戦闘員を忘れるな! 第1話・赤い衝撃! ヒーローがやってきた


現在大人気放送中の、「夢幻(むげん)戦隊ヨーカイジャー」

俺は昔から、この手の戦隊ものを見る気にはなれない。

あまり深く考えずに見れば楽しめるのかもしれないが、俺はどうしても細かい矛盾点が気になってしまう。

小説を書くようになってから、それは更に酷くなった。

そこで俺は、架空の戦隊ものの人達が敵と戦ってるところを一般市民からツッコミどころをツッコまれまくる小説を書くことにした。

何戦隊何レンジャーにするかは後で考えるとして、まずは最初の「なんとかレンジャーが敵を取り囲んだところで5対1で戦うのは卑怯だと言われる」という、ベタだが笑える掴みの部分を書き始めた。

「ひでえなこれ」

そう、ひでえんだ。
5対1で戦うなんて。

いや、待て、誰だ!?

どこから入ってきた!?

自宅で執筆中の俺のすぐ横から聞こえたその声。

恐る恐る視線をやると、そこには真っ赤なスーツに身を包んだ、スーパーのお菓子売り場で視界の端に入り込んだチョコスナックのパッケージで見たような気がする男がいた。

もしかして、ヨーカイジャーの赤レンジャーさん?

「誰だよそれ。アカレンジャーは、初代スーパー戦隊・秘密戦隊ゴレンジャーのアカレンジャー先輩だけ。俺は武闘妖怪カラステングから力をもらった、夢幻戦隊ヨーカイジャーのヨーカイレッドだ」

あ~、あれ全部名前違うんだ。

ってか何これドッキリ!?

もしかしてテレビ!?

何曜日!?

何曜日のダウンタウン!?

「いや、ドッキリじゃねえよ」

ヨーカイレッドと名乗る男が腕に着いたブレスレットからカードを引き抜くと、一瞬にして真っ赤なスーツの戦隊ヒーローから普通のイケメンの兄ちゃんに変わった。

え、どういう仕組み?

まさか、本物のヨーカイレッドなんてことはないだろうな?

「だから俺は、本物のヨーカイレッド・烏丸拓実(からすま たくみ)だってば! 一瞬で変身解除しても信じない?」

確かに、俺みたいな素人に産毛が生えた程度のWikipediaにも載ってない売れない小説家が「目の前に戦隊ヒーローが現れてもすんなり受け入れてしまう説」とかの検証に参加させてもらえることより、今ここにいるヨーカイレッドが本物のヨーカイレッドだってことのほうが現実的か。

で、そのヨーカイレッドさんがなんでこんなところにいる?

「リーダーによると、俺達ヨーカイジャーがいる世界は元々不安定で……」

ちょっと待て、「リーダーによると」って、あんた赤いのにリーダーじゃないの?

「うん、リーダーは長老妖怪メガガッパーに力をもらったヨーカイグリーン。レッドがリーダーじゃない戦隊もいくつかあるんだ。ちなみに、初のレッド以外のリーダー・ニンジャホワイト先輩は、初の女性戦隊リーダーでもあるんだ」

へー、女性リーダーもいるのか。

で、そのリーダーのヨーカイグリーンさんが何だって?

「俺達ヨーカイジャーがいる世界は元々不安定で、他の世界と繋がりやすいらしいんだ。特にここ最近、こっちの世界にいる強い想像力を持った人間のところに、突然ヨーカイジャーメンバーが行ってしまうことがよくあるんだ」

なんかよくわからないけど、とりあえず飲み込もう。

それで忘れかけてたけど、あんた俺の作品に「ひでえなこれ」とか言ったよな?

「だってひでえもん。戦隊が5対1で戦ってるから卑怯だなんて」

だってそうだろ?

「こっちの世界では、俺達の戦いはテレビで放送されてる『作品』なんだよね? それ見てる?」

見てないけど。

「戦闘員って知ってる?」

見てないけどそれぐらいは知ってる。

あの、いっぱい出てくる奴…………あ!

「ね?」

確かにそうだ。
戦闘員とかいう奴らがいっぱい出てくるから、全然5対1じゃなかった。

「ヨーカイジャーは6人になったけど、それでも敵のほうが多いからね」

増えたのか。
でも戦闘員はそれ以上に多い……

じゃあこれはやめて、別のツッコミどころにしよう。

なんで敵は都合良く週1で出てくるのか。

「え? 週1で出てきてないよ?」

でも毎週毎週敵が出てきてるじゃん。

「あんたテレビ見たことないの?」

あるわ。
なかったら何曜日のダウンタウンとか言わねえよ。

「その何曜日のダウンタウンも、放送されてるその日の映像が流れてるわけじゃないよね」

うん……

「生放送以外のテレビ番組は、ドラマでもアニメでもクイズ番組とかでも、リアルタイムの映像が流れてるわけじゃないだろ? 何日間かの出来事を1週で放送することもあるし、1日の出来事を何週かに渡って放送することもある」

ヨーカイジャーも同じか。

「そう。放送が週1なだけ。規則正しく週1で敵が出てきてくれたら、俺達も多少は対処しやすくなって助かるんだけど」

でも、その敵との戦いって、台本があって、いつかは最終回が来て終わるんだろ?

「台本を読んでるのは俺達じゃなくて、こっちの世界にいる『俺達の役を演じてる役者の皆さん』だよ。俺達は、明日何が起こるかわからない、自分や仲間がいつどうなってしまうかもわからない、そんな『現実』と戦いながら生きてるんだ。それに、最終回が来ても番組が終わるだけで俺達の人生は終わらない。最終回以降も戦いが続くヒーローだっているし、中には、最終回を迎えられずに死んでしまうヒーローもいる」

そっか、あんたらにとっては台本の中の出来事が現実なんだ。

「そう。世界全体とか宇宙全体とかを危機に陥れるようなめちゃくちゃ強くて悪い奴らに必死に立ち向かってるのに、こっちの世界では『暴力で解決してる』と思ってる人もいるみたいだね」

敵を倒す以外に方法は無いの?

「ヒーローは倒さずに済む相手は倒さずに解決してるよ。怯えて暴れてるだけの怪獣は落ち着かせて帰らせたり、車を沢山壊したけど人は殺してない宇宙人は殺さずに逮捕したり」

誰でもむやみやたらと殺してるわけではないんだ。

「逆にそれを平気でやってくる奴らが、ヒーローが戦ってる悪者なんだよ」

でもそいつら、変身中に攻撃してこない辺りは優しいよね。

「してくるよ」

ん????????

「あんたマジで全く見もせずに文句言ってるんだな。敵の攻撃を避けながら変身とかしょっちゅうやってるぞ」

そうだったの!?

「たま~にいる変身を待つ悪者は、変身後の強い姿の時に戦わなきゃ意味が無いと思ってる武人タイプとか、変身後にヒーローを倒したほうがより絶望を与えることができると思ってる極悪非道タイプとか、変身後でも余裕で勝てると思ってる自信家タイプとか。どれも『理由は無いけどなぜか待ってくれてる』わけではない」

優しいから待ってくれるわけでも?

「ない。あとは、ヒーローが敵の作戦を看破して、敵が怯んでる隙に変身することもあるね」

そうだったんだ。
じゃあどうしようかな、最初の場面……

「まだこの変な小説書くつもり?」

書くよ。
ツッコミどころはまだまだあるもん。

「それも全部、よく知らないだけでツッコミどころだと思い込んでるだけなんじゃない?」

んなことはないだろ。

ってかヨーカイレッドさん、なんか薄くなってないか?

「そろそろ時間切れみたい。俺の世界に帰る」

時間切れとかあるのか。
なにげに貴重な体験だった。

俺は頑張って小説書くから、あんたも頑張って、敵の世界征服止めろよ。

「世界征服?」

え?
なんで疑問形?

敵の目的って世界征服じゃないの?

待って待って待って消えるな消えるな消えるな!

気になるところで消えるな!!!!!!


【to be continue……】







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