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感情の【重大】未処理案件(後編)


こちらの続きです。


彼女と私はいろんな体験をシェアし、思いをうちあけ、毎日のように長い時間話し込んだ。
彼女と私は当時、同じことに向き合っていた。察しのいい方はもうお気づきだと思います。『インナーチャイルド』です(私はまだ『それ』には出会えてなかった)。

彼女の壮絶体験に比べたらわたしの抱えているものなんてたかが知れていて
彼女の人生は波乱に満ちていてまるでドラマか映画みたいで
それでも、長いあいだ膠着状態だった家族との関係がすこしずつ変化していくのを嬉しそうに話してくれて
ぜったいにゆるせないと言ってたお母さんに十年以上ぶりに会えたといって写真を見せてくれたり、
実家に帰ってお父さんとお酒を飲みながら話したことを聞かせてくれたり、
分厚い氷にとざされたところに春がやってきたかのように変化していく彼女を見られてうれしかった。

彼女は恋愛にはもう懲りたというようなことを言っていて、
私も(婚約破棄みたいなかたちで別れた)彼とのこころの傷をすこしずつ癒しながら、お互い頑張ろうねと言ってた。


彼女が先に職場を去ってしばらくして、私は彼女との連絡を一切絶った。
彼女はわたしにはそんなことひとことも言ってなかったけど、ずっと家庭のある人と恋愛中だったのだ。
しかも相手は私もよく知ってる人だった。彼女も含めて一緒に飲みに行ったりもした人だった。

そのことを知ったときもう、これまでのことがぜんぶ嘘みたいに思えた。
彼女は「裏切るようなことをしてごめんなさい」と言ってきた。自覚はあったということか。
青天の霹靂のようにおとずれたその瞬間から私は心のシャッターを閉じた。
彼女の連絡にもいっさい応じなかったし、
弁解するように話しかけてくる相手の話にもいっさい耳を貸さなかった。

なぜだか私のまわりにはこんなふうに、家庭のある人との恋愛を正当化するような主張をしてくる人がいる。
「あなたならわかってくれるよね」って、私が味方になるとでも思っているかのように。


もう知らない。最悪。大っ嫌い。汚らわしい。私はありったけの罵詈雑言を心のなかで叫びながら、
彼女との友情(そんな素晴らしいものだったのかどうかも今となってはわからないけど)を自分のなかで、おしまいにした。



そのことが時空を超えて今、わたしを覆いつくさんばかりにとりついてきている。
だって理屈じゃないもん。不倫は嫌いだもん。私、そのことで傷ついたし彼とも別れることになったし。そのことを彼女も知ってるし。
認めないし。無理だし。これ以上何をどうしろと?

と、さも自分は不倫が嫌いだ。認められない。許せない。無理。だから彼女との友情はおしまいになった、みたいに思ってたけど
実は違ったのです。


お誕生日を前に、消えてしまいたいとか、いなくなりたいという気持ちが襲ってくるのの正体はこうだった。


わたし、なんのためにいたの?
わたし、なにひとつほんとのこと、話してもらえてなかったの?
わたし、あなたになにもしてあげられなかったの?
あなたはわたしを友達だと思ってなかったの?
わたしはできるかぎりのことをしたつもりだけど、
あの時間は、あの日々はなんだったの?


彼女が誰と恋愛するとか不倫とか、そんなのたぶんほんとうはきっと、どうでもよかったんだ。
彼女はわたしに、あんなにたくさん話してくれたのに
たいせつなことはなにも話してくれなかったっていうことがつらかったんだ。
わたしが一緒にいる意味なんてなかったんだな、って思ったんだ。


わかる人にわかればいい、これこそが私の言っている『それ』です。書きながら吐きそうです。
こんな気持ちを見ないように感じないように、わたしは不倫は認めません、嫌いですという態度をとって
冷たい人と思われてもいいからと、ばっさりと友情を終わらせてしまった。

いなくなりたい、の正体。まさに幽霊の正体見たり、という感じです。
別れた彼とのことをひきずるよりもずっと長く、人生最大の痛手とでもいうぐらいに膨れ上がらせてしまったのは
わたしがあのとき、この感情を感じきれるだけの力も余裕もなかったから。

気づかないふり、感じないふり、大人のふり、物わかりのいいふりをして感じることから逃げると、感情はこんな風に時空を超えてモンスター化する。


こんなに長く押し込めていたのはなぜか。
こんなにも長く、彼女のことがずっと気になっているからです。
大っ嫌いです。二度と会いたくもないし、もう思い出したくもない。

「大嫌い」は「大好き」で、「会いたくない」は「会いたい」、
極端に振り切った気持ちは、言えば言うほど反転すると今では知っているけど、
大っ嫌いだし、会いたくないし、思い出したくもない。
わかっているけど、叫ばずにはいられない。

そしてなにより、ずっと体育すわりですみっこのほうに背中をまるめて「わたしなんて」って思ってたわたし。
ごめんね、ずっと気づいてあげられなくて。そりゃそうだよね、わたしがみつけてあげられなかったら誰に「あなたは素晴らしい」とか言われても「わたしなんて」のままだよね。

大っ嫌いな彼女へ、ありがとう。思い出させてくれて、大事なわたしの一部を取り戻させてくれて。

二度と会わないけど、どうか、どこかで元気で。

お誕生日おめでとう。








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