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インドに呼ばれて 3


列車での一人旅が始まった。
寝台列車は十何時間、ずーっと砂漠の中を走っている。
とてつもなく広いラジャスターンの砂漠をひたすらに貫く列車の旅は、"深夜特急"の世界みたいなニュアンスがあってとても旅っぽい。


夜中、エアコン付きの車両の中はとにかく寒く何回も起きたりしながらも思ったよりも気持ちよく眠り、朝のがやがやと賑やかな声で目が覚めた。

一番上の寝台から下を覗くとそこは大家族の家のリビングみたいになっていた。たくさんのファミリーが朝食を食べていた。
おばさんたちがお茶とスナックと食べながら延々とマシンガントークをする様子は、世界共通のように思える。

途中駅から乗り込んできた物売りたちが、チャイや軽食を大声を上げながら売り歩いている。
3段の寝台は日中、下段は椅子、真ん中は背もたれになってしまうんだけど、一番上は一日中そのままだからゆっくりと過ごすことができた。

タール砂漠のオアシス ジャイサルメール


ジャイサルメール駅。どこか品がある。


ジャイサルメールに着くとまずはリクシャーで城塞のぐるりを周ってもらった。
ジャイサルメールは砂漠のど真ん中、もう少し西に行くとパキスタンとの国境だ。
今までよりずーっと西にきて、景色がずいぶんと変わった。

町の中心には城塞があって、町の旧市街が城壁に囲まれていた。
イスラムの匂いのする建物はどこも砂岩らしい砂の色。
ジャイサルメールの別名はゴールデンシティだ。
城壁の高台に登ると乾いた風が気持ちよかった。

ジャイサルメール城


翌朝、ツアーに組み込まれていた、砂漠でのキャメルサファリに参加した。
何組かの欧米からの旅行者たちと一緒にジープに乗せられ砂漠の中のキャンプまで行く。

みんなでラクダに乗って丘の上まで行ってサンセットをみたり、夜は外でご飯食べながら、地方の伝統的な舞踊を観たりして、ゲルみたいな簡素な建物で1泊した。

砂漠というのは、日が出ているととにかく暑く乾ききっている。汗をかいても一瞬で乾いてしまう。
ラクダに乗って風を浴びる分には気持ちが良かった。とにかく喉は乾く。
日が落ちるとがくっと気温が落ちて肌寒かった。


キャメルサファリはガチガチにツアーなので基本参加者たちと団体行動。
その日参加していたのは、カナダから来た若い夫婦、カナダ人のバックパッカーのお姉さん、フランス人のカップル、ドイツの大学生のお兄ちゃん2人組、それにおれ。
現地に着いてまず、ティーブレイクをみんなでするんだけど、
カナダの夫婦の旦那さんがイニシアチブを取り始めて1人ずつ自己紹介。

もちろん全員英語で話すんだけど、唯一おれにはなんとなくしか聞きとれない。
おれもめちゃくちゃ片言で「日本からきて一人旅をしている」くらいの自己紹介をするも、「日本いいよねー」 「ヒロシマ、ナガサキは大変だったね」とか言われてもろくにリアクションできない。
日本にいれば英語が喋れるということはプラス要素みたいだったけど、日本を一歩出ると、英語が喋れるのがスタンダードで喋れないのがマイナスなんだ。
もどかしくて悔しい気持ちになった。

ただ、みんな唯一英語が苦手なおれにも、嫌な顔一つせずに、わかりやすくゆっくりとした英語でちょこちょこ話しかけてくれたり、なんとなく仲間に入れてくれた。

欧米人には特有の余裕と自信を感じる。

ラクダ引きの少年の自撮り。うっかりカメラを貸したらしばらく返してくれなかった。


タール砂漠。地平線に沈んでいく夕陽。ラクダ。とにかくゆっくりとした時間が流れていた。日差しがとにかくきつかった。



ブルーシティとホワイトシティ

ジャイサルメールからジョードプルという町に向かった。
東へ少し引き返すような方角、たしか6時間くらいの列車移動だった。

ジョードプルは庶民的で賑やかな町だったけどこれといってやることはなかった。
ツアー会社のプランで、3日くらい滞在したけど時間を持て余し、毎日町をうろうろとほつき歩いた。

賑やかな市場。今までの旅で一番、観光地というイメージじゃなく人の生活を覗くことができた。


迷路みたいに青い建物が並ぶジョードプルの町を毎日うろうろした。
市場はたくさんの人でごった返していて、町の中心にある時計台のあたりは小さな憩いの場になっていた。

道端でコーラを買って涼んだり、大学生に混じって屋台でお菓子を買い食いしたりした。

現地の食べ物(ていうかカレー)に飽きてきていて、小さなモールの中に見つけたマクドナルドや、ホテルの近所のKFCならぬAFC(アメリカンフライドチキン)なんかに行ったりした。

夕方のマクドナルドでは学生たちがダベっていたりしてなんら東京と変わらない。
ただ、普通の食事なら100円も出せば食べられるインドで、マクドナルドは日本とほとんど変わらないような値段。
物価の安いインドではマクドナルドはちょっとリッチな店なので、入口にドアマンがいたり、お客さんもわりと身なりの良い人ばかり。


AFCはわりと美味しくて何回か行った。
ある時、部屋に持ち帰るチキンを注文して待っていると、店の前にバイクを止めて細いジーンズを履いた若い女性が店内に入ってきた。
サリーを着ていない独身の女性が一人で町にいるなんていうのはあまり見慣れない光景だ。

注文を済ませると彼女は隣に座って待っていたんだけど、もの珍しさからか、彼女から声をかけてきて、待ってる間少し話をした。
彼女は働きながら一人で暮らしていて、仕事終わりに晩ごはんを買いにきたらしかった。
店内のスクリーンで流れていたインド映画のあらすじみたいなものをなんとなく説明してくれたりした。

都会とはいえないくらいのサイズの街だけど、東京とあまり変わらない生活があるように見えた。

町の高台からちらっと覗くブルーシティ


ジョードプルでのなんでもない日常の生活に溶け込むうちに、この先まだ1ヵ月近くもあるインドの生活がなんとなく辛く感じてきた。
ここまできて初めて時間と余裕ができると色々なことがクリアに見えてきてたんだろう。

毎日一歩外に出ると色々な物事に警戒し、訳の分からない詐欺師をなんとか追い払い、ジュース1つ買うんでもボッタクリからしっかり値段交渉をして買う。
なんとなく人をあまり信用できなくなって、みんな悪者のような感覚に陥る。
部屋に帰れば、冷たい水のシャワーを浴びて、薄汚れたシーツの上で眠る。

やっていることは自分が想像していた旅なんだけど、何が楽しいのかわからない。
絶対に次の旅があるなら、もっと清潔でホスピタリティ溢れる西洋の観光地とか、ビーチリゾートとかに行こうと強く思っていた。

このまますぐにでも飛行機か何かでデリーに帰って1ヶ月、帰国する日まで綺麗なホテルで沈没生活をして時間を潰すのも楽しいだろう。
そんなことを悶々と部屋でずっとそんなことを考えていた。


かと思えば「めちゃ楽しい」とはいかないけど「まあこれはこれでいいんじゃん」みたいな時もあって、なんとなくバランスを取りながら、修行に励んでいるような感じだ。
気分なんてものはコロコロと変わる。

"本当に嫌な思い"をしたいという思いで、1ヵ月半という期間と、インドという場所を選んだので、狙い通りではある。

"旅"や"バックパッカー"という言葉に縛られずに、どうでもいいからとにかく自分でやりたいように旅すればいい、ということが感覚としてわかってくると、少しずつ楽しめるようになってきた。

ジョードプルの町


ジョードプルからは寝台バスでもう少し南のウダイプルという町に向かった。
ジャイサルメールのキャメルサファリで一緒になって、ジョードプルのホテルのブレックファーストで再会したドイツ人の大学生たちとまたもや同じバスだった。
どこのツアーもだいたい同じようなルートなんだろう。
彼らはこのままムンバイまでツアーで南下して、その後ゴアのビーチにサーフィンしにいくらしい。

ウダイプルに着いたのはまだ夜も白まない明け方だった。
ホテルのチェックインまで時間もあるし、まだ町も真っ暗で、とりあえず宿を取って休憩することにした。
バス停で待ち構えていたリクシャーのドライバーに知ってる安宿まで連れていってもらう。

外からシャッターを叩いて宿の主人を起こして、なんだかんだ500ルピー(800円)くらいは取られたけど、なんとか部屋を確保した。


ウダイプルはラジャスターンの一番南の町。
町の中心には湖があって、そこに真っ白い宮殿が浮かんでいる、ホワイトシティというだけあってわりと上品な雰囲気だ。

町自体はこじんまりとしていて、宮殿の周りにすこし洋食のレストランやカフェがポツポツとある以外は平均的なインドの町並みだった。

メインストリート。インドの雑多さはあまりなくのんびりしている。


サドゥ(修行者)の昼寝。インドの人はひまだと基本そこら辺で寝ている。


これからからのツアーの予定は、アフマダーバードという町を経由して大都市ムンバイまで列車で丸一日以上かけて南下するようなものだった。

ムンバイまで行ったらまたデリーに戻るのにどれだけの時間がかかるのかとか色々考えるとめんどくさくなったのと、スケジュールの決められたツアーから早く抜け出したい、
全然自由に楽しめなかったデリーに早く帰りたい気分だったからツアーはここで終わりにして、ウダイプルから自分でデリーに戻ることにした。
残されていたスケジュールの列車とホテルのチケットをゴミ箱に捨てた。
早く自由な旅をしたかった。

やっと全て自分で決められる身軽さもあったけど、ウダイプルからデリーには何に乗ってどうやって帰るのがいいのか、チケットはどこで買うのかなにもわからなかった。
とりあえず町のチケットオフィスで翌日のデリー行きの列車のチケットを買った。
組まされたツアーである程度旅に慣れて、ここからは宿も列車も全て自分で手配する。
完全な一人旅が始まった。

ジョードプルのホテルで仲良くしてくれたお兄さん。絶妙なポージングで写真撮ってくれと言ってきた。



インドに呼ばれて 4  デリーからさらに北 ガンジス河の上流へ につづく↓


インドに呼ばれて 2 デリーからラジャスターン 運転手付きの旅 ↓

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