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坂本拓也インタビュー #01

TENSELESSとは無時制のこと、常に今であり続ける体験を

木下和重


初めまして、TENSELESSの木下和重です。note初投稿です。

2009年から実験音楽や即興演奏を中心とした音楽レーベル『Tenseless Music』をスタートさせ、現在までにCDアルバムを5タイトル、デジタル・アルバムを6タイトルリリースしております。販売はbandcampで行なっていますので、どうぞご贔屓に。

2023年になって新たにnoteを開設したのは、今まで聴いてもらうまでの入口を広げる努力を怠ってたんじゃないか、作品の魅力を伝えるためにもっと言葉を要する必要があるんじゃないかという反省からです。

逃げちゃダメだ!変わらなきゃ!というわけで、熱き心に時よ戻れと言わんばかりにアーティストの魅力を紹介する、深掘りインタビューを企画しました。

トップバッターは、(no) information名義で活動する坂本拓也氏です。Tenseless musicからはセルフタイトルのデジタル・アルバム『(no) information』を2022年12月にリリースしています。また坂本氏は千駄ヶ谷loop-line、大崎 l-eというスペースを運営し、2000年代からの即興演奏や実験音楽の現場を見続けてきた人物でもあります。私とも気付けば長い付き合いに。

本インタビューでは数回に渡って、彼の生まれから現在までを辿り、どういった価値観に基づいて『(no) information』が出来上がったのか、そのマインドセットを探っていきます。#01では、生まれてから幼少期の好きなアニメや特撮の話です。

では、インタビューの体裁になってるかは甚だ疑問ですが、楽しんでいただければ幸いです。


『(no)information』ジャケット画像

1. 東京生まれ東京育ち。家族はみんなハイカラさん

木下 2022年末、当方のレーベルから「(no)information」というアーティストのセルフタイトルアルバムをデジタルリリースしました。実は(no)informationは今日来てくれている、坂本拓也氏が一人で活動しているユニットです。一人だからユニットでもないか(笑)この(no)informationは無加工なドラム、ベース、キーボードのプリセット音で全編が構成されていて、ドラムとベースがビートを刻んで、そこにキーボードが絡むんだけど、それはグルーヴを目指すようなものでもメロディーやハーモニーで魅せるような楽曲でも全然なくて、不規則だし急に変化するし唐突に終わるし、聴いてて「お、ちょちょ、え、ん?」みたいなね、古い言い方をすると「膝カックン」的なね、頭に?が増殖していくんだけど、でもそれがとても気持ちいい!病みつきになるというか、もっと欲しくなるんだよね(笑)

今日はイタリアンの名店Saizeriyaで、坂本拓也を丸裸にしていきますよ。

坂本 レントゲンを通して骨まで見せますよ。骨の髄まで。

木下 まずは基本事項から。何年生まれだっけ?

坂本 1977年です。

木下 どこで生まれたの?

坂本 東京生まれ東京育ちです。大森っ子です。

木下 兄弟は?

坂本 四つ下に双子の妹がいます。

木下 妹さん達が生まれた時は坂本君はまだ四歳だから親に甘えたい年頃だと思うけど、妹さん達に嫉妬したりしなかった?

坂本 それは全くなかったです。うちは祖父母と同居してて、朝起きたらすぐに二人のとこに行ってました。朝ご飯を一緒に食べたり、割と一緒にいたんですよね。だから寂しいとか、かまってほしいみたいな感情は無かったです。

木下 なるほどね。祖父母から受けた影響って何かあったりする?

坂本 同居してたのは母方の祖父母なんですけど、割とハイカラな人だったんです。朝食にコーヒーやチーズトーストを食べたりしてましたね。海外旅行もしょっちゅう行ってたらしくて。記念写真がいっぱいありました。

木下 海外文化が当たり前のようにあったのかな。例えばベタだけど、西洋絵画が飾ってあったりとか?

坂本 あったような……でも図録とか書籍はいっぱい並んでました。母によく美術館に連れて行ってもらてたし。母はデザイン事務所で働いてて、劇団のポスターのデザインをしてたって聞いたことがありますね。

木下 坂本くんのお母さんはハイカラな祖父母の影響をダイレクトに受けてるわけだよね。

坂本 そうですね。母は特にイギリスが好きで、ビートルズにどハマりしたんですよ。武道館の初来日公演も行ってるし。

木下 おお、それはすごい!その話も聞きたいね。

坂本 かなり面白いと思いますよ。60、70年代の日本って西洋の影響をもろに受けてる世代ですからね。激動の時代。

木下 だよね。しかも地方じゃなくて、東京のど真ん中に住んでたんだもんね。

坂本 大森なのでど真ん中とは言い難いけど。それは置いといても、母からの影響は大きかったですね。父からの影響は無いです。

木下 え、無いの?

坂本 無いです。

木下 あらら。


2. キン肉マンよりテリーマン

木下 好きな絵本って何だった?

坂本 絵本だと、かこさとしですね。だるまちゃんシリーズが超好きでした。それ以外だと、図鑑をよく読んでました。昆虫図鑑とか。あとは普通に戦隊モノとかヒーローものとか。

木下 それはテレビの話?戦隊モノが出てる雑誌を買ってたってこと?

坂本 雑誌です。買うよりは、小児科の待合室でよく読んでました。あ、コロコロコミックは買ってました。ビックリマンシールを集めてたから情報が知りたくて。あとは、キン肉マンですね。もうどハマりしました。キン肉マンはアニメから入ってコミックに行きました。

木下 好きな超人は?

坂本 いっぱいいますよ!ブロッケンJr.は好きだったな。僕は主人公が好きじゃないんですよ。あ、今はテリーマンが大好きですね。テリーマンが一番かっこよかったんじゃないかって大人になって思ったの。

木下 テリーファンクが魅力的なのは知ってるんだけど、そんなにテリーマンって魅力的なの?

坂本 実際の試合の勝ち星は少ないんですよ、活躍したのは最初の頃だけで。その後は主人公のキン肉マンの参謀役とかが多くて。一番有名なのが、「新幹線アタック」という超人オリンピックの競技で……

木下 有名な新幹線アタック?!

坂本 東京駅から新幹線の車両をガーッって押して、その距離を争う競技なんですよ。予選の時からテリーマンが勝つってみんな思ってたんですよね。

木下 超人のランク的にも上だろうしね。

坂本 そう。で、テリーマンが車両を「ワー!」って押すんだけど、その直後に線路に子犬がいるのを発見して「バー!」って走って「ガー!」って新幹線を止めて助けるんですよ。車両に触れたらその時点で失格になるのに。彼は自分の名誉を捨てて、子犬の命を救ったんですよ。それを見たキン肉マンがね、「世の中には勝利よりも勝ちほこるにあたいする敗北がある」っていうモンテーニュの名言を引用するっていうね。

木下 自己犠牲だなあ。

坂本 後にテリーマンに息子ができて、彼に聞かれるわけですよ、キン肉マンの家に比べてうちにはトロフィーが少ないのはなぜだと。するとテリーマンは、「自分が勝つより友人のキン肉マンが勝つ方が嬉しかったんだ」って返答するんですよ。キン肉マンも、「本当のナンバーワンは君のお父さんなんだよ」って言ってね。テリーマンはアメリカのテキサス生まれなんだけど、奥ゆかしくて、自分よりも人のために動くっていうのがね、すげえかっこいいんですよ。あ、でも最初テリーマンはヒールでね、お金のために怪獣退治をする……

店員 すいません、こちらお下げしてよろしいでしょうか。

坂本 はい。

木下 ありがとう。

坂本 初期の「怪獣退治編」にテリーマンはキン肉マンのライバルとして登場するんだけど、お金を貰わないと怪獣退治をしないヒールだったんですよ。でもキン肉マンは絶対相手に立ち向かう。弱々のダメ超人なのに。そんなキン肉マンをテリーマンは馬鹿にしてたんだけど、ある時、小っちゃい子どもが二人のとこに来て、お父さんが怪獣に襲われたから助けてくれって懇願するんですよ。そしたらテリーマンは金をよこせって子どもに言って、子どもは持ってた小銭を渡すんです。そしたら、「ボーイ、大人をからかっちゃいけないよ」ってテリーマンが言うもんだから、キン肉マンが怒って殴っちゃうんですよ。結果的には二人して怪獣を退治するんだけど、これで初めてテリーマンは本当の正義というものに目覚めるんです。この件以来二人は親友になったっていう。

木下 へー。


3. 僕の名言「何でみんなで同じ時間に同じことやるの?」

坂本 小っちゃい時って戦隊モノごっこみたいなのやるじゃないですか。でも僕はゴレンジャーで言うところのレッドが嫌で。リーダーが好きじゃなかったんです。

木下 レッドは一番人気だったけど?

坂本 レッドになるくらいなら悪役になってた。あ、イエローも嫌だったかな、おっちょこちょいでしょ?(笑)。ブルーとかグリーン、二番手か三番手が好きなんですよ。独自のオーラを纏ってる感じがして。

木下 ルパン三世でいうと、ルパンよりは次元が好き?

坂本 いや、次元よりは五ェ門ですね。孤高のイメージがある。一匹狼的なところがグループにいながら独自のオーラを放ってる。リーダーはみんなをまとめて導いて、絶対正義!的なところがあるけれど、それよりも自分を貫いてる人が好きですね。

木下 集団に属してはいるけれども全体に染まらずに独立してるかのような存在、坂本くんの幼少期もそんな感じだったの?

坂本 集団行動は苦手でしたね。幼稚園の時にね、僕の名言(笑)があるんですけど、「何でみんなで同じ時間に同じことやるの?」って母親に言ったらしいんですよ。幼稚園はすごく嫌いだった、先生にいじめられてたし。

木下 え、先生にいじめられてたの?

坂本 はい。集団行動ができないからでしょうね。

木下 叩かれたりした?

坂本 それはなかったけど、物置小屋に閉じ込められたことはありました。その時に怖くておしっこ漏らしちゃって。それ以来先生にみんなの前でズボンを脱がされて、おしっこ漏らしてないかチェックをされてたんです。全員の前で。毎日。

木下 毎日!それはひどすぎる。絶対トラウマになるよ。

坂本 そうなんですよ。だからしょっちゅう脱走してました。とにかく幼稚園は好きじゃなかった。

木下 集団行動に向いてない自覚があった。

坂本 そう、集団行動が嫌いというわけではないけど、やろうとしてもできないというか。好きなことには夢中になれるんだけど、興味がないことはやりたいと思えなくて。例えば折り紙でも、なんでみんなで同じものを同じやり方で作らなきゃいけないんだろうって思う。みんなとペースが合わない。それは今でも覚えてます。


4. 魔空空間

木下 でも日本の教育って集団行動が基本で、ていうかそれが全てだけど、小学校ではどうだったの?

坂本 幸いにも小学校じゃ嫌な担任の先生はいなかったんですよ。いじめもなかったし。

木下 おお、それはよかった!坂本君なりの集団での振る舞い方が見つかったのかな?

坂本 かもしれないですね。みんなと仲良くしてたけど、基本は自分で遊びを考えて親しい友人らと遊んでました。

木下 何人くらいで?

坂本 二人か三人。放課後に、まだ通ったことのない道しか歩いてはいけない、って遊びも流行ってましたね、自分たちの間だけで(笑)

木下 そっか、とにかく楽しそうな小学生時代で安心したよ。

坂本 あとはまあ、ファミコンで遊んでましたね。

木下 ファミコンなんだ。スーファミじゃなく。

坂本 ファミコンですね。あとは…キン肉マンとビックリマン。

木下 ファミコン、キン肉マン、ビックリマン。

坂本 宇宙刑事シリーズも好きでしたね。ギャバン、シャリバン、シャイダー。

木下 ジャスピオンは?

坂本 観てました。スピルバンまではとりあえず。でもシャイダーまでかな、面白かったのは。

木下 わかるわかる。

坂本 敵がかっこよかったんですよ。シャイダーの敵は宗教的な集団なんですよ。神官ポーという敵キャラが怖くて怖くて。ダークファンタジーの世界。他のヒーローものの悪の組織とは戦略が違ってて、地球を征服するために街を破壊せずに人間を洗脳するんですよ。怖いけど面白かった。あと、魔空空間ってあったでしょ?

木下 ビヨーンてなるやつね。

坂本 そうそう、ビヨーン(笑)。敵が地軸を操作して発生させる異空間なんですけど、あの中がシュールですごく好きだったの。あれはすごい影響を受けてると思う。

木下 それはルック?

坂本 ルックですね。すごく好き。煙の中で四角い造形が動いたり、急に大きくなったり。ビデオ合成という技術を使ってるらしく、例えば爆発シーンも全然リアルじゃなくて、逆にそのおかげで色味や光の表現が独特のルックになってるんですよ。

木下 確かに特撮のビジュアル観は坂本君のアイデアの源泉になってるのはわかるな。四次元ヤプールのキラキラした世界とかね。

坂本 そう、ヤプールはいいですよね。他だと、実相寺昭雄監督のカメラワークとかにも影響を受けてますね。

木下 俺もそんなに詳しくないけど、怪奇大作戦「京都買います」を偶然テレビで
観て、「やばい!何だこれ!」って驚いて調べたら実相寺昭雄って人が監督の大傑作って書いてあった。また観たくなっちゃったな。じゃあ、キン肉マン以外のアニメは何を観てたの?

坂本 少年ジャンプ掲載の「北斗の拳」や「聖闘士星矢」は観てたかな。

木下 普通に流行ってるのも観てたんだね。

坂本 もちろん。ていうか、今まで話したの全部流行ってるやつですよ。

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