邂逅、仏さま
はじめまして。
僕は「おにーさん」です。りんね……拾った子が僕をそう呼ぶから、ここでの僕の名は「おにーさん」とすることにしました。
あれは会社帰り、川辺で入水をしようとしていたところでした。
「おにーさん、どうしたの」
相当僕の顔は鬱屈としていたのでしょう。小学生くらいの女の子が、隣に来てしゃがみこんでは僕に話しかけてきました。心配そうな顔で。
「もう、しんじゃいたいのかな」
女の子は隣に来た瞬間から、僕のそのときの気持ちをすっかり見抜いていました。僕が情けなく頷くと、女の子は言いました。
「りんねは、あなたをゆるします」
ゆるす?
なんだろう。今ここで死ぬことを、かな。
「あ、う、なかないで! あのね、おにーさんが抱えてる罪とか、いろいろ……とにかく、りんねがゆるします。だから気負わないで、まだ、しんじゃだめだよぉ……」
泣かれてしまった。僕は慌てて立ち上がり、わけもわからず彼女を抱きしめた。その身には似つかわないほど深く、荘厳な香物の香りがした。
「大丈夫、僕は死なないよ。君がここに来てくれたおかげ。ありがとうね」
そうゆっくりと伝えると、彼女はぱっと顔を明るくした。
なんでだろう。
今まで死にたい気持ちを抱えてみて、同僚や信頼出来る友人にぽろっと打ち明けてみても少しも晴れたためしがなかった。なのに、どうして? どうしてはじめて会った小さな女の子の「ゆるし」は、こんなにも救いがあるのだろうか。
この子は僕だけの仏さま。
――連れて帰らなきゃ。
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