こまじいのうち

地域って? 文京区社協の「居場所」づくりは面白い

この頃「地域」が気にかかる。「地域包括ケアシステム」を念頭に書いているのだけれど、地域って何なのだろうって。便利な言葉なので私も使っているが、実はなんだかよくわかっていないのかもしれない。そんな疑問を抱いている今日この頃、東京都の文京区社会福祉協議会(社協)の動きから目が離せない。待っているだけでは、地域の課題はみえてこない。だから「地域に入る(フミコム)」地域福祉コーディネーター制度を2012年から始め、明らかに地域が変わっていると感じるからだ。地域とは何かを考えるうえで学ぶことが多いので、備忘録的に書いておく。

制度の狭間がみえてくる
一言でいえば、地域福祉コーディネーターの活躍により、制度の狭間にいる人たち、声を自らはあげられない・あげにくい人たちの存在が可視化されている。狭間にある課題が浮き彫りになっている。狭間がみえることで、そこを埋めていく動きにもつながっている。

成果の一つが、地域の居場所づくりだ。課題を抱えた人への直接支援ではなく、まさに地域を支援することで、地域に暮らす個人を支える。立ち上げや運営にあたり、どんな制度が利用できるのか、どんな人と人とをつなげばうまく回るのか、といったことをまさにコーディネートすることで居場所づくりを支える。

駒込地区にある「こまじいのうち」という、住民が民家を活用して始めた文字通りの居場所には、高齢者や障がい者、子どもなどいろいろな人が日々集い、麻雀をしたり一緒に食事をしたりする。年間5千人ほどが利用し、全国からの視察も絶えない。ここを起点としてさらに、たとえば近くの障がい者支援施設とつながりをもつ居場所など、様々な特色をもった居場所が区内各所につくられるようになった。そこで地域の人たちが交流し、お互いどうしがつながったり、問題を抱えた人を公的な制度につなげるきっかけになったりしている。

フォーマル資源とインフォーマル資源の循環
先ほど述べた可視化とはこのことだ。行政や社協の限られたマンパワーではみえていなかった、課題を抱えた人たち。なかには「取り返しのつかない状況」の一歩手前のような状況にいる人たち。そんな人たちを公的制度や福祉団体などのフォーマル資源につなげ、ときに地域の人たちや自治会、ボランティアといったインフォーマル資源とつなげる。そのきっかけとして、居場所に集う地域の人たちが大きな役割を果たす。

地域福祉コーディネーターという触媒によって、フォーマル資源がインフォーマル資源を支えてエンパワーし、そのことでインフォーマル資源のもつ可能性・チカラが引き出され、それが今度はフォーマル資源を支えるという循環が起きているのではないかと感じる。

「誰」がという課題
冒頭の「地域とは?」という疑問に立ち返る。国は地域包括ケアを説明する際、「自助・互助・共助・公助」という言い方をする。公助は福祉事業や生活保護など。共助が介護保険。自助は自分・家族の力で健康を維持したり、サービスを購入したり。残った互助が、地域に近い概念だ。当初、国は互助を抜いた3つで説明していたが、互助を強調する意味合いからか、もとは共助の中に含まれていた互助概念を2013年ごろからわざわざ取り出して独立させている。

そこには、ボランティアや自治会、老人クラブなどが含まれていると国は説明する。「住み慣れた地域で最期まで」が地域包括ケアシステムの目指すところだ。では、たとえば在宅看取りに、ここでいう地域はどういう役割を果たせるのか、果たすことが期待されているのか。

まさかお隣さんや老人クラブに、最期の瞬間を看取ってほしいとか、延命治療の同意・不同意といったことを求めているわけではあるまい。実際レベルとしては、見守り活動や社会参加の場の提供、居場所づくりといったことを念頭に置いているのだろう。

そうだとすると、やはり医療同意をするなどの「キーパーソン」は誰が担うのかという課題がみえてくる。家族を自明の前提としていた時代はとうに過ぎ去った。従来、主に家族が担っていた役割を担うのは地域の誰なのだろうか、と。

まずは「公」が支えることから
文京区社協の試みが直接的に、この「誰」の課題を解消するわけではない。だが、インフォーマル資源とフォーマル資源との結びつきを進めることで、インフォーマルをエンパワーし、様々な課題解決に資することができる。でも、だからこそ、エンパワーをいくらしても、やはり補えない部分が浮き彫りになる。現行の制度では足らざる部分が何かが明確になる。そこでフォーマル資源があらためてそこを補うためにどのような改革をすべきか、制度をつくるべきかがみててくる。たとえば「誰」を担うのは、やはり公的な機関や、公的な信用を背景にした団体や個人になるのではないか、とか。

「地域」に頼るからには、インフォーマル資源をきっちり支える。そこをおざなりにして、いきなり「地域のみなさん、あとはよろしく!」では何も解決しない。疲弊して、やる気を失わせるだけだ。「竹やりで戦車に立ち向かえ」といっているのと本質的には変わらない。後方支援や兵站があってこそ、初めてまともに戦える。そんなことを、文京区社協の動きから感じている。

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