドガから速水御舟になったところで、どういう経緯でそんな展開になるのか気になったのでリブレットを読んでみることにしました。
どうやって探そうかなと思ったらウィキソースにありました。インターネットで19世紀のリブレットが読める便利な時代ありがたいな。

……バレエのリブレットって読んだことなかったんですけど、結構文字数ありますね。

さて該当箇所です

Un bel enfant s’avance, tenant à la main une torche enflammée, la torche de l’hymen.
Mais, à peine la clarté de ce flambeau a-t-elle été aperçue du papillon caché dans les roses, qu’il relève sa tête mutine, secoue ses ailes, et court vers la clarté qui l’attire.
L’enfant effrayé, s’enfuit.
Farfalla le poursuit, tourne vivement autour de la torche enflammée, comme les phalènes autour de la lumière, finit par y brûler ses ailes, et tombe dans les bras du Prince accouru pour la recevoir.
Le charme est détruit avec les ailes de la princesse.

機械翻訳によると概ねこう

(補足:若い娘に化けた悪い妖精と王子の結婚式の場面)
美しい子供が燃える松明を手に持ち、婚礼の松明を掲げて進み出る。
しかし、松明の光がバラの中に隠れていた蝶(主人公・ファルファラ)に見えた瞬間、蝶はその頭を上げ、翅を震わせ、その光に引き寄せられて飛び立つ。
驚いた子供は逃げ出し、蝶はそれを追いかけ、松明の周りを蛾のように激しく回り、最終的に翅を燃やしてしまい、駆け寄ってきた王子の腕の中に落ちる。
翅が焼け落ちたことで、姫の魔法は解けた。

本当にただの飛んで火に入る夏の虫じゃないか……

どうやらファルファラちゃんは別に「呪いを解こうとして火に飛び込んだ」とかではなく、ちょうちょの走光性に逆らえなかっただけのようです。
呪いで蝶にされるとそんなところの本能が勝っちゃう感じになるの……?その設定結構怖いな……

ざっと内容に目を通したところ、王子・超自然的な力で人間でないものに変えられたヒロイン・姿を変えて王子と結婚しようとする悪役……と、「白鳥の湖」を思わせるキャラ設定で話が進行するのですが、「白鳥の湖」の方が後なので別に寄せたわけではないです。逆に「白鳥の湖」に影響を与えた可能性は……あるのかなあ……?なんかロシアで人気あったらしいし……この辺のバレエ界事情はよく分からないですが。

見ての通り、大変「おとぎばなし」的な内容の作品なのですが、読んだことのある伝承メルヘン系の話の中で「飛んで火に入る夏の虫」形式で呪いを解く作品には心当たりがなく、何か元ネタがあるのか大いに気になるところです。

「死によって呪いが解ける」ものには、「鳥とか魚とかにされたキャラクターが調理される」パターンが一定数あり、その後骨が埋められたところから何かが生えてきてなんやかんやで復活したりするイメージです。ペンタメローネとか読むと出てくる。
また、「イワン王子と火の鳥」系の話で王子の冒険を助けてくれたオオカミ等が、褒美に自身の殺害を望み、殺害の達成で元の人間の姿に戻るパターンはまあまあ見かける気がします。

ただしこれらは概ね「呪いを解く」という目的で頑張って死にに行ったりするので、やっぱ本能でなりゆき死したら呪いが解けたこの作品はかなり奇妙な気がします。

「呪いで蝶になる」系でまず思いついたのは所謂ケルト神話に登場する「エーディン」ですが、これに関しては、

水→毛虫→蝶→女性の胎内に入って生まれ直し
という結構ややこしい経緯を辿っているため、だいぶ趣を異にします。

まあ結論何もわからないので今後おとぎ話を読むときはちょっと意識して探してみようと思います。
探して見つかるのか……?飛んで火にいる夏の虫系メルヘンが……?

なおこのバレエ、楽曲の一部が『ホフマン物語』に使いまわされているということで、確認してみようとしたのですが全曲入りのCDが発見できませんでした。リチャード・ボニングという人が録音してるらしいのですが、レコードの存在しか確認できなかったので、CD化されてない可能性が浮上しています。

そこそこ売れたっぽいしオッフェンバック作品なのに!?と思ったのですが、主人公を踊っていたエマ・リヴリーという人が初演の二年後(オベールのオペラ『ポルティチの娘』の練習中)、衣装に照明が引火する事故で死亡し、その後オペラ座のレパートリーから削除されたとのことです。
なんかその辺の事情が現代での再演の少なさに影響してるのかもしれません。

いつかフル版手に入れたいなと思っています。とりあえず「くるみ割り人形」と抱き合わせで入ってるやつはCD出てるっぽいからそこからですね。

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