好きだから離れたい。

その人は、わたしのことをすごく想ってくれて
「好きだよ」と何回も何回も口にしてくれた。
「愛してるよ」も何度も言ってくれた。
今まで生きてきて、そんな風に言われたことがなかったからすごく嬉しかったし初めてもらう感情だからこそ素直に受け止めた。


「わたしのどこが好きなの?」
シンプルに疑問で。こんなわたしのことを真っすぐに好きでいてくれる人なんていなかったから。
「ぜんぶ。一緒にいると落ち着く。性格も、考え方も。もちろん顔も。」
そう答えてくれた。
「一緒にいると、楽になれる」
その人は10個年上で、世間から見たらあんまりよくない職業に就いてて。
収入はあるけど人間関係次第で途絶えることもある、悪い大人の世界の人。
いままでいろんなことを体験してて、すごく寂しい人だった。
苦しんでる人だった。
孤独な人だった。

愛情を真っすぐに受け取ってこれなかったわたしだから、常に孤独を感じていたしさびしかった。同じだった。一緒だった。その人と。

それなのに、そんなたしに真っすぐすぎる愛情を向けてくれることが幸せすぎて、怖かった。
怖くて、うれしくて、泣いた。
そしたらね、その人は何も言わずぎゅってしてくれた。
「頑張ってきたよ充分。よく頑張ったなあひとりで。つらかったよなあ。もう大丈夫。俺がいるから。」
って言うの。
「ひとりじゃないんだから」
って。
わたしの過去を話したわけじゃないのにその人は見抜いてたのか分かんないけど、そう言った。
ふわあって心が軽くなるのを感じた。
「お前は頑張りすぎなんだよ。ひとりで抱えすぎ」
こんな優しいことばを素直に言ってくれる人なんて今まで出会ったことなかったなあ。


みるみるうちに好きになった。
でもその人の仕事がうまくいかなくて、イライラしてるときがあった。
誰でもそうだと思うけど、わたしは人一倍、人の怒りの感情に敏感だ。
その人がイライラしながら
「お前だけはおれに優しくしてくれよ」
って言いながら強く、抱きしめることがあった。
こわかった。


少し距離を置いた。
わざとLINEを返さなかったり、よくないのはわたしなのにその人は会いに来てくれた。
「体調どう?」だって。
「元気になった!」
それだけ言った。
いまあなたの顔を見れたからちょっとはマシになったよ、なんて言えるはずもなかった。素直じゃないなあ。
いつもの甘い香りがしたし、いつも通りうざいつっかかり方するし、あ~あって。ほら、また好きだなって。


好きになりすぎた。
これ以上好きになったらあなた無しじゃ生きていけなくなる。
自立できなくなる。
苦しくなる。
好きだから一緒にいないほうがいいなんて思ったことなかった。
あなたはわたしにたくさんの新しい感情を教えてくれた。
好きも愛してるも。ぜんぶ。
でもたぶん一緒にいない方がお互い楽に生きられるよ。
あなたの人生の価値を他人であるわたしが決めるのもおかしな話だけど、
少なくともわたしはそう。

好きだよ。どうか幸せでいてね。


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