昭和30年代、東京は芝神明、浜松町あたりをぶらぶらしていた少年によって、浜松町という土地とそこで暮らしたひとたちとのあいだに紡がれた交情の断片(かけら)がものがたれる。
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#芝大神宮
世は大正、芝神明前、櫻乱れ、紅灯ともるころ 【東京は芝神明、浜松町あたりのものがたり】
ーー 神明という所はそのころ東京で唯一の江戸情緒をたたえた場所だった。神明大神宮をとり巻いてその一郭には待合や芸者屋が集まり、また一部には矢場と称する銘酒店街があった。 め組のけんかの書割に出て来る呉服屋だの、太太餅の店などがあった。 浅草ほど大規模ではないがそれだけに、いっそう濃厚な情緒をただよわせていた。
大正半ばの芝神明について、作家の村松梢風は、昭和31年に日本経済新聞に連載された『私の
昭和30年代少年の浜松町地政学 【東京は芝神明、浜松町あたりのものがたり】
野口富士夫『私のなかの東京』(昭和53年6月25日発行)は、あとがきに、「可能な限り詳細に東京の現状をさぐって、それに明治以後の文学作品と、私の記憶のなかにある過去の東京の姿を重ね合わせてみようとしたものである。」とあり、さらに「文学作品に深入りすることは極力避けて、現在の市街のありかたと回想に重心をおいた」とあるように、著者の回想に基づいた、東京の街への再訪記となっている。
著者は、明治44年